和製トム・ジョーンズと呼ばれた男。 | プールサイドの人魚姫

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うつ病回復のきっかけとなった詩集出版、うつ病、不登校、いじめ、引きこもり、虐待などを経験した著者が
迷える人達に心のメッセージを贈る、言葉のかけらを拾い集めてください。


プールサイドの人魚姫-尾崎

 尾崎紀世彦(享年69歳)、『別れのその訳は話したくない』とそれだけ告げて逝ってしまった。先日、老衰のため100歳で亡くなった映画監督の新藤兼人さんについて記事を書こうと思っていた矢先、『歌手の尾崎紀世彦さんが、肝臓がんのため都内の病院で死去した』というニュースに驚きを隠せなかった。

 国外では、ドナ・サマーやロビン・ギブと言った有名ミュージシャンンたちが、やはり癌のため他界したばかりである。

 今年の4月に『失踪騒動』で話題になっていた事から、まさか死に至るほど健康状態が悪化していたなどと想像もしていなかっただけに、この突然の訃報はまさに『寝耳に水』であった。

 日本の音楽シーンに於いて、歌の上手い男性歌手と言えば、松崎しげるや布施明などであるが、彼ほどの卓越した歌唱力を持つヴォーカリストはそういるものではない。

 父親がイギリス人の血を引いており、彼自身は純粋な日本人ではない部分が日本人離れしたスケールの大きさを醸し出しているのかも知れない。

 トレードマークの長いもみあげや彫りの深いマスクは、どこかフランス人俳優の持つ男の色気にも通じるほど異国情緒をたっぷりと漂わせていた。

 昭和生まれの人であれば、誰もが知っている彼の代表曲『また逢う日まで』は、1971年に100万枚を売り上げるなど、第13回レコード大賞・日本歌謡大賞を受賞し、尾崎紀世彦の地位を不動のものとした。

 歌の世界も含め芸能界で生き抜いて行くには人気・実力そして運も必要となって来るだろう。一見華やかに見えるその世界には、人の眼に晒したくない世界も必ず存在する。

 十分過ぎるほどの実力を持ちながら、荒んだ私生活が足枷となりその実力が発揮されない場合も多々ある。

 尾崎紀世彦もおそらくその類いに入るのではないだろうか。無類の酒好きで、アルコール依存に悩まされていたと聞いている。

 その酒がいつしか彼の身体を蝕んでいた。病魔は音も立てずに忍び寄り、やがて死の淵へと彼を追いやった。

 歌手が声も思うように出せず歌えなくなってしまったら、その時点でもう歌手ではない。それは彼にとって人生の終わりを意味するものであったのかも知れない。

 ふたりで閉める筈のドアをひとりで閉め、ふたりで消す筈の名前をひとりで消してしまった。人は皆ひとりで死んでいく『また逢う日まで』がこんなに孤独な歌だったんだと思い知らされたような気がしている(合掌)。