しかるに亦た、ブロク、これを覚るに力及ばずと云はんか、さなくば亦た、覚るは覚れども、およそ、このうへなく弁護の士を恐れたりと云はんか、
しからば、何ゆゑ、この男よ、弁護の士を欺くほどに、うたゝ悪賢く、さなくば、うたて肝太く、
これなる弁護の士のみならず、ほかにも弁護を頼みゐたるを、如何なればか、隠して恥ぢざるや。
如何なればか、尚し、この我れに、吠え立つるが如き仕業を為し得るものぞ。
何となれば、これは、今にも、此奴の秘め事を顕はに為さんも、思ふがまゝなればよ。
しかるを、あるべきか、ブロクたるや、そのうへを越す事までもしてける。
弁護の士の臥しどのもとへとい行き、それにて、Kを嘆き、そしり言し始めたれ。
「弁護の君よ、」と彼れ云ふ、「これなる男の、それがしに、如何なるもの云ひを為すや、御聞き及ばれ給ひしや。
この男の公事沙汰なんど、未だ時の刻みもて数ふるに耐ふるばかりなるに、五とせも訴へ事にかゝづらへる、それがしが如き者に、教へを垂れんと宣へれ。
それのみかは、それがしを罵りあざけりたれ。ひとつとてわきまへ知らざる奴つこが、ものゝ仕来たりや負ふべき事や、裁きの司の慣はしの求むる事を、
及ばずながら、力を致して、つばらに習ひ来たる、それがしをば、罵りあざけりたれ。」となん。
「ひとの事に心をとむるなかれ。」と弁護の士云ふ、「さてありて、爾の正しと思ふ事をこそ為せ。」と。