『蝋燭町のBL浴場』


栗子(くりこ)に誘われて、蝋燭町十三丁目にある銭湯の男湯を覗きに行った。
栗子は エ ッ チ 心旺盛な子だけど勇気がなくて単独では行動できない子だからいつも誰かを連れて行こうとするし、私もこういうのが嫌いな方ではないので何度か誘いに乗ってあげて、男の人たちのあられもない姿を堪能させていただいている。
窓を僅かに開けて、長身の私がしゃがんで、背の低い栗子は立って爪先で背伸びをして、二人の女が縦に並んで男湯をこそこそ覗くいじらしさ。
夕刻前という時間帯だからたいてい爺さんしかいないけど、それでも十分楽しめる。
しかしながら、今日は違った。
爺さんたちに混じって、ぴちぴちした肉体が二体。
弾けて弾けて煌めいて、私と栗子の目が衝撃波で叩き潰されるかと思った。
脊筋が硬直して鳥肌が立って手汗脇汗が滲み、膝ががくがく震えた。
私にとっても栗子にとっても恋人にしたい男子ナンバー1とナンバー2の、北寺くんと月神くんの無防備な 裸 体 がそこにあったから。
しかもそれぞれがクリーミーに泡立てたボディスポンジを持って、上目遣いのはにかみ顔を見合わせて、お互いの肉体のそこここを愛おしげに洗い合っているではないか。
優しく甘くマイルドに、すふっ、すふっ、と、音が聞こえてきそうな、ついばむような感じでこすり合っている ヒ ワ イ な情景。
月神くんに至っては、脚で隠れて見えないけど、股間に這わした北寺くんの手の位置関係から察するに、刺激に敗れて半 勃 起 してるな、月神くんってば。
……ぼとぼとと、栗子の鼻血が降って来た。
「うー、たまらん」
「栗子、鼻血!」
「あ、ごめん……」
栗子は私の顔に垂れた鼻血を指でぞんざいに拭いながら、心ここにあらず、
「あ ぁ ん、月神くん、感じちゃってるのかな……あ は ぁ ん、北寺くんの手に、あたしはなりたいよ……あの手になって、月神くんの……(小声でゆっくり)お・ち・ん・こ・に……じかに触りたい……」
栗子の語りはそのまま私の気持ちの代弁にもなっている。
「私も ぽ こ ち ん を触りたい。栗子、自分が男の子になったと想像してみて。ほぉら、栗太郎くん、僕が い や ら し く 勃 起 した ぽ こ ち ん をいじくってあげよう」
私は手を筒状に丸めて、栗子の 股 間 前方に聳える架空の見えない ち ん ぽ を し こ し こ とこすった。
「あ、あ、そんなの反則、やめて、へんなのが出ちゃう、あ、あ、あ、出る、出る、出る、あ…………あ ぁ ん……」
男の子になりきった栗子の方角から、もわもわした湿気と、それに続いて セ ッ ク ス っぽい匂いが漂ってきた。
欲 情 臭芬々の 愛 液 を漏らしたのだろう。
「はぁ……はぁ……」
息を荒げてぴくぴくしている。
「はぁ……はぁ……ごめんね、あたし、本格的に 性 欲 がもよおしてきたから、ここで オ ナ ニ ー する」
栗子がミニのスカートと小さなパンツを下ろして私の頭上で オ ナ ニ ー を始めたから、さっき鼻血で汚れた上に 愛 液 がぼとぼと降り注いだ。
汚いなぁと思ったけど、お風呂の中がどんどん高揚しているので、目も意識もそっちに釘づけになった。
月神くん、とろーんとしてきた。
口を半開きにして、湯気のせいではなくてたぶん涎が垂れて、唇が湿ってる。
「あ、あ、あん、月神くん、い、いきそう、だね」
栗子が途切れ途切れに、喘ぎながら、実況した。
だけど先に果てたのは、北寺くん。
急激に顔をしかめて、それから目を閉じて顎を上げてのけ反った。
そして、ひと呼吸分くらいの間を置いて、月神くんものけ反った。
「い、いっちゃったのかな」
「そうみたい」
私の脳裏には二本の 精 液 の筋が ど ぴ ゅ っ ど ぴ ゅ っ と幻の軌跡を描く様子さえ映った。
「もうちょっとだったのに……同時にいきたかったな……」
そうか。栗子はまだいっていないのだ。
興奮醒めやらぬ新鮮なうちに炸裂させてあげるのが友達の務めだ。
「栗子もいけーっ!!」
目の前で ぐ ぢ ょ ぐ ぢ ょ に濡れている お ま ん こ の、ぷっくり肥大した ク リ 豆 ちゃんを指で突いてやった。
私のこの親切な行いが、運命の導火線となった。
「あ、あああああああああああああ!!!」
ばかみたいな大音量を発して目を剥いた栗子の腰がぐわらんぐわらんと崩れ、窓ガラスを割ってしまい、裸の爺さんたちと北寺くん&月神くんが一斉に私たちに矢のような視線を向けた。
びっくり顔で突っ立った北寺くんと月神くんの ち ん ぽ は二本とも、私たちがいつも一緒に見ている ア ダ ル ト 映像の男優のよりも遙かにでっかくて見ごたえがあった。
カ イ メ ン タ イ の色も黒いし、お毛毛もジャングルだし。
もったいないけど、見えたとたんに気が遠くなって視界が霞んでしまった。
たぶん急激に涙が溢れ返ったのだろう。
極度の興奮と絶望が混じり合って。
それにしても、同性の指の一突きであんなに激しくフィニッシュしてしまう栗子の情けないこと。
おかげで私と栗子は逮捕されて、過去の罪業も芋蔓式に暴かれて、退学処分と相成った。
恥ずかしくて親に合せる顔がないから家も出た。
それで自暴自棄になったというわけではないけど、栗子は「われらも女版北月になろうではないか!」と血迷い、私は基本的に エ ロ くて面白そうなことにはすぐに乗ってしまう性分だから、今は二人暮らしで、同性夫婦気取りでいちゃいちゃしまくっています。



