古典技法額縁制作修復 KANESEI -3ページ目

どこもかしこも

 

先日、ドイツ人でベルリン在住の友人Kと電話していたのですが、彼女は自分のお店(自作の革製品を販売するお店で奥は工房になっている)を閉じようと思うとの話。

あんなに頑張っていたし楽しそうにしていたのに、なぜ?と聞くと

「お店のある通りは今はほとんどのお店が閉めてしまった。人通りも減ったからお客さんも来ないし、賃貸料の支払いも大変だし・・・」

 

Kはネットでの販売もしていますが、「2018年頃は売れ行きがすごく良かったけれど、コロナ後は全然。食品の価格も倍になったし、3つ目のバッグを買う人はいないのよ。」との事でした。

 

 

ミラノ在住でフィレンツェ留学時代の友人Fの話。

彼はとても有名な家具修復工房の3代目で、腕も人柄も良くて安泰と思いきや、「いわゆるクラシックな古い家具って大きいから広い家が必要だけど、若い人はもう大きな家に住む余裕は無いしね。それにこうした家具は時代遅れでもう好まれないからさ、今ある修復の仕事はすべて以前からのお客さんで、それもお年寄りばかり。彼らが亡くなったら家具は二束三文で売られちゃうか捨てられるだろうね。」と言っていました。

超絶技巧で作られた家具、昔は箪笥2竿でマンション一件分の価格でした。今まで繰り返し修復し大切にされてきたけれど、それらも顧みる人が居なくなる。

 

時代の流れ、と言えばそれまでだけど。

 

 

どこもかしこも(ドイツとイタリアだけですが)、嬉しい話はあまり聞けません。

バイデンさんとトランプさん、ゼレンスキーさん、プーチン氏、イスラエルとパレスチナ、その周辺、そして中国、北朝鮮。他にもわたしが知らないだけで、もめ事は尽きない。

 

回りまわってわたしたちの日常も不穏ですね。

どうしてこうなってしまったのだか。

考えても考えても、じゃぁこうすればよい、という答えは見つかりません。

 

 

額縁の作り方 グラッフィートの下描きをどうするか問題

 

先日ご覧いただいたラテン語フレーズを入れた額縁の、装飾過程をすこし。

箔の上に卵黄テンペラ絵の具を塗って、乾いたら絵の具を掻き落として箔を見せる「グラッフィート graffito 」という技法です。

もう何度もご紹介しておりますので、ご興味があればぜひ続きをご覧ください。

 

さて、ボローニャ石膏地にカーボン紙でデザインを転写しまして、これをニードルで線彫りします。

グラッフィート装飾は、基本の方法としてはこの線彫りはしません。石膏地に箔を貼り磨き、まっさらな箔地にテンペラ絵の具を塗り、乾いたところに模様を転写して掻き落とします。

わたしは何故に石膏地に線彫りするのか(ひと手間増やすのか)と言いますと、線があることで薄っすらと凹凸と陰影が出来て美しいと思うこと。それから、テンペラの上に転写する必要がありませんので、カーボン紙等の跡が残らないこと。

 

 

上の写真は搔き落とし開始の様子です。

黒い絵の具層の下に金箔があります。薄っすらと文字の線彫りが見えていますので、このラインをなぞります。

 

今回は黒ベースですので、黒色の上にカーボン紙を使っても見えませんし、例えば白いチャコペーパー等使って跡が残ると厄介です。

逆に明るい色のテンペラを塗って、その上に転写する場合でも、やはりこの転写跡ってとても気になるのです。完成度がぐっと落ちてしまうような。

 

そんな訳で、ひと手間増えてもこの方法が気に入っております・・・。

 

 

さぁ、グラッフィート(搔き落とし)が終わりました。

あとは古色仕上げをして完成でございます!やれやれ。

 

 

子どもに与えるもの

 

イタリアの美術館で、可愛らしい小さな額縁に入った聖母子像や教会で使う道具のような美しい小物が展示されていました。かわいいなぁ・・・と単純に眺めていたのですが、後から聞いたところによりますと

 

 

