ワルキユーレ 第二幕 五場 2 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 リヒヤルト・ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の日本語版を作成せんとす。

その第一夜「ワルキユーレ」より第二幕五場。

ジークムントとフンデイングの闘ひ始まり、ブリユンヒルデの守らふ処へ、ウオータン現れ、ジークムントの剣を折りて是れを死なす、ブリユンヒルデはジークリンデを伴ひ逃げ行くに、怒れるウオータンは是れを追ふ。






「ワルキユーレ」 第二幕 五場



(フンデイングの声)


 ウエーワルト矣。ウエーワルト矣。


 いざ闘へ、


 犬ども追ひ及(し)かずとも矣。



(ジークムントの声)


 いづらは隠れある、


 踏み越えにけるはや。


 立てや、立てるものなら矣。



(ジークリンデ)


 フンデイング矣。ジークムント矣。


 いさや、まみえんか矣。



(フンデイング)


 これぞ、気穢き間男矣。


 フリツカの霹靂(かむとけ)を見よ矣。



(ジークムント)


 つはものも無きと思ふや、


 懼ぢなき小法師。


 女(め)の神で威せど、


 みづからが闘へや、


 さらずばフリツカも失せんず矣。


 見よかし、そが家の


 太知る幹より


 すらりと抜けるつるぎ、


 切先鋭きを味はへ矣。



(ジークリンデ) 


 止みね、をのこら矣。


 殺むるは我れから矣。



(ブリユンヒルデ)


 打てよ、ジークムント矣。


 うつなきつるぎ矣。



(ウオータン)


 この槍を畏め矣。


 つるぎは砕けよ矣。



(ブリユンヒルデ)


 馬へと、ともに逃れん矣。



(ウオータン)


 行けかし、下郎め矣。


 をろがめやフリツカを。


 言告げよ、ウオータンが槍は


 報ひぬ、嘲り為しゝものに。――


 行け矣――行け矣。


 などや、ブリユンヒルデ矣。


 おぞくれ過てる矣。


 むごくも報ひん


 罪のほど知れや、


 追ひ及け、我が馬、逃げ行くに矣。