ワルキユーレ 第二幕 三場 1 | 神鳥古賛のブログ

神鳥古賛のブログ

古典。読めば分かる。

 リヒヤルト・ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の日本語版を作成せんとす。

その第一夜「ワルキユーレ」より第二幕三場。

夜の荒野を行く、ジークムントとジークリンデ、取り乱して翔り行くジークリンデに、ジークムントは縋り付きて引き止むる。








「ワルキユーレ」 第二幕 三場

 

 

(ジークムント)


 休めや、此処に、


 言(こと)を容れて、休らへ矣。



(ジークリンデ) 


 行かねば矣。行かねば矣。



(ジークムント)


 いやとよ、ならず矣。


 留まれ、いとしのをみなや矣。


 喜びの余り


 身を震はせて、


 急きに急いて


 いそぎ行く、


 鹿の如きに追ひも及(し)かず。


 野行き森行き、


 岩群越えて、


 言葉なく、深く黙だし


 翔りありく、


 呼び止むるともいらへなし矣。


 落ち居させ、


 声聞かまほし矣。


 安からぬしゞまを破り矣。


 見よ、汝がいろせが


 抱く、花嫁を。


 ジークムントは、汝れが連れ合ひ矣。



(ジークリンデ)


 行かつせ矣。行かつせ矣。


 穢れたるを棄(う)てゝ矣。

 

 清からず


 汝を抱く腕は。


 惨めな、穢され


 滅びし体。


 亡骸棄てゝ、


 去らしめよ矣。


 風も吹き付けよ、


 恥づべくも貴(あて)びとに身を与へし矣。


 汝が愛、深く、抱きし時、


 祝はれし喜びを見出でし、


 それ、まことの愛よ、をのこの、


 そは、吾(あ)がまことの愛を呼び覚まし、


 こよなき喜びのうちに


 愛を捧げ交はし、


 まこと心と


 魂に沁み入りし、


 恐れと慄きと


 いと恐るべき恥辱に


 苛まずにや置かん


 この宿世の、


 あだし男に從ひし、


 愛もなき抱擁に矣。


 去れよ、呪はれしを、


 去らしめよ、汝がもとを矣。


 廃れ者ぞ、吾れは、


 打ち砕かれて矣。


 穢れもなきをのこを


 吾が去らでやはある、


 栄行く汝れに、吾が


 身を寄する能はず。


 いろせの恥となるべきのみ、


 恥づべき、妹背の契りぞ矣。