久しぶりに、ゆっくりと集中して本を読んだ。
本を読む時間がどんどん少なくなっている。iPhoneで常時ネットに接続できるから、ツイッターやフェイスブックで暇つぶしができて、せわしなくいつも誰かとつながって誰かの賞賛を求めてしまう。そのくせひとりになりたいと思っている矛盾。
小説を書くことを生業にしているわたしがこんな状態だから、本を読まないという人に対して、本を読めと言うことができない。ああ、分かるよと言うことならできる。
だからこそ、小説を読んでいる人を見るとはっとする。小説を読んでいる人は、美しい孤独の中にいる。小説を読むということは、いまここにある世界とつながることをきっぱりと拒否し、ひとりで静かに未知の世界を歩いていくことだ。それをわたしは美しい孤独の中にいる、と感じる。いつも鞄の中に小説を入れている人は、大げさなことを言えば、時にはひとりで生きることを引き受けている人なのだと思う。美しい人だと感じる。
たったひとりで、新しい世界の扉を開け、未知の人たちの中へ飛び込んでいく。小説を読むのはそういうことだと思う。だから、しばらく読まないでいると億劫になって腰が重くなるし、忙しいとわざわざ新しいところに行きたくなくなるし、つらいことがあると扉を開ける気力がなくなる。でも、扉を開けると、今まで見えなかったものが見えたりする。
久しぶりに「月と六ペンス」に行った。
小説を愛する人が小説を読みに来る美しいカフェ。
店主のこだわりと美学でこの空間が作られている。
背筋が伸びて、本に没頭できる、大好きな場所。