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「美羽(みわ)ちゃん、昨日電車に乗ってたでしょ。あたしすぐ近くにいたんだよ。鞠川にねちねち絡んでたよね。あはは、痛快痛快!」
絢(あや)ちゃんが本当に痛快そうに私の肩をぽんぽん叩いた。
絢ちゃんは女の子らしい、とてもかわいい子。
たぶんこの顔は、男の子が見ても女の子が見ても、かわいいと思う。
そんな顔をして「痛快痛快」みたいな、昔の豪快男子とかしか使わないような言葉遣いを時々交えたりして、そのギャップがまたかわいい。
友達なんだけど、憧れの対象。
自慢の友達。
私は絢ちゃんと友達になれたことを誇りに思っている。
あまりにも眩しすぎるから、絢ちゃんは屈託なく接してくれるけど、私は心の中で、同等ではないとランク付けしている。
それはいいとして……
絢ちゃんもあの電車に乗っていたんだ!
紗季とキスしてしまったのも見られてるかな?
まぁ、見られてても問題はないんだけど。
あれは不可抗力だから。
「で、勉強会とか言ってたよね。どうやったらあんなに男を侍らせられるのか講義させるんでしょ? 面白そう! 鞠川の反応はどうだった? やっぱりうじうじしてたのかな? あいつ、男がいなくて女だけの時は弱いから。それとも意外と、喜んで先生役を引き受けたのかな? あいつバカそうだからいい気になって。あー面白くなってきた! どうやっていじめようかな? 楽しみだね!」
絢ちゃんは私が電車の中で思いつきで喋った「勉強会」という名の責め会のアイデアに、すっかり乗り気になっている。
私ににゅーっと顔を寄せてきて、
「で、いつやるの?」
甘い息がかかる。
飴の匂いが配合されている。
それを嗅いで、私はまたしても昨日の紗季との口づけを、リアリティを伴って思い出した。
紗季の匂いは甘くなかった。
ざらついた、生々しい息の匂いだった。
そして、甘酸っぱい体臭。
着込んだ服にしみている、汗の匂いも混じっているのだろう。
ぜんぜん性質が違うのに、匂いというものを意識するだけで紗季を思い浮かべてしまう。
ありありと、目の前で形になる。
私はどうかしてるんだ……。
「美羽ちゃん、大丈夫? ボーッとしてない?」
絢ちゃんの怪訝そうな顔。
すぐ目の前。ボールペン一本分の距離。
目を丸く見開いていて、ひときわかわいい。
紗季なんか足元にも及ばない。
「あ、大丈夫! ちょっと寝不足」
「そっか。遅くまで悪さしてたんじゃないの? こいつう!」
へその辺りを拳でぐりぐりされた。
意味ありげな口調で、顔がにやけている。
「悪さって…………違うよぉ! いやだー、絢ちゃんが考えてるようなのじゃないですっ!」
……と答えつつ……
図星だ。
時々 エ ッ チ なことを言ったりする絢ちゃんのことだから、適当に エ ッ チ っぽいことを言ってみて私をからかっただけなのだろうけど、見事に当たっている。
私は昨日の夜遅くまで、悪さをしていました……。
正しくは、“昨日も”。
ほとんど毎日。
しかも……絢ちゃんの面影を借りて。
もちろん、絢ちゃんには内緒で。
男の子が嫌いなわけじゃない。
何度か経験もあるし、それなりに……いや、すごく、気持ちいいと思う。
でも、私だけの世界で、他に誰も入ってこない場所で、エ ッ チ の相手をしてほしいのは絢ちゃんだけ。
絢ちゃんは私に愛しげにキスをしながら、ぎゅっと抱きしめてくれる。
そして私がうっとりしていると、不意に、絢ちゃんの指が……
プロ級の腕前のピアノで鍛えられた、見かけによらずたくましい指が、私の恥ずかしいところに……
あぁん……
これ以上考えたら今この場所で濡れてしまいそうだから、やめておくけど……
憧れが高じて、いつ頃からか、私は妄念の中で絢ちゃんに疲労を与えてもらってから眠るようになった。
大切な習慣。
たぶん……今宵も。
だからそれまで、へそぐりぐりの感覚が消えてしまいませんように……。
「ほら、またボーッとしてる。今日の美羽ちゃん、ちょっとおかしいよ。大丈夫? 熱でもあるんじゃない?」
絢ちゃんは、母親が子供の熱を計るみたいに、互いの前髪をかき上げて、おでこをくっつけてきた。
ぬくもりのあるおでこ、顔にかかる息、黒髪が触れるくすぐったさ。湿り気。
激しい動悸を悟られそう。
すごくうれしいけど、やめて……ここでは。
離れてくれないと、へんな気持ちが抑えられなくなるよ……。
そう。私はおかしいし、熱もある。
でも……
熱を持っているのは、おでこよりも……
どうしてだろう……唇と、胸の表面なの……。
どうしてだろう…………。