ゼミ授業用レジュメ。 | 湖南省で日本語教師

湖南省で日本語教師

湖南省の某所で日本語教師をやってます。専攻は中国語で、まだまだペーペーですが頑張ってます。

現在ゼミでは翻訳と、会話力向上のために1分間スピーチを行っています。おそらく今度の土曜日で翻訳は終わるでしょう。それにあたり僕はレジュメを作成しました。先生の許可ももらい、今度の授業で同じゼミ生に配布するつもりでいます。


作成しようと決心するに至った理由は2つあります。1つは、将来自分の翻訳理論本を世に出すためのアウトプット作業、もう1つは、今の1年生がやばすぎるということ。やばすぎるっていうのはここではマイナスの意味でです。実力が足りないのもさることながら、何よりやる気が感じられないのです。


先週の授業で、皆があまりにも大学院をバカにした態度をとっていた(詳細についてはtwitterのほうで・・・)ので、その場でブチ切れようかと思ったのですが、先生の手前ということもあり、その場は怒りを何とか抑えました。


んで、今回みなに配布する予定のレジュメです。今日また先生に見せて、OKがもらえたらこれをそのまま配布します。




~気付いたこと3点~

1.“翻译后感”:翻訳をすると、いくつもの困難が立ちはだかることに気づくかと思います。その内の

一つが、今回の“爬山族”に見られる「対応する決まった訳語がない固有名詞」です。今回のような場

面に直面した時には、まず「翻訳とは異文化の紹介である」ということを頭に思い浮かべてください。

原文では、冒頭から“爬山族可不是中国的一个民族”という、中国以外の外国人に文化を紹介している

文に感じられます。それをいきなりハイカーと訳してしまっては、作者の意向を無視していることに他

なりません。このような書き出しにはなぜか理由があるはずです。そこで、僕は原文の出典を調べてみ

ました。すると原文は、北京語言大学出版の≪学汉语Chinese Learning≫という外国人中国語学習者

向けの教材に収めされていました。(ハイカーは中国の民族ではない・・・と訳した人がいましたが、ハ

イカーは中国にだけいるのではありません。)


 僕が“爬山族”という単語をそのまま訳文に用いたことに対して、先生から「中国語がわからない人

には(“爬山族”が)なんのことかわからない」というご指摘をいただきました。ですがそのために、原

文のひと段落目の最初の2行を使って、作者は“爬山族”とは何なのか説明してくれているわけです。何

度も言いますが、「翻訳とは文化の紹介である」のです。今回の原文「给爬山族的路牌」は、このこと

を体現していると言えるでしょう。

また、今回出てきた“宁走十步远,不走一步险”という中国の諺を文字通り訳してしまった人も何人かい

ました(僕も17日の原稿には文字面に沿って訳してしまっています)。日中翻訳に限らず、翻訳をしてい

ると、「名詞は名詞に」「動詞は動詞に」というように、品詞も原文どおりに対応させてしまおうとす

る傾向がある(意識無意識に関わらず)ため、訳文がどうもぎこちなくなってしまうことがあります。そ

れに加えて、我々は同じ漢字を扱う民族ですので、文字面の意味にとらわれてしまい(望文生义)、そ

の結果、今回のように日本語らしくない日本語がでてきてしまうことがあります。以上にあげた「品詞

の等価」や「“望文生义”」を、僕は「原文の束縛」と呼んでいます。原文から如何に解放されるか、

それにはやはり日頃の弛まぬ研鑽が必要です。


2.翻訳力を向上させるためには:現在までに、日本語と中国語の翻訳に関する本が多数出版されていま

すが、そこに掲載されているのは一つのテクニックにすぎません。ある程度はそのテクニックに頼って

対応できます(産業翻訳となると話が別になってきますが・・・)が、それも限界があります。翻訳が上

手くなるためには、先ず言葉に敏感になることです。そのことについては後述します。




~おススメ~

僕が翻訳の魅力に引き込まれた本。

日本語から学ぶ中国語・中国語から学ぶ日本語/王 浩智

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本校が麹町にあるISS翻訳スクールで翻訳講師を務める王浩智先生の本。「登山帽」はあるのにどうして

「下山帽」はないのか?日本語では「“入”院」で、中国語では「“住”院」と住むところに視点があ

てられているのはなぜか?外国人ならではの視点で日本語と中国語の違いを見ています。必見です。中

国語や日本語に対しての見かたが広がるかと思います。



3.授業の受け方について:今回のような翻訳で、みなさんは果たして満足なのでしょうか?学部の授業

なら、「1回や2回見て、はい終わり」でいいでしょう。ですが、みなさんは大学院生です。勉強するこ

とが仕事です。真剣になることから始めましょう。1分間スピーチもそうです。内容は別に簡単でも何

でも構いません。何10分も話すわけではなく、たったの1分間話せばいいのです。家で十分に練習でき

たのではないでしょうか。今後は以下のことを実行していきましょう。このことを習慣づけることは、

前述した「言葉に敏感になる」ことに直結しているのです。


・原文を見直す

・訳文を推敲する

・誰かに相談する
(日本人は中国人に、中国人は日本人に。また、原文を知らない日本人に訳文を見せても、違った角度から意見がもらえ役に立ちます。)

今回、みなさんは以上のことを何回行いましたか?

また、今回のように翻訳を行うとき、読み手の気持ちを考えたことがありますか?原文の真意を伝えよ

うとする気持ちがありますか?1分間スピーチを行う時も、どうしたらみんなにわかってもらえるか、聞

きとってもらえるかを意識に入れて練習しましたか?

みなさんが授業前にどれだけ頑張ってきた(予習してきた)かは、今回の訳文やスピーチのように形とな

って現れます。これは語学力の問題ではありません。意識の問題なのです。やる気とは人に伝わるもの

なのです。「日本語(中国語)が上手くなりたい」、「一生懸命勉強します」という言葉はもう十分に聞

きました。あとは黙って実行してください。お互い頑張りましょう。