三谷さんと交代するようにして、男衆の佐平次さんが他出から戻ってきた。
なんたるバッドタイミング。
佐平次さんは、番頭さんに次ぐ立場の人で、帳場を任されることもある。
つまり、彼の帰宅は、番頭さんが帳場を空けられるということで。
このタイミングで、帳場を立った番頭さんがすることといったら、ただひとつ。
「さくらはん、ちょっと」
ほら、きた。
帳場の奥、台所の土間と接した板の間に正座させられた。
「あんさん、どういうつもりや」
番頭さんときたら、自分だけちゃかり円座(丸い座布団)を敷いて。剣道をやっていたから板の間での正座は慣れている。けれど、それにも限度がある。番頭さんの説教は、とにかくクドクドしいのだ。
早く切り上げてもらうには、何を言われても塩らしく「はい」と言うに限るのだが。
「旦那さんのお留守に、あない男連れ込んで」
「連れ込んでませんっっ」
これが、黙っていられようか。
いや、いられない。
「勝手に忍び込んできたんです!」
「それにしたって、あんた。あの塩っ。播州産の上物なんやで。一斤でいくらする思うてますの」
えええ、あれそんないい塩だったの?
「でも、あれはっ」
又吉さんが、と続けるのは寸でのところでやめにした。
告げ口するようで気が引けて、それでも助け舟を期待して台所を顧みる。
又吉さんは、じっとこっちを見ていた。
磨いだ包丁を付近で包みながら、又吉さんが口を開く。
「わては」
頼みます、兄貴っ!
「言うてまへん。撒けとは、一言も」
―――覚えてろ。
晩のお菜に、正座ダコの酢の物を出してやるーーーっ。
おしまい(・∀・) →本編に戻る