Euphoria

 

 

今アメリカで大流行りのEuphoria。Euphoria(ユーフォリアと読む)とは、陶酔感とか、ものすごく大きな幸福感、と言う意味だ。主人公は、今やアメリカのティーンズの間で絶大の人気を誇るZendaya(アメリカ人は、ゼンデイヤと発音する)。このドラマ、特にハイティーンズの間ではやっているのを知っていたので、私も見てみることにした。HBOだ。娘の寮のルームメイトは、毎週新しいエピソードが出たら、それをかかさず見てる、と言う。「ボリューム大きくしてみてるから、うるさいんだよね。」と娘は言う。確かに、高校生が騒ぐ音、後ろに流れる音楽、パーティーシーン、かなり大きな音が出るドラマだ。毎回ルームメイトが何が起こったか話してくれるので、内容は知っているけど、娘は見たことがないそうだ。とにかく大学生の間で流行っているらしい。

最初はトランスジェンダーや、ドラッグ、セックス、レイプ、ティーンの妊娠と中絶、何でもありで、見てて不快とさえ思ったけれど、見ているうちに惹きこまれた。今はシーズン2の放送が終わったところで、まだ全部見終わっていないけど、次々と見てしまう。5人の女子高生の話だ。友情や、性、ドラッグ、パーティー、同性愛、児童ポルノ、アルコール依存症、うつ病や、その他の精神病、銃、DV、何でもありで、乱れに乱れていて、ハチャメチャに見える。今のアメリカの高校生にモラルコンパスはあるのか、と思ってしまうけれど、その中にも本物の愛があり、友情があり、友だち、親、恋人、大切な人に対するやさしさ、思いやり、相手を強く求める気持ち、守りたい気持ちがあり、そして、ものすごく深い孤独感がある。好きなことを、何のルールも、倫理観も理性もなくやっているようで、彼らにとっての真の気持ち、守りたい価値観、信条があるのだ。

本当に現代のティーネイジャーの世界はこうなの?と思ってしまう。

 

Zendayaが演じる、Rue

 

オークランドのアートスクールで中高時代を過ごした娘たちに言わせれば、冷静な顔で、「うん、こんなもんだよ。」と言う。自分たちも似たようなものを見てきた、と。「それで人気があるんじゃないの。見てて、こういうのわかるって思うんだよ。」と。それから、「私もこうだったらいいな、こうだったらよかったのに、と思いながら見てると思う。」ともいう。憧れの気持ちでみている、という。自分たちの高校時代があまりにも地味でつまらなかったから、こうだったらよかったのに、という思いで見てるんじゃないか、と言うのが娘の意見だ。高校時代、大学に入るために勉強ばかりして、いい成績を取るために葛藤していた若者も多いだろう。そういう若者たちにとっては、確かにこのドラマの中の高校生活は憧れなのかもしれない。

私は大昔、高校時代は日本で過ごしたけれど、こんな風だったら、混乱して何が正しくて、何が間違っているのか、どういう風にふるまったらいいのかわからなくて、落ち込んでしまうだろう。そして、見た目もそれを反映していたと思う。今の若い人が、自分たちの世代の世界を生きていくのは大変だ、とこのドラマを見てつくづく思う。

 

トランスジェンダーで、ルーの親友兼恋人のジュールス。

 

確かに、主人公のゼンデイヤには魅力がある。実は、彼女、娘たちと同じ、Oakland School for the Arts(OSA)の卒業生で、オークランドの出身だ。上の娘より、4年先輩。娘たちはビジュアル・アーツ(美術)が専門だったけど、ゼンデイヤはボーカルが専門だったそうだ。たまに母校を訪ねてきていた、と娘たちは何でもないことのような顔をして言う。私だったら野次馬的に見に行くぐらいしたと思うのだが、娘たちは学校に通っているときは、一言もそんな話はしなかった。娘たちもゼンデイヤも、高校はアートスクールだったけれど卒業して進んだ道は、学校でやっていたこととは違う。娘たちは普通の大学に学問で進学したし、ゼンデイヤは女優兼モデルになったわけだ。

 

