内容は大企業ばかり肥え太り、中小零細企業や庶民には負担増ばかり押しつけるという希代の悪政だ。
何紙かの社説を読んでみたい。
東京新聞 「新成長戦略 奇策や禁じ手ばかりだ」
株価さえ上がれば何をやっても許されると思っているのだろうか。安倍政権が閣議決定した新成長戦略は、なりふり構わぬ手法が目立つ。国民の利益を損ないかねない政策は成長戦略といわない。
国民の虎の子の年金積立金を株式市場に大量投入する「官製相場」で株価つり上げを狙う。
財政危機だと国民には消費税増税を強いながら、財源の裏付けもない法人税減税を決める。
過労死防止が叫ばれる中、残業代ゼロで長時間労働につながる恐れが強い労働時間規制緩和を進める。
低賃金など劣悪な環境で「強制労働」との批判もあがる外国人技能実習制度を都合よく活用する。
昨年の成長戦略は安倍晋三首相の発表会見中から株価が急落、大失敗に終わった。今回はその経験だろう、株式市場とりわけ外国人投資家の関心が高い法人税減税や労働市場改革を柱にすえた。
国民の財産の年金資金による株価維持策という禁じ手まで使うに及んでは株価上昇のためなら何でもありかと思わざるを得ない。日々の株価に一喜一憂する「株価連動政権」と揶揄(やゆ)されるゆえんである。
新しい成長戦略は「企業経営者や国民の一人一人が自信を取り戻し、未来を信じ、イノベーションに挑戦する具体的な行動を起こせるかどうかにかかっている」と最大のポイントを挙げている。しかし、この成長戦略でどうやって国民が自信を取り戻し、未来を信じればいいのか。
二十年近く続いたデフレの大きな要因は、非正規雇用の急増などで国民の所得が減り続け、それが消費減退、企業活動の低下を招くという「賃金デフレ」であったことは通説だ。正社員の給与も伸び悩み、中間層が消失、一握りの富裕層と大多数の低所得者層に置き換えられたのである。
だとすれば、まずは非正規労働の増大や長時間労働に歯止めをかける。人材教育や訓練に力をいれることによって生産性を高め、働く人への適切な分配を進める。成果主義によって報酬を決める労働時間規制の見直しでは、生産性向上よりもかえって長時間労働を生む懸念の方が強いだろう。
原発再稼働を目指し、トップセールスと称して原発や「武器」を世界に売り歩き、今度はカジノ賭博解禁に前のめりだ。どうして、こんな奇策ばかり弄(ろう)するのか。正々堂々と経済を後押しし、国民が納得する形の成長戦略でなければ、いずれ破綻するであろう。
毎日新聞「骨太の方針 今や予算獲得の方便に」
安倍政権は経済財政運営の基本方針「骨太の方針」を閣議決定した。昨年と同様に、「経済再生と財政健全化の両立」を掲げ、2020年度の基礎的財政収支の黒字化という政府の健全化目標を維持した。目標達成には、大胆な歳出抑制が欠かせない。財政赤字削減に向けた道筋を示すことも必要だ。
ところが、骨太の方針は、歳出抑制の具体策に踏み込まず、目標達成の道筋も示していない。来年度予算獲得に向けた政策の羅列にとどまっている。かつては官邸主導で歳出を削減する役割を果たしたこともあったが、すっかり変質してしまった。
今年の骨太の方針にも、「聖域なき見直し」や「効率化」といった歳出抑制の言葉だけは並ぶ。社会資本整備も、厳しい財政のもとで計画的に行うとした。しかし、その半面、民間需要を誘発し、投資効率の高い事業は重点化して実施することを盛り込んだ。国際競争力強化や国土強靱(きょうじん)化、防災・減災に資するインフラも効率的に整備するという。名目がつきさえすれば進める構えだ。
膨らむ医療費は、医薬品の価格抑制策が取り上げられた。薬の公定価格である「薬価」は、薬の市場価格をもとに2年に1回改定されている。一つ一つの薬の市場価格は毎年下がっていく傾向があるため、当初案では「改定を年1回とすることを含めて検討する」とされた。だが、自民党議員が「薬の研究開発が遅れる」などと反対し、「頻度を含めて検討する」との言及にとどまった。
骨太の方針のとりまとめにあたった甘利明経済再生担当相は、自民党の会議で予算獲得に向け次々と注文をつける議員に対し、「すべて書き込むと、骨太の方針が『メタボ方針』になる」とぼやいたという。優先順位をつけ、「財政のメタボ化」に歯止めをかけるのが政治家の仕事ではないか。
