【観劇日記】サロメ | kaネとmo観劇日記

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年間200本程の観劇。
その感想やらを忘れないように、記しておこうと思います。

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6/10(日) 昼公演 新国立劇場 中劇場
1階 10列(最前列) ほぼど真ん中

とにかく、2012年度の演劇界で大きな意味を持つ作品であると思います。
新しい翻訳や脚本も、大胆な演出ももちろんですが、
舞台美術の素晴らしさは突出していると思われます。
客席最前列と同じ高さに舞台があり、
その下(奈落と言える部分)に牢屋を設定し、金網で囲まれています。
そこには5cmほどの水が張られています。
真っ白な舞台には、吟味された白くてスマートなソファーやテーブル、カウンター。
頭上には舞台とほぼ同じサイズの大きな鏡が張られ、
舞台を真上から観た様子を、客席から観ることができます。
月は客席後方にあることを、照明や演技で感じさせます。
王を囲んでの会食は、
舞台奥の曇りガラスのような壁の向こうで行われ、
シルエットのみで、直接観ることはできません。
そのチラリズム的な舞台が、観客の想像を掻き立てます。

そして特筆すべきは、血です。
自害した隊長(兵士)から流れ出た血。
王が足を滑らせる、その血。
布で拭き取ると、綺麗に消えます。
特殊なラバー素材でできた床が、液体を弾いているのだそうです。
遠目には大理石のように見えます。
ラストシーンでは、その床が真っ赤な血の海になるのです。
奥の衝立のような壁から血が流れ出て、床を埋め尽くします。
そこを、予言者ヨカナーンの首を抱いたサロメが転げ回り、
純白の衣装が、赤ワインのように染め上がっていきます。

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とにかく美しい舞台でした。


この日、観劇人生初の出来事がありました。
舞台の中断です。
音響システムがダウンしてBGMや、
幽閉されたヨカナーンの声が拾えなくなったとのこと。
場面は、サロメがご褒美(ヨカナーンの首)を、王にねだるために披露する踊り。
葡萄を撒き散らし、グルグルと回って床に倒れたその直後です。
中断の場内アナウンスがあり、俳優陣が袖に引き上げ、
10分後くらいに再開されました。
おそらく、この後をどのようにこなすかを検討・確認しただけでしょう。
システム自体は翌日まで回復しなかったそうですから。
既にこの公演を観ていなければ(観ていても意識して聞いていなければ)、
『ふーーーん』と思うだけで、
どんな音が足らなかったのか、その後どのくらい復旧していたのかはわかりません。

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サロメを演じた多部未華子さん。
かなり動揺していらっしゃいました。
タイトルロールを演じる責任感なのか、
涙を流しながら、何度も客席に謝罪していました。
中断の時にも、カーテンコールでも。
もちろん、客席からは地響きのような拍手。
不測の事態に遭遇し、それを乗り越えようとするある種の一体感が、
舞台上と客席に生まれていたように思います。

ただ、それだけではなかったようにも思えます。
サロメは踊りのラストで、激しくクルクルと回り舞台中央に倒れます。
そこにピンスポットが当たる設定です。
しかしこの日は、勢い余ってメインの舞台から1段低くなっている前方に
半身が落ちて、ズルッと全身が落ちることに…。
これ、スタッフみんなの背筋が凍ったと思います。
だって、その1メートル先は奈落ですから。
落差は3メートルくらいありますから。
そこに頭から落ちたら…。
本人も、かなり動揺したと思います。

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終演後、出演されている原一登さん(新国立演劇研修所修了生)にお誘いいただき
楽屋にお邪魔しました。
こんな日だから、楽屋はバタバタしていると思い
すでに車で帰宅の途についていましたが、
こんな日だからこそ、お言葉に甘えて劇場に戻ってみました。
楽屋にはちょっと違う空気、
多少張りつめたような感じの空気がありました。
でも、こういうことから、座組の絆はまた深まるのでしょう。
もう一度観る日、千秋楽が楽しみになりました。