終わり

昨日までとの違いは、わけのわからない(なんて言ったら失礼か……)荷物で一部屋埋まってしまったことと、女性の匂いが充満していてあっちこっちに長い髪の毛が落ちていること。
すっかり景色風情が変わってしまった部屋で、レッスン用に渡された、元メンバーも含めた三人が踊るDVDを観ながらダンスの練習。
初めのうちはそれでも真面目に頑張っていたのだが、刹那の胸のダイナミックな揺れに心を奪われ、いつしか座り込んで、揶揄がいないものだから刹那乳だけを凝視していると、
「うへへ、見惚れてるね☆」
「うわっ!!」
背後で揺れ胸の御本尊の声がしたので心臓がひっくり返りそうになった。
「し、仕事、もう終わりなんだ……」
「三時間しか働かないからね。それが限界。それ以上働くのは無理」
「刹那さん、バイトでいくら稼いでるんですか?」
「三万円ちょっとかな。週三日だけだからね。頑張り屋さんの揶揄のおかげで生きられてるのだ」
……彼女たちの窮乏も当然だ。

♪ 星をつぶした絵の具で、キミの似顔絵描いた
    夜明けとともに吹き荒れる、磁気の嵐に翻弄されて
    キミの絵姿は粉になって舞う
          ~『うたかたの絵の具』


出来たての曲をさっそく何度か合わせて歌った後、
「どうする? 刹那、明日早いんでしょ?」
深夜三時を過ぎているけど今から振り付けを考えるか?というのだ。
刹那は早朝からコンビニでバイトをしている。
「うちは大丈夫。明日のシフトのペアの男の子はうちらのファンだから、ちょっと賄賂を渡せば店長に内緒で仮眠させてもらえるんだ☆」
刹那はそう言いながら、思わせぶりに手で胸をぷるんと揺らした。
賄賂の内容というのは……そういうなまめかしくていかがわしい行為なのか……?
「揶揄こそ。学校でしょ」
「子どもたちには悪いけど、丸一日全部テストにする。いびきさえかかなければテスト中に眠れる」
「よぉし、ならば朝までやっちゃおう☆」
仕事に大いに支障をきたしているようなのだが、彼女たちに言わせるとそれらは所詮「副業」なのだから、解雇されない限りどうでもいいのだとか。
僕も朝までつき合って、歌を覚えようとしている演技、振付を覚えようと努力している演技をしないといけないのだろうな。
その後仕事があるのだが、僕の職場は彼女たちと違って居眠りが許されないのだ……
と訴えたら、揶揄が僕の目の奥をじーっと覗き込み、
「尾奈くん、給料の額を教えて」
ずけずけ質問してきたが……交際中の妙齢の男女なのだから、将来に備えて彼女が彼氏の収入を知っておくことにはそれなりの意味があるだろう。
「十●万●千円くらい……」
「そう。少ないね。無くてもなんとかなりそう。尾奈くんは仕事辞めて。私と刹那が養うから、尾奈くんは歌と振り付けのレッスンに専念して。お金の面では今よりもさらに苦しくなるけど、しかたない。私たちの成功のためには、目先のお金よりも尾奈くんが上達するほうが大事」
ここまで容赦なく命じられると、プライドはおろか悲哀すら残らない。


