第7回グズグズ寺の反省。 | 神田松之丞ブログ

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毎月のスケジュールと、演目などを更新していきます。

また、自主興行のテーマなども書いていきます。

昨日は「グズグズ寺」お越し頂きましてありがとうございました。

この会も7回を迎えるという。本当に皆様のおかげです。

長寿番組的な会になりそうですが、夢七君の真打ち昇進で終了という。

可哀想なのが、私も含めた上のメンバーですよ。みんな真打ちになっているのに、相変わらずグズグズをやっているという。未来の自分が不憫です。

ただ、さいとうたかをが「ゴルゴ13」のラストの原稿をどこかの金庫に入れているように、会全体のオチのつけ方は決めています。それで、すべて終わるという。

ラストグズグズまで、10年以上後の話ですが•••••長ぇ。

それはともかく、昨日のグズグズを評して、昇也君がツイッターでつぶやいています。

他の会といかに一線を画しているか。

以下、引用
「今月もグズグズ終わった。打ち上げ中から思ったけど、今更ながらコレ毎月やってるって面白い。本来この類の会は、三ヶ月とか半年に一回でいいと思うの。それを毎月馬車馬の如くやってるのは面白い。お客様も定着というか毎月通ってくれて嬉しいです。だって毎月スタートラインしか見てないんだよ」と。

流石、昇也君。感性が鋭い。嫁も美人。

そうなんです。この会はオールネタ下ろしゆえ、卵を産んでいる所しかお客様にみて頂いてないという。

身も蓋もない事をいえば、ネタ下ろしは面白いはずがないんです。ましてや若手です。

生まれたての勢いというのはあるにせよ、一番面白くない状況でお客様にお見せしているという。

名前が通った二つ目ならいざ知らず、無名の二つ目ではネタ下ろしの会は成立しません。

嫌な言い方をすれば、商売にならないという。

じゃあどうすればと考えた時に、ドキュメントとして見て頂くしかない。

すると、どういう演者が求められるかといえば、スタートラインが面白い演者が求められます、

ハラハラも含めて非常にドキュメント色が強い人達。それが小笑兄さんであり、夢七君という。

これらをメインにする事で、ドキュメントとしてネタ下ろしを成立させようとした会になりました。

演者にしか分かりにくい面はありますが、ネタ下ろしは凄く緊張するんです。

演者のグズグズも含めて、またそれを許容出来るキャラクターだから可能な、ネタ下ろしエンターテイメントにしようという。これが今の所、成立しているように思います。


もっともこれは結果論で、私は何となく小笑兄さんのネタ下ろしと、夢七の「江戸噺」を聞きてぇーと思っての事ですが。グズグズ寺を分析するとそういう事でしょう。

勿論そこに柳若さんがいて、昇也君がいることで、非常に重要な意味を持つという事はいうまでもないです。いわば、会を成立させる両輪。


また、このグズグズがしたたかなのが、全員弱者ぶっているという。会の名称からそうです。

例えば、グズグズ寺ってつまらないと誰かに言われれば
「野暮だな。」と開きなおり

「ネタ下ろしのわりには面白かった。」
という批評には、
「やったー。☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆」
という立ち回りをするという。

ハードルを下げたおしているのも含めて稀有な会です。

そしてこれらの事情を、会を重ねるごとにお客様が熟知されてきて、独自の色合いを出しているなぁと思います。

お客様には、その産みたての未熟な所をひたすら見て頂くという。これを10年以上続けるという、いわば弱みを握られている関係性という。

今後、どんだけ良い感じに色々な噺をしても
「最初見た時は、下手だったんだよ。グズグズ寺で見たんだけどさ。」
と言って頂けるという。

お客様と演者だけでなく、一つ一つの噺にもネタ下ろしから見て頂いてる事で、愛着を持って頂ければなぁと思っています。

しかもメンバー同士も、ずっと同じ場所でネタ下ろしをしていった仲間というので、特別な関係性に今以上になるでしょう。

そんなこんなで、毎回噺の童貞っぷりを見せつける、今回のグズグズを振り返ります。


昇也「持参金」

こういう、フリ倒して後でボケで回収していく噺、昇也君に似合うなぁ。「身投げや」もそうなんだけど、クレバーな持っていき方の描写が上手いという。完全に、ニンだろうけど。

茶楽師匠直伝なので、所々、茶楽節が入っていて芸協マニアも楽しめるという。私は茶楽師匠の白ブリーフまで思い出したよ。ビニールに、肌着をいれるのまでもね。

それはともかく、ネタ下ろしは、ここがウケるんだという確認作業。

一回お客様の前でやってみて、どこがウケるとわかればその点は強調したり、間をおいてわかりやすく。そういう意味では「持参金」は大変だろうなと分かりましたわ。

しっかりフリを聞かせる事で笑いの量も全然違う。この噺に関して、ネタ下ろしだとチェック項目多すぎで大変だなぁと。ウケてたけど。

何度も回数を重ねれば、この噺は普通の噺以上にどんどん面白くなるのだろう事を確信。

変な言い方をすれば、ネタ下ろしに不向きな話なんだね。何かそういう個別の噺を深く知る上でも、ネタ下ろしの会って面白いと実感。


松之丞「金兵衛殺し」(畔倉重四郎)

ひたすら残酷な話。正直、この種の話をグズグズでやっていいのかという葛藤が。だけれどもあえて、フワフワした落語の中に陰惨な話をぶち込むと、どのくらい会の空気が壊れるのかを考えながら実験的に。