その昔、貴族の次男は家督を継げないので僧侶になり、教会のヒエラルキーで上位を目指す、そして生家に利をもたらす・・・という道が敷かれていたとか。

将来が決められていた子供たち、幼いころから教会の「お道具」などを模ったおもちゃを与えられ、馴染まされていたのですって。

将来、実際に教会の聖具に触れても違和感なく受け入れられるように。

 

 

それを聞いて以来、単なる「美しい小さなもの」と鑑賞できなくなりました。そして後から、実は結構な驚きとショックを受け、でもどこかで納得したことに気づきました。

この美しい「遊び道具」にまつわる様々な思い、人々の・・・特に両親の心境、イタリアの文化と芸術と宗教などなど、連綿と続いた物語に思いを馳せたのでした。

 

 

それを「ど忘れ」と言って良いのか

 

昨日の午後、魚ニカワ液をつくろうと思ったのでした。

このニカワ液は、古典技法の箔貼りにいつも使っているので、もう何百回と繰り返し作っています。

板になっている乾燥ニカワを小さく刻んで水にふやかし、翌日に湯煎で溶かせば完成です。

 

 

上の写真、右のシート状のものが魚ニカワ。製菓で使う板ゼラチンとそっくりです。左の瓶は魚ニカワを水に漬けたもの。

 

で、ですね・・・。

この何百回も作っているニカワ液ですが、1リットルの水に魚ニカワ4枚というのが大体の決まりと言いますか、わたしがイタリアの学校で習った分量です。

昨日「さて作ろう」とおもったのですが、はて・・・。

突然、本当に突然この分量が思い出せなくなりました。

あれ、水1リットルに1枚だっけ?え、250ミリリットルに1枚だっけ・・・?

 

ネットで検索してみたら、自分が昔書いたブログに行き当たり、無事に1リットルに4枚と確認できた次第です。そうだそうだ、そうだった。昔のわたし、書いてくれてありがとう・・・。

だけど、ニカワ液が作れて安心しつつ、自分の脳を心配しつつ、なんともドンヨリした午後でした。いやはや。

 

 

美しいラテン語 

 

完成間近になっている額縁は、ラテン語装飾です。

ジュエリーブランド「germedeur」のkanekoさんからのご注文、ジュエリー展示に使っていただけるように作っております。

 

昨年「ことわざ額縁」と名前を付けた額縁をご覧になったkanekoさんが、ガラスケース内で使えるサイズで文字を入れて・・・とご注文くださり、さて文章はどうしよう?

ご相談を重ねました。

 

▲満を持してラテン語文章の装飾を額縁に転写する。

 

アルファベットの文章で、ぱっと見て意味はすぐに分からない言葉(英語でもフランス語でも無くて)・・・で、ラテン語に収まりました。

kanekoさんが日本語で文章を作り、自動翻訳でラテン語に訳し、じゃぁこれで行きましょう!となったのです。が、ご存じのように自動翻訳ってまだまだ危うい・・・

額縁を作り始めてしまったら文章を変えることはとても難しい。ここはひとつイタリア人に尋ねるが吉。

 

そうしましたら案の定「ええと、言いたいことは分かるけど、文章として微妙というか美しくない。」とのこと。添削してもらいました。

 

kanekoさんによる日本語文章

「ジュエリーを通じて希望と喜びを分かち合う」

これを自動翻訳では

「Spem et laetitiam per ornamenta participes sumus」

そして添削後

「Spei laetitiaque per ornamentum participes sumus」

 

構成の変更はなかったけれど、小さな言い回しなのか単語の活用など変更されていました。(変更理由など説明してくれたのですが、わたしのイタリア語能力ではいまひとつ理解できず!)ハッキリ言ってよー分からんのです・・・。

とにかくこれで「正しくてエレガントなラテン語」になったはずです。

 

イタリア人にとってラテン語はどんな位置なんだろうと、つねづね思っていました。

日本人にとっての古文?もっと近いのか遠いのか。きっとある程度勉強したり興味を持っている人なら読んで理解はできるでしょう。

でも作文や添削となると別、と言った感じです。そして「より美しい文章」となると、これはぐっと難しくなる。

このイタリア人の友人には感謝です。きっと高校時代は頑張って勉強したんだろうなぁ・・・と思います。