とはいえ、会社を急に辞めるわけにはいかないので、徹夜&踊りすぎでフラフラしながらも出社の支度をしていると、揶揄が、
「もしもし、私、尾奈くんの保護者……はい。こちらこそお世話になってます。単刀直入。尾奈くんはアイドルにならないといけなくて忙しいから会社を辞めます。え? いえ、そんなことは。はい。え? あ、あはははははは……はははははははははは……。では。失礼します」
最後のほうの馬鹿笑いが気になるところだけど、三十秒足らずの電話で数年まじめに勤めた会社の退職の手配を完遂された。
「私が交渉して、会社に行かなくていいようにしてあげた。退職金は出せないって言うから笑っちゃった」
……了解。

尾奈は淡島二菜にすっかり夢中になった。
「淡島さんって、美人だな」
とにかくなんでもいいから淡島二菜に関する情報を得たくて、休み時間、旧友の中でいちばん仲のよかった森清鳩(もり・きよはと)に話題を呈示してみた。
「あー、淡島か。顔はな。……体もか。たしかに、見た目はいいんだけど……」
森清鳩はにやにやしながら、思わせぶりに言葉尻を濁した。
「彼氏とか、いるんだろうな」
「いない。絶対にいない。少なくともこの学校には。賭けてもいい。学校の外ではわからないけど、絶対に長くは続かない。あんなダメ女を愛し続けられる奴なんか、いるわけない」
森清鳩は汚物を吐き捨てるような口調で断言した。
「モテないのか……?」
「モテない。あんなのがモテるわけがない。転校してきた最初はモテてたけど、三日で全校からモテなくなった。というか卑下の対象になった」
淡島二菜は嫌われ者なのか?
ああ見えて、実は非情な極悪人だったりして……。
尾奈は不安になった。
「……淡島さんって、悪い人なのか?」
「いや。悪人ではないな。あいつのやること全部、悪意はなさそうだから、むしろ善人かな。ある意味、純粋無垢ともいえる」
だったら何がよくないんだろう?
「淡島がどうしてモテないのか、尾奈にもすぐにわかるよ」
森清鳩は尾奈の肩をぽんと叩いて、下手な口笛でどこかの民謡を吹きながら去って行った。
要領を得ないが、まあいい。
とにかく淡島二菜はあんなに美人で 巨 乳 で、太腿とかも美味そうなのに不人気だということはわかった。
価値観が歪んだ人間が多いのだろう、この学校には。
連続殺人事件が影響してるのかもな、と思うことにした。
とにかくライバルが少ないということであり、それならば、あわよくば俺が!と尾奈が奮うのも自然の摂理だ。
新メンバー加入と合宿所移転を祝って、ささやかだけど盛大な宴が催された。
とはいっても、僕が有事に備えて備蓄していたインスタントラーメン五袋をすべて茹でられ、冷蔵庫のビールを飲み尽くされただけだが。
彼女たちは本当に貧しくて飢えているらしく、かわいい顔をケダモノっぽく歪めてガツガツ飲食した。
が、これだけで一日が終わらないところが彼女たちのすごいところだ。
腹を満たし終えると、揶揄が姿勢を正して神妙に座り、たどたどしく、鼻歌を歌いだした。
基本的には同じフレーズを繰り返しているのだが、ところどころ高低やリズムに変化をつけている。
合わせて詞も作っているようで、フレーズに乗せる言葉を試行錯誤し選んでいる。
やがていくつかのフレーズが集まって、次第に曲らしい形をまとってくる。
小学校六年生の終りまでピアノを習っていたという刹那が、シンセサイザーをアンプ代わりのラジカセにつなぎ、揶揄がたどたどしく紡ぐ歌声から音程を拾う。
楽器で演奏されることによってメロディーがきっちりと補正され、完成する。
「できた。じゃあこれから私はお風呂で詞を完成させる。尾奈くん、お風呂を貸りるよ」
「うちは伴奏を作っておく。がんばろうね☆」
「うん」
二人はハイタッチして、それぞれの仕事についた。
風呂からは時々ちゃぽんと湯の跳ねる音がするだけで、揶揄はとてつもなく長い時間、風呂にこもった。
刹那は売れないミュージシャンだった父親の形見だというアナログカセットテープ方式のマルチトラックレコーダーを使って、何パートも音を重ね、正確無比な演奏で手際よくテクノポップ調のサウンドを作り上げた。
彼女たちはアイドルであるとともに正真正銘のクリエーターでもあるのだ。
二人の本気度に、アイドル活動に懐疑的な僕も多少は感銘を受けざるをえなかった。
授業が始まると、淡島二菜はすぐにうとうとし始めた。
美しく通った鼻筋からくぅくぅ寝息を立ててうなだれている彼女が時々がくんと崩れそうになるたびに空気が揺れ、甘い香りがふんわり漂ってくる。
この匂いはどう形容すればよいのだろう。
美女に相応しい体臭に、ストレンジでファニーな要素が混じっている。
ほのかに懐かしい、だけど今まで嗅いだことのないような香料の、鼻腔を突く鈍い疼痛に似た痺れが尾奈をふんわり包み込む。
そして、彼女が舟を漕ぐたびにまっすぐな長い黒髪がさらさら揺れるのが尾奈の視界の隅に映る。
髪に反射して生じた光の粒々が網膜を優しく刺激する。
どうしても彼女が気になり、時折ちらちら盗み見ているから。
服がだらしなくはだけて、襟のリボンとボタンが外れて胸元が見えている。
ブラジャーも乱れていて、豊かすぎるふくらみの上半分が覗いている。
肌は柔らかそうで透明感にあふれているのだが、見え方がだらしないから ヒ ワ イ このうえない。
巨 乳 をちらつかせている時点で魅惑の塊なのだが、お嬢様みたいな風貌とのギャップが魅力をさらに増幅している。
尾奈は当然の如く、授業なんぞにまったく集中できなかった。
分泌激増の唾液を飲み込むだけでも多忙だった。
「あいやーお尻……拭くの忘れました」
とか、
「いつも濡れてるからかぶれてかゆくなるんですぅ……」
とか、
「もう二度とおもらししませんから避けないでください……」
とか、彼女は頻繁に不穏な寝言を紡ぎ出していた。
これについては、尾奈自身の耳の機能に起因する幻聴の類だと思うことにした。
尾奈がその時、聞こえたままを素直に受け入れて二菜の人格を判断していたら、後々あんな気持ちやこんな気持ちを味わうこともなかったかもしれない。
それが尾奈にとっていいことなのかよくないことなのか、今となってはすべてが霧に包まれて誰にもわからないのだが。