骨太の方針は、国債発行額に枠をはめたり、分野別に歳出削減の数値目標を定めたりして、財政改革を進める役目を担った時期もあった。それが今や、政策項目を盛り込めば、来年度予算に計上される流れになっている。予算獲得の方便として使われるようでは、骨太の方針を策定する意味がない。
昨年の骨太の方針は、財政健全化目標達成に向けた国・地方の取り組みを具体化した「中期財政計画」を策定すると明記した。しかし、昨夏公表された中期財政計画は、具体策を示したとは言えない内容で、空証文に終わった。今回の骨太はさらに後退し、目標の達成に向けた道筋は「早期に明らかにできるよう検討を進める」と述べただけだ。その道筋はたった今示しても遅いくらいであり、怠慢と言わざるを得ない。
信濃毎日新聞「企業優遇 減税の効果はあるのか 」
企業の国際競争力を高め国を強くする―。きのう閣議決定した新成長戦略は、経済界の要望を取り入れた企業優遇策だ。
企業が稼ぎやすい環境にすれば賃金が上がり、設備投資も消費も増える―。安倍晋三首相はそんな回復軌道を描く。「好循環が生まれようとしている。成長戦略は前進している」。首相は記者会見で自信を示した。
だが、行き過ぎた優遇策は格差拡大を伴う。循環の輪から外れた人や企業に、どう手を差し伸べるのか。企業と個人を単純に対比できないにしても、バランスを欠いてはいないか。
戦略の柱は、国税と地方税を合わせた法人税の実効税率引き下げである。いま東京都で35・64%の税率を来年度から数年で20%台まで下げる。中国、韓国並みにして、国内外の企業が投資しやすくするという。
税率は低いに越したことはない。けれども法人税を1%下げると約4700億円減る。国の借金が1千兆円を超えるというのに穴はあけられない。
特定の産業や企業が恩恵を受ける租税特別措置の見直しや、赤字企業も対象にする外形標準課税の拡充など、法人課税の公平性を高めて穴埋めすることも考えられる。だが、成長に伴う税収増を充てるという経済界や経済産業省の主張は論外だ。不確実な景気を当てにはできない。結論は年末に見送られた。重い課題になる。
そもそも税率引き下げが成長を促すのか、専門家の見方は分かれる。現に企業は賃金や投資を抑え、内部留保を増やしてきた。
欧州に比べると社会保険料なども含めた企業負担は特に重いわけではない。米カリフォルニア州に本社を置くと、東京都より税率は高くなる。それでも多くの企業が立地するのは人材や市場など別の要素が大きいからだろう。
小泉政権下での規制緩和は非正規雇用を増やし、社会不安を招いた。民主党政権は企業から生活者に重点を移した。再び安倍政権が企業重視の政策を加速する。
もう一つの柱である雇用改革は、労働時間の規制を緩め、企業に使い勝手のいい労働力確保を狙ったものだ。対象者がなし崩し的に広がれば、長時間労働を深刻にしかねない。
労働者が足りないからと、新戦略に外国人技能実習制度の拡充を盛ったのも、場当たり的な企業支援の一例だ。「強制労働に悪用されている」と米政府が批判した。血の通った政策にするべきだ。
神戸新聞「新成長戦略/株価対策に偏ってないか」
政府が、新たな成長戦略を閣議決定した。
成長戦略は、大胆な金融緩和と財政出動に続く経済政策の「三本の矢」に位置付けられている。経済の好循環によって雇用が広がり、賃金も上向く。そんなシナリオを描くアベノミクスの要となる政策である。
今回は産業再興などの行動計画を掲げ、ベンチャー企業や女性の就労に対する支援から、医療や介護でのロボット活用、規制緩和、税制まで内容は多様だ。
会見した安倍晋三首相は「最大の柱は地方の活性化。岩盤のように固い規制や制度にチャレンジした」と胸を張った。だが、施策の多くは経済界が要望してきたものだ。長い目で経済成長につながり、中小企業や地方にも効果が及ぶのか。不透明な要素がある。
安倍政権は1年前、大衆薬のインターネット販売の原則解禁などを盛り込んだ成長戦略を公表した。しかし、新味に乏しいとして株価は大きく値下がりしてしまった。今回の施策は成長戦略というより、政権を支える株価をてこ入れする狙いを強く感じさせる。
安倍首相は、新たな成長戦略で国民の暮らしを豊かにする道筋を、丁寧に説明しなければならない。
