弁護の士の、およそ明らけき言葉もて、ブロクに語り掛けしは、今これぞ初めなりけれ。
気怠るきまなこを、半ばゝ当て処もなく、半ばゝブロクを見下ろしゐたれど、このまなざしを受くるやブロク、またも畏まりて、やをらうづくまりける。
「判官殿の、かゝる言葉、爾には何らのゆゑよしとては無し。」と弁護の士云ひぬ。「事々に、な驚き入りそ。
さあらん事、繰り返しなば、はや、うち明かさん事、最早ならず。
ひと言も、もの云へば、すは、つひの御裁きと云はんばかりに、我がおもてに見入りける。
これなる、我が頼み手をまへにして、およそ恥を知れかし矣。
我れへの、これなる人の頼みとする心さへ、おぼめかしう成さんは。事がましう、何にかは。
爾、生きて此処にあり、我れなる後ろ見、此処にあり。要らぬ思ひわづらひたるべきのみ矣。
いづくにか読みたりけん、つひの御裁きと云ふは、得てして、思はざるほかに来たるべきものなり。
何びとたれ、そこらの人の口を借り、何ん時たれ、いづれの時にこそ。
様ざま、思ひ合はすべき事々はあまたあれど、こは、まこと確かなり。
しかるに、等しきさまにまことしきは、爾の思ひわづらひは、我れの心苛れなる事と、
我が目には、其処に、あるべき頼みとする心を事欠きたると見ゆる事と、これなり。
如何んや、我れ、何をか云ひし。さる判官殿の言葉を、さながら言伝へしたるのみなるは。
知るが如く、ことごと様ざまの見立て、これ、公事の吟味筋のめぐりに積もり積もつて、如何な見通す事あたはずなりぬるなり。