ワルキユーレ 第二幕 二場 7 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 リヒヤルト・ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の日本語版を作成せんとす。

その第一夜「ワルキユーレ」より第二幕二場。

大神ヲータン、ブリユンヒルデにジークムントを斃すべく命ずるに、ブリユンヒルデは否み拒めど、最後には抗へざりき。








「ワルキユーレ」 第二幕 二場

 

 

(ブリユンヒルデ)


 おゝ、云つて、告げて、


 汝が子は、何為すべき。



(ウオータン) 


 為に戦へ、フリツカの。


 守れ、その譽れと誓ひとを矣。


 彼の選びしに、


 我れも慕ふもの。


 我が思ひなど、何かはせん。


 自由なる者、我が生まざれば。


 ゆゑにフリツカのしもべに


 就いて戦へ矣。



(ブリユンヒルデ)


 いえ矣。言(こと)をば


 改めさせ矣。


 汝が愛するジークムントを、


 汝が為にと、


 我れや知る、支へんウエルズングを。



(ウオータン)


 斃せかし、ジークムントを、


 フンデイングに勝利を得させよ矣。

 

 護りを疎かにすな、


 強く保てかし、


 すべての勇気を


 振るうて戦へ。


 勝利のつるぎ


 持ちたる、ジークムントぞ。


 難いかな、臆したる者には矣。



(ブリユンヒルデ)


 爾は愛せよと


 恆(つね)教へけれ、


 潔くも尊(たつと)き


 心をあはれめと――


 我れをば強ふる無し


 理りなき言葉に矣。



(ウオータン)


 は、小賢しき矣。


 我が意に逆ふや。


 誰そ爾は、我れが意に


 添ふ他なきぞ。


 語らふべく、


 深く身を沈めしが、


 責め立てられつべきや


 生みの子に。


 知れるや、子よ、我が怒りを。


 絶えめや、勇みも、


 圧し拉がれて


 激しき滾(たぎ)ちに呑まれん矣。


 我が胸に祕めし


 猛り狂ふもの、


 これ、おぞく破れし


 世に染めんず、


 かつては楽しみゑ笑へど――


 かゞふる者は災ひなる矣。


 逆ふ者の罰ちぞ矣。


 されば戒む、


 苛らぐるなかれと矣。


 我が命(みこと)を受けよ。


 ジークムントを下せ矣。


 これや勤めぞ、ワルキユーレの矣。



(ブリユンヒルデ)


 かつて無き、いくさ神のさまよ、


 或るは口あらそひの怒りゆゑか矣。


 重くも持たる


 つはものゝ重き。


 挑ましきいくさには、


 軽ろくも軽ろきに矣。


 忌むべき戦ひに


 足取りは重く。


 あはれはれ、ウエルグング矣。


 彌苦しみのきはに


 まこと無き、真心は、爾を去る矣。