そういう点を踏まえて、終演後昇也君に
「このまま、連続物で突き進んでいいかね。初めてのお客様とか対応出来ないでしょ❓」
と聞いたところ

「いやでも、お客様重視の会だったら、そもそもネタ下ろしでやってないですから。そこは大丈夫です。突き進んで下さい。」

と言われた。なるほどと思いながら、お客様重視でない会って凄いな。


夢七「夢七江戸噺」

江戸噺は40分の長講。高校の50分授業って、何であんなに長かったかなと思っていたのだが、この40分はそれ以上だったな。

あがりたおしている教育実習生がきたのかと思ったよ。

毎日毎日退屈で退屈でしょうがなく、時計ばかり見ていた。自分の才能が分からないが、漠然とした根拠のない自信と、ここは俺の居場所じゃない確信と。でも何も見つからない。あぁ、このままぼんやりした大人になって死んでいくんだろうな。時計のカチカチの音うるさいなぁ。ちっとも時間はすすまないくせに、音だけはうるせぇ。

それしてもこの古文の授業長い。全部無駄なのに。そう思っていた私の高校時代。

そういう過去の扉を開ける作業をしたよ。

でも、毎月江戸噺をぶつけるのは凄い。夢七の人生を毎回ぶつけられているようで。

面白かろうが、面白くなかろうが僕は僕をぶつけてます。世間に受け入れられようが、受け入られまいがという覚悟を感じる。

ふと彼が真打ち昇進になった時の事を想像する。夢七江戸噺で、末廣亭でトリをとる。

その時に、万雷の拍手ではねた時に、俺泣きそうになってる気がするんだよね。何だろう。何かを夢七に託しているのかなぁと思う時がある。



柳若「動物園」

つくづく、この会は柳若さんに負荷をかけているなぁと思う。

普通に「動物園」をやってもグズグズのお客様は落語マニアの方も多くいらっしゃるのであんまりウケない。そりゃそうだ。全部知ってるから。そこで、グズグズバージョンにしているという。

でも、グズグズバージョンは寄席でやっても空気感が違うからウケない。いわば、グズグズ内に限り使える。

そういうのを全部分かった上で、あくまで会のために噺を調整してアレンジしてきているという。最早、グズグズを形成する上で欠かせない人物になっている。

もっとも次回の「明烏」のトリの時は、普通にやりますといっていた。

つまり柳若さんの中で、トリはきっちりやるもんだという認識があるという。良い意味でのグズグズ感のない発想が面白かった。普通にやっても面白いのは分かってるんだけれども。


小笑「粗忽長屋」
兄さんの「三遊亭小笑」と書いてあるメクリを見て、あぁ、兄さん三遊亭なんだと思う時がある。

キャラが濃すぎて、ノージャンルの人かと思う時があるから。

相変わらず、アメリカジョークをまくらにふっていた。談志師匠以来だ。

前回は鯉八兄さんという、尊敬する同期生がきてしまったので、ジョーク封印という。その格好つけ方も面白い。

同期生不在なので、今回はやってたよ。あいかわず、ジョンとかピーターみたな外人の名前を呼んでるけど、全く上下ふらないのでどっちがどっちだか分からんという。

ずっと二人の登場人物が、まっすぐ見て喋ってた。何だろうね。外人は上下ふらないルールあるのか。

それで後で聞いたら、あのジョーク自分で考えているんだって。最早アメリカンジョークですらないという。単なる小笑ジョークと判明。

それで肝心の「粗忽長屋」。これは面白かった。

何でこの人はナチュラルに、貧さとか愚かな人間を描けるのだろうと、毎回思ってしまう。

粗忽な奴が訳の分からん事を言ってる時に
「ねぇ、君ちょっと代わってよ。」
あの言い方、完璧だった。3回出てくるが、全部はずさなかった。

誰の「粗忽長屋」より、噺を芯で捉えている。やっぱりこういうのを聞くと、リズム、メロディー、ハーモニー的な落語の胡散臭さを感じるな。

もっとも、グズグズの外に持っていった時に、果たしてウケるのかというのが問題だと思う。

受け入れてくれる人の前でやるからこそ、小笑兄さんは面白くなる。

関係性が0の所から受け入れてくれるまでの突破する作業は、兄さんは苦手だ。

お客様が受けいれてからの小笑落語はとんでもなく面白いが、そこまでが大変という。今後、外ではこじ開ける作業が大変だなと思う。また、独演会も不向き。賞レースも不向き。

しかし、最初からこじ開いているグズグズ寺では、縦横無尽の小笑だ。

終演後、饒舌だったな。満足な感じだったんだろう。前回、この世の終わり見たいな顔をしてたから。

しかもあまり機嫌の良いのを悟られたくないけど、隠しきれない感じだったよ。抑えきれない機嫌の良さという。

高笑いで帰っていたな。ミスター粗忽長屋。


終わって打ち上げ。小痴楽兄さんも一緒に参加して頂く。いつもありがとうございます。

そんなこんなで次回は、4月21日(日)
17時30分開場、18時開演 らくごカフェ ¥1000
柳若「明烏」(主任)
小笑「唖の釣り」
松之丞「栗橋の焼き場殺し」
昇也「孝行糖」
夢七「夢七江戸噺」

うーん。柳若さん、楽しみだわ。
是非、お越しを。
\(^o^)/