首相が強調する「世界で企業が一番活動しやすい国」を目指す施策が、労働条件の悪化や国民の負担増を招くことにならないか。そう危惧せざるを得ない。
その一つが、労働時間規制の適用を除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入である。
年収1千万円以上で、職務範囲が明確な高い職業能力を持つ労働者が対象という。安倍首相は年収要件を将来的に引き下げる可能性も示唆しており、対象が広がる恐れがぬぐえない。多様な働き方を確保し、生産性を高める手だては大切だが、長時間労働を抑制する歯止めを欠いてはならない。
法人税の引き下げも同じだ。各国が引き下げに走れば、競争は際限がなくなる。企業は減税で元気になっても、国の税収が減れば財政再建も遠のくことになる。
国が競うべきは、高水準の教育や充実したインフラ、暮らしやすさなどだろう。国民の働きがいや豊かさにつながる成長戦略でなければ、意味がない。
河北新報「新成長戦略/「実感できる豊かさ」どこ
「地方が元気を取り戻し、国民一人一人が豊かさを実感できるようにすること」。きのう閣議決定された新成長戦略は、自らの最終目標をそう規定する。
その目標に向けた第一歩として、企業の「稼ぐ力(収益力)」を強化することが不可欠だとし、法人税の減税をはじめ、国が「世界に誇れるビジネス環境」を整えてサポートするとうたう。従って、戦略には企業寄りの政策が並ぶ。
だが、狙い通りに稼ぐ力が向上したとして、その収益を「豊かさ」の形で家計にどう波及させるのか。戦略目標を実現するその道筋は描かれていない。
国民の目からは、実感できるようになるはずの豊かさが見えてこない。目標を掲げてはいても、企業が第一で、国民の暮らしは二の次なのではないか。そうした疑念が消えない。
新戦略づくりで安倍晋三首相が手柄のように誇ったのは、自らが「岩盤」と呼ぶ農業、雇用、医療分野の規制緩和である。いずれも、大企業を中心に経済界が強く要望していたものだ。
医療では、保険診療と保険外の自由診療を併用する「混合診療」を拡充する。新薬や医療機器の開発が活発化し、患者にとっては治療の選択の幅は広がろう。ただ、自由診療は効果や安全性が未確認だ。安全をどう担保するのか、懸念がある。
雇用では「時間でなく成果で評価される制度」を打ち出した。残業代ゼロの仕組みで、対象は年収1千万円以上の専門職。だが、人件費を抑えたい経済界は対象の拡大を求めており、そうなれば、長時間労働に歯止めがかからなくなる恐れがある。
医療でも雇用でも企業にメリットがある。だが、そうした改革が、多くの国民にとって有益なのかどうか。医療格差が拡大し、労働者保護は後退する。そうした不安が拭えない。
残る農業は、観光などと共に「地方に元気を取り戻す」ための柱とされた。農協・農業生産法人・農業委員会改革が盛り込まれた。企業の農業参入を促すための規制緩和といえる。
それらを通じて、今後10年間で所得倍増を目指すという。ただ、注意すべきはその対象が「農業・農村」であり「農家」ではないことだ。企業が農村に入り、そこで作った農産物を加工し売って稼ぐ。それでも農業・農村の所得増となろう。
だが、その収益が農村にとどまって農家の家計を潤し、地域経済の好循環につながる保証はない。元気を取り戻すのは農家や地方ではなく、企業だけということにもなりかねない。
企業優先の競争原理がまかり通れば、格差拡大という副作用が広がりかねない。そのことは、国民一人一人の豊かさにつなげるという成長戦略の目標と相いれないのではないか。
戦略の目玉政策とされる法人税減税にしても、減税に伴う「果実」を国民にどう還元するのかが見えない。政策効果を広く社会に行き渡らせる道筋さえ示せない戦略は、戦略の名に値しない。そう言わざるを得ない。
日本経団連などの方だけを向いて作った政策だから、国民生活を向上させるなんて視点はゼロだ。
圧倒的な議席の上にあぐらをかいたやりたい放題を文章にするとこんなものになるという典型みたい。
国民の暮らしや日本経済の未来をかえりみず、財界・大企業の目先の利益を優先するとともに、政権維持のために政府による『株価操作』で株高を演出することにきゅうきゅうとする、まともな経済政策とはとても言えない代物を、許して良いわけがない。