ライブの余韻が譜面に残り。 | プールサイドの人魚姫

プールサイドの人魚姫

うつ病回復のきっかけとなった詩集出版、うつ病、不登校、いじめ、引きこもり、虐待などを経験した著者が
迷える人達に心のメッセージを贈る、言葉のかけらを拾い集めてください。

譜面演奏が終わり観客が引き上げたステージで、男が一人譜面を見詰めていた。自分の歌を確かめるように、音符を一つずつ拾い集めギターの弦を震わせた。人が喜び楽しめる曲を作りたいと彼はいつも思っていたが、独りよがりの歌声は人の心には響かない事は分かっていた。譜面は嘘をつかないから、自分の音魂の鏡でもあると思う。今日のステージを振り返りながら、曲の構成を確かめてみる。スタンドバイミーの様な誰もが知っている名曲は受けが良い。客の反応は既にイントロで分かるもの。俺がビートルズのメンバーだったらこんな風に歌うだろうと、ヘイ・ジュードを演奏する。譜面をめくりながら曲の余韻を確かめる。「○○君、そろそろ帰るよ」ミュージシャン仲間が声を掛けて来た。腕時計を指で確認しながら、愛用のギターをケースに仕舞い込む。慣れた手付きが白い杖に伸びる。「足元気をつけて」と仲間がホールの電源を切った。彼に暗闇は関係ない。心に刻まれた譜面を閉じて、盲目のライブが終わりを告げた。