さくらがトイレにこもることが多くなった。
腹の具合でも悪いのかと心配した沖田だったが、ある日、「赤ちゃんができたの」と打ち明けられた。
それはめでたい、喜ばしい。
無事に生まれ出てきた暁には、心をこめて世話しようと瞬時に決意した沖田であったが、「それでね」と続けたさくらの口から飛び出た言葉は、予想外のもので。
「私たち夫婦は、ここを出ようと思うんだ」
どうやら経過が思わしくなく、安静にしていないといけないらしい。
沖田にとっては、まさに青天の霹靂。
近藤家の主は、間違いなく勇だが、実際のところ全てを取り仕切っているのはさくらだ。
さくらがいなくなったら、残るのは勇と永倉と自分。
炊事も洗濯も掃除も満足にできない面々で、どうやって生活していけというのか。
「もうすぐ就職活動を始めないといけないんですが」
帰宅したばかりの土方を捕まえて、訴えたのは切実な悩み。
「私のネクタイは誰が結んでくれるんでしょう」
「自分でやれよっ」
怒鳴られた。
しかも。
「そもそもお前、一般企業に就職するつものなのか。自分の星に帰らない限り無理だぞ」
意味がわからないが、暴言を吐かれたことはわかる。
思わず憮然としたものの。
「とにかく。さくらと赤ん坊の健康を考えたら別居はしかたのねぇことだ。お前もさっさと自立しろ」
そんな風にまとめられてしまえば、わかりましたと言うしかない。
沖田だとて、さくらに元気な赤ん坊を産んでほしいことに変わりはないのだから。
しかし現実問題として、自分たちの生活をなんとかしなければならない。
一番いいのは近藤が、さくら並によくできた嫁を見つけてくれることだが、どうやら本人にそんな心づもりがないようだ。
そこで沖田は考えた。
よく気がついて。
家事全般をそつなくこなし。
若いほうがいいんだろうな?
見た目もかわいい方がいいだろう。
そんな人、どこかにいないだろうか・・・・・・・。
そして。
そうだ、いるじゃないか、一人だけ。
気がきいて、なんでも器用にこなし、若くてかわいいといえば!
「もしもし、左之さん?近藤先生のお嫁さん候補なんですけど」
嬉々として原田に電話をかけた沖田には、例によって善意しかない。
悪気はない。一切ない。
自分の行動の結果、どういう事態が巻き起こるかという見通しもまた皆無だが。
沖田が、原田に「近藤先生のお嫁さん候補」なるものを告げたその瞬間。
藤堂平助は、バイト先の居酒屋で激しいくしゃみと悪寒に悩まされていた。
おしまい(・∀・)