ザックジャパンは金正日の貢物になった…。そんな異様とも思えるような感想を抱かせる試合内容だった。
サッカー、ワールドカップブラジル大会アジア3次予選で、アルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表は、16戦無敗と言う破竹の勢いを引っ提げて臨んだ北朝鮮戦であったが、完全アウェーの洗礼に悩まされ持てる力の半分も出せなかった。
それは平壌到着直後から始まっていた。4時間に及ぶ空港での足止めはまさに「軟禁状態」、選手たちが持ち込もうとしたガム、即席ラーメンなどが嗜好品だと判断され持ち込み禁止。入国審査や税関の検査で待機中に3回も停電するなどして、日本チームの公式練習開始が3時間も遅れてしまうなど、明らかに北朝鮮側の意図的な圧力があった事は明白であった。
そのようなザックジャパンにとっては過酷とも思える状況の中で試合は始まった。実力から言えば北朝鮮を大きく上回る成績を残している日本代表であったが、5万の観衆全てが敵という「キムイルソン・スタジアム」の正気を失った殺気が日本チームを追い詰めて行く。
北朝鮮にしてみれば、この日本戦のみに焦点を当てて臨んだアジア予選だった。日本に勝つ事、それのみが目標であったのかも知れない。
それを裏付けるような北朝鮮が仕掛ける捨て身の肉弾戦と相まって、日本側は不慣れな人工芝のピッチにミスを連発。
終始、北朝鮮有利の状況下で試合は進んだものの、身体を張った守備で何とか凌ぎ、前半を0-0で終えたが、完全アウェーのダメージは日本チーム一人ひとりの足元を確実に侵食して行った。
後半戦開始5分、北朝鮮にフリーキックからの折り返しを頭で決められ1-0に…。日本側にも得点のチャンスは何度か巡ってきたもののそれを活かす事が出来ず、試合終了のホイッスルがスタジアムとザックジャパンの心に虚しく響いた。
冷静なザッケローニ監督が顔を紅潮させ、身体を震わせながらこうつぶやいた。「アンフェアな北朝鮮…」。
日本にとって不本意な初黒星ではあったが、これもまた未来を見据えたザックジャパンの一つの糧として捉えれば、意味の無い負けなど存在しないのである。
それにしてもスタジアムの片隅に「よど号ハイジャック事件」で国際手配中の元赤軍派メンバーだった若林盛亮容疑者の姿があったのには少々驚かされた。
北朝鮮にしてみれば彼の存在も、日本との交渉時に使用する単なる駒の一つに過ぎないという、金正日のしたたかさを垣間見た気さえするのだが。