揶揄はおびただしい衣装を両腕でぎゅっと抱えた。
日中の屋外で着用して踊りまくって、しかも洗濯機を持っていないものだからかなり汗臭くて残念なことには、深く言及しないでおこう。
刹那は二人の小物類や家電品をいくつものカバンいっぱいに詰めた。
女性一人で持っているからといって、少ないわけではない。
刹那が小柄な体に似合わず力自慢なのだと思ってほしい。
そして僕は、両手で刹那が曲作りに使っているシンセサイザーを抱え、アナログな録音機材と何十枚もの販売用自家製CDを入れたリュックを背負った。
新たな合宿所の二間のうちのひとつは、これら荷物に占拠されることになるのだろう。
がやがやと騒々しく、錆びた鉄の階段を上ってアパート二階の新合宿所に入ろうとしていると、ぼさぼさ頭を掻きながら、隣室の大学生が出てきた。
「あ、大声で変な歌を歌いながら歩いてた人たち……尾奈さんのお友達だったんですか。え? 何? 衣裳部屋? 芸能事務所?」
美女二人とぴらぴらした派手な衣装を見て、大学生は目を白黒させた。
刹那はカバンを置いて、
「うちらはこむラブっていう、そのうちものすごく有名になる予定のテクノアイドルユニットをやっていて、今日からここはうちらの合宿所になったの。お隣がかっこいい人でうれしいですっ♪ 応援してくださいね☆」
ここでもファンの開拓に余念がなかった。
両手をぎゅっと握られて、にっこり微笑みかけられた大学生は、緊張するやら戸惑うやら作り笑いを浮かべるやら鼻の下を伸ばすやら密かに 勃 起 するやらで惑乱して、どう対処していいのかわからなさそうだった。


