忘年会のある風景。 | プールサイドの人魚姫

プールサイドの人魚姫

うつ病回復のきっかけとなった詩集出版、うつ病、不登校、いじめ、引きこもり、虐待などを経験した著者が
迷える人達に心のメッセージを贈る、言葉のかけらを拾い集めてください。


忘年会
一年で12月ほど忙しい月はないだろう。来年に向けて慌しい準備と今年一年を振り返る行事があったり、お正月を迎える為の準備に追われる。年賀状、大掃除、クリスマスなど。そしてもう一つが忘年会。今年を締めくくる為に欠かせない恒例の飲み会でもある。会社勤めしている人は社員同士で、そうでない人もお酒を飲む口実に仲のよい人たちが集まって今年を振り返る。来年の話をしても、もう鬼は笑わない。わたしは「酒」と言う言葉に敏感である。嫌いではないが、病気のため殆ど飲めないに等しい。それでも20歳の頃などは正月になれば友人宅で一升瓶の日本酒とウイスキーのボトルを二人で空にしてしまった事もある。一晩で飲む量としてはかなり多い方だと思う。次の日は朝から頭がガンガンして二日酔い、一日中横になっていた。急性アルコール中毒で亡くなる人もあるし、自分の身体にあった飲み方をしないと取り返しのつかない事になる。わたしの父はアルコール依存症で酒乱だった。私の子ども時代はこの父と酒との闘いの日々と言っても過言ではない。私は一人布団に入り何時帰るか分からない父の事を気にしながら眠っていた。柱の時計は既に深夜1時を過ぎている。当然こんな時間まで起きている子どもも大人もいない。深夜の道が街灯の明かりでぼんやりと闇の中に浮かんでいる。車も人の気配もなく何処かで犬が吼えていた。小さな豆電球だけをつけたまま、薄い布団の中で明日の夢を見ている私の耳に聞こえて来たのは、無造作に玄関の扉を開ける音。静まり返った冬の夜空を裂くように響き渡った。そして不規則な足音と微かな呻き声。いつもの聞きなれた音と声ではあったが、わたしの身体は震えていた。これから起きる父とのやりとりを既に感じていたからだ。座敷に上がり襖を力いっぱい開け父は布団をめくりあげ、「とし坊」と声をかけた。その声は地響きのようにわたしの小さな身体を恐怖に揺らした。枕元に座り込み愚痴を話始める父。かなり酔っているので何を言っているのか聞き取れない。明日の学校の事など父の頭の中には何もなく、自分の目の前にいる子どもが息子である事さえ忘れて、鬼になった父は吼えそして暴力が始まるのである。わたしは広い屋敷の中を小人のように逃げ回り、裸足のまま裏口から凍てついた庭の方へ逃げ出した。光輝く月と数々の宝石が庭の隅々まで反射している。逃げ場所はいつも決まっていてそこだけが安全な場所だった。数時間寒さに耐え、そっと家に戻って見ると父はその晩飲み食いしたと思われる物を胃袋から全て吐き出していた。元々酒に弱い父だったから身体は受け付けてくれなかったのである。畳に染み込んだ嘔吐物を始末するのはわたしの役目。父の身体に布団をかけ自分も明日に備えて再び眠りに落ちた。わたしに取って酒は「きちがい水」だった。いまでは差別用語になっているので耳にする事もないが、酔っ払いの姿を見るたびに父を思い出して懐かしい時代を振り返るのである。