ドラマの構成は面白くて(さすがHBO)、話の筋から言うと、主人公はゼンデイヤじゃない。けれど、カメラは一番ゼンデイヤを写している。脇役が主役のドラマなのだ。

ドラマの中のゼンデイヤは多才で、さすがOSA出身、BGMは彼女の歌声だったりするし、突然ミュージカルになったかのように、踊り出す。しかも、踊りもなかなかうまい。とてもナチュラル。その場で思いついたまま踊っているんじゃないかと思うほど。OSAにいたときはボーカル所属だったけれど、彼女は演技もできて、踊れて、歌える。そして、体つきがすらっとしていて、手足がものすごく長く、ちゃんと化粧をして、装えばかなりの美人だ。また、彼女は今アメリカ社会で活躍して注目を浴びている、Person of colorだ。Person of colorとは、強いて訳すとすれば、有色人種。副大統領のカマラ・ハリスも有名なPerson of colorだし、サンフランシスコの市長、ロンドン・ブリードもそう。アメリカでは、今Person of color、特に女性のperson of colorが大活躍していて、大いに注目を浴びている。テレビにもたくさん、いろんな人種の人が今を輝く人として出てきている。ゼンデイヤもその一人なのだ。

ゼンデイヤが出ているほかの映画を見ると、スタイル抜群の美人役か、今年アカデミーにノミネートされたDuneでは、かっこいい宇宙戦士の役だ。しかし、私はこのユーフォリアを見てからは、ゼンデイヤと言えば、ここで出ている彼女しか思い浮かばないだろうと思う。それほど、地で行っている。彼女、そのもの、と言う感じがする。演技とは思えないほど自然で、実際の彼女はこういう人なんじゃないか、と思うほど。ドラッグにむしばまれている彼女は、ぼろぼろの布切れのようになる。なのにかっこいい。以後、彼女が出ているどの映画、ドラマを見ても、このユーフォリアの彼女と比べてしまって、こっちの方が本物っぽかった、と思うだろう。彼女の女優キャリアを代表するドラマだ。麻薬常習者の役だけど。

このドラマは、ゼンデイヤが14歳の時から、ドラッグアディクトで、高校生になるころにはどん底になり、身を亡ぼすほど中毒になってしまう話だが、先ほども書いたように、このドラマは彼女が主役じゃない。多くの人が、このドラマはティーンの麻薬常習者の話だ、と言うけれど、それだけじゃない。私はメインのプロットは、むしろ、彼女の友達(いろいろあって、今は友達じゃない。でもお互いどこにも行くところがないから、一緒につるんでいる)が繰り広げる、複雑な三角関係、お互い殺し合いになるほどもつれた男女の話だと思う。

 

あらすじとしては、ロスの中流地区の高校で、女子にモテモテのアメフト選手がいて(白人)、学校で一番人気のある、ラテン系のチアリーダーと付き合っている。学校で一番有名なカップルだ。けれど、実はこのクォーターバックは隠れゲイで、ゼンデイヤが大好きな恋人のトランスのジュールス(金髪の美しい白人)をひそかに愛しているのだ。けれど、それをひた隠しにしているので、かえってジュールスに残酷ないじめをする。そして、このジュールスも、ゲイの大人の男性を相手に売春をしている。そのジュールスの恋人のゼンデイヤ扮する高校生は命を落としそうなほど麻薬にどっぷりつかっている常習者で、14歳の時からリハブを出たり入ったりしている。その彼女を、家族やジュールスが必死に救おうとする、と言った話だ。もっともっと入り組んでいるけれど。

 

アメフトの選手ネイト

 

ネイトの恋人、チアリーダーのマディ

 

そういえば、題の日本語訳を書いているときに、Euphoriaとは、絶頂感と言う意味もあるので、麻薬でハイになっているときの絶頂感と最愛の人と結ばれているときの絶頂感、両方のことを言っているんだろうな、と思った。

 

色々放送禁止であるようなトピックや描写が出てくるので、日本ではどういう扱いを受けるのか。または受けているのか、興味がある。

とにかく、脚本も、パフォーマンスも、コスチュームに至るまで質が高いので、このドラマの価値はとても高いと思う。

とりあえず、これから続きを見ることにする。すぐ見終わってしまうと思う。

 

家業を継いで、麻薬の売人をやっているけれど、ルーのことを実の妹のように大事に思っているフェズコ。