……淡島。あわしま、泡島。ソープのアイランド。ランド。二菜。にな。ひっくり返したら、ナニ。美人だから丁寧に扱わないといけないから接頭語をつけたら、お ナ ニ。うひゃぁ、なんとも ヒ ワ イ な……
こんな具合に初対面の人名を失礼な形に解析して楽しんでいる尾奈は、前述のように、半年前にとある事情で遠隔地へ転出したのだが、昨日一人で舞い戻ってきて、今日からこの学校に復帰した。
親から仕送りをもらって、一人で暮らすことになったのだ。
尾奈のいない半年の間にこの学校では未解決の猟奇殺人事件が連続して発生していることは、彼もニュース等で熟知している。
被害者はいずれも全裸の男性で、生徒たちが何人かと、先生もちらほら。
一様に 肛 門 を破られ、衝撃波で脳髄も破壊され、いずれの遺体もズタズタに避けた 肛 門 の奥地に 精 液 がたっぷりぶっかけられていることから、男性 同 性 愛 者による犯行と思われている。
レ イ プ によるものか同意の上での行為中の出来事なのかは証拠不足でなんともいえないが、衣服がきれいに脱がれていて抵抗の跡が見受けられない点から、同意の上での行為である可能性が高い。
被害者の人柄を知る者の証言により、被害者の多くは明らかに 同 性 愛 者でなく純然たる異性主義者であると思われる。
それなのにこのような事態に遭遇したということは、犯人変装等によりものすごい美女と化していたことも考えられる。
警察はあらゆる犯罪的 同 性 愛 者のDNAとの照合を行ったが、手がかりはつかめていない。
この先も事件が絶えないようであれば、生徒も含めた学校関係者の男性全員を対象に 精 子 鑑定が実施されると噂されている。
つまり、みんな 射 精 して 精 液 をよこせ!と公権が強制することだから、人権その他の問題でなかなか実行できずにいるのだが、更に犯行が続くようであれば仕方のないことかもしれない。
いずれ命じられるかもしれない オ ナ ニ ー 合戦のプレッシャーが男性諸氏の心に重くのしかかっている状況である。

彼女たちが僕の安ボロアパートを高評価するのもうなずけた。
世の中には、二十代の美目麗しい女性なのにこんなひどい居住環境で暮らしている人たちもいるのだな。
二人で家賃を出し合っていて、しかもそのうち一人は教員なのに。
僕のに輪をかけたクソボロアパートの一室……と称するのももったいない。
これはただの、四隅と上を覆う薄い板で雨露をかろうじて防げるようにした空間の中をいくつかに区切った一個にすぎない。
ボロいし狭いし暗いし臭い。
「笑わないで」
「笑ってないよ……」
笑ったりしていないのだが、揶揄に睨まれた。
僕は頭の中でこの建物を誹謗中傷しただけで、言葉にしたわけではないのだが、僕の顔色に明らかな見下し感を感じ取ったのだろう。
「尾奈くんにはまだわからないかもしれないけど、アイドルやるのはお金がかかるの。売れないうちは活動に見合った収入がないから、やればやるほど損をして、困窮から抜け出せないのさ。家なんか、雨露がしのげさえすれば上等。お風呂がついてるなんて天国だよ」
刹那の口ぶりには痛々しいほど実感がこもっていた。


ぎっしりと積み重ねられた大量の荷物を運び出してぽっかり空いた部屋は埃だらけで壁が曲がって荒涼としているけど、三人の女性が寄り添って夢を語り合った、甘酸っぱい熱気と匂いが陽炎の残滓のように揺らいでいた。
目に涙を浮かべて名残惜しそうに去り行きかけた刹那を、
「ちょっと待って」
揶揄が呼び止め、どこからか取りだした日本酒の小瓶の中身を口に含み、部屋の中に向けて、
「ぷはぁーっ!!」
時代劇で医者が消毒用にするみたいに、霧状に噴霧させた。
「思い出が詰まってる。感謝とお別れの気持ちを捧げた」
と、言ってることは美談だが、やってることは部屋を酒で汚しただけであり、まったく迷惑な奴だな……。