最近の事と、昔の事 | 神田松之丞ブログ

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毎月のスケジュールと、演目などを更新していきます。

また、自主興行のテーマなども書いていきます。

昨日、雷太兄さんと第三者を交えて打ち合わせ。

まだタイトルも決めてないが、会を立ち上げ。

人情噺を綺麗に描けて、なおかつ上手い人と連続物をやりたいと希望して、雷太兄さんに。

まだまだ本決まりではないが、一年間の隔月でやりたい。7月くらいをめどにスタートで。

雷太「塩原多助一代記」
松之丞「慶安太平記」

の二本立ての予定。年6回で終わるように。場所は、鶯谷のあるお寺さんを予定。
現在
「講談研究室」「松之丞百席」「グズグズ寺」
「遮二無二武蔵」(テイトさん企画で、きらり姉さんと共同番頭)

そして今回雷太兄さんとの会という。もっとも、これらの会は何となく学生時代からやろうと思っていた会なので、そういう意味では今の所、事は進んでいる。

「松之丞百席」は折り返したので、再来年には終了予定という。

それが終わって多少体力ついたら、本格的にやろう。


そんな事を考えながら、家に帰る道すがら。あと、5分で家まで着くところで
「あの、ここらへんに詳しい人どすか❓」
と若い京都男に話しかけられる。

私は方向音痴なので、いつも分かりませんと答えるが、何か20代前半の夢七みたいな面白い顔をしている奴なので、何となく

「まぁ、ここら辺は詳しいです。」
と答える。

するとその男は、ホッとしたような顔をして

「そうですか。いや実はここらへんで、安全に朝まで暮らせるような場所はありますか❓」

と京都弁で聞いてくる。なにやら事情をきくと、この男は京都から一人で観光にきたものの、コンビニのトイレに財布を忘れ、戻ってみても誰かに取られたようで一文無しだという。警察に行ったが、泊めてくれなく、そのまま安全に寝泊まり出来る場所を探しているという。それで明後日には友達がきてくれるという。

こんな落語の登場人物みたいな奴がいる事に驚いた。

私は情が薄いので、へぇーと言ってその場を去ろうとすると

「安全な場所を探しています。」

と強調された。近くに良い公園があったので、あそこの公園は凄くいい公園だよと近くを指差すと、そいつが呆れたように。

「ここは東京ですよ。」と

「えっ、東京だからどうしたの❓」と聞くと

「危ないですよ」と答えられた。

何だろう。だんだん腹が立ってきた。これが若い姉ちゃんなら考える。全く下心なく考える。

野宿させるのは違うから、1万円くらいやってもいいなぁと思う。

しかしね、何で俺が良い年こいて、恐らく自分探しで京都から東京にきてるムクドリに、あげく財布を盗まれるような粗忽な奴に、優しい感じでいかなければならないのだと。なんで「山田真龍軒」で稼いだ金をこいつに渡さなければならんのだと。

百歩譲って可愛げがあればいい。でも目の前にいるこいつは、もうふてくされてる夢七なのだ。東京にふてくされている。勝手にきて財布盗まれているという。しかも若い男だ。1日、2日水道水飲んで全然暮らしていける。明後日には友達もくるのだから。危ないというが、これ以上取られる物もないだろう。

そういう私のテンションを察してか

「あのー、最初は漫画喫茶に泊まる予定だったんです。」と京都弁で言ってきた。

何だそれは。2、3千円ですがなと心の声が聞こえる。どすえどすえ詐欺かと。

そこで
「うーん。だったら近くに教会があるよ。そこに行ったら」と提案した。

するとそいつが
「教会、めちゃくちゃな事いいますな。」と怒った調子になった。

「どういうこと❓」と聞くと

「京都の人間に教会に泊まれって、そんな事いうなんて、考えられない」と。

聞くと、寺街で育った人間がキリスト教なんかに頼れるわけないでしょ。というのだ。

「もういいです。もういいです。ありがとうございました。」

と言いながら、プンプン何処かに消えていった。

こういう事を書くと、うわぁー松之丞って情がないわぁーと思われがちなのだが、まぁその通りだ。

とはいえ5分くらいして、5千円くらいならあげようかと思ったら、もう何処かに消えていなくなっていた。


そういえば私の父は情に厚かった。

もう三十年以上前、父が母と結婚する時に、祖父と祖母に挨拶に行った。それまで会った事がなかったらしい。例の娘さんを下さいのやつだ。

父が正装をして土産も買い、さぁ挨拶だという目とハナの先で事件はおこった。あまり人通りがないところで

20そこそこの兄ちゃんが土下座させられていて、血だらけで地べたに頭をつけ
「すいません。すいません。」と言っていたそうな。相手は後でわかったことだけど、某有名空手の段持ち2人組で、目つきが気に入らないとか言って因縁をつけ、酒も入っていたとか。

ずっと長い事、殴ったりしてんだと。

父は柔道三段で、腕に覚えもありそれをとめに入った。

もっとも相手は二人だしボコボコに殴られたそうだ。後で分かったことだが、こっちは鼻の骨も折れたんだと。

下はコンクリートだから柔道の技で投げるわけにもいかないし。でも母の話だと、一方的にやられたわけでなく、かなり良い勝負だったらしい。相手も血だらけだったと。

それから、時間が立ってるのにまだ来ないよと待っていた祖父と祖母が外を見ると、これから挨拶にくる予定の義理の息子が、血だらけになりながら喧嘩をしているのをみて、
「ちょっと、どうなってんだい」と警察に連絡をしたという。

父は鼻の骨も折れ、菓子折りもぐちゃぐちゃで、血だらけになりながら、義理の父に挨拶したんだと。

それからその二人は警察に捕まり、やられた方は後日、菓子折り持って挨拶にきたらしい。三十年以上前の話だ。それから兄貴と私が生まれた。

時々、親戚の間で話題にのぼった話。

何か久々に思い出したとさ。