あの熱愛報道から数日。
世間はすっかり別の話題で盛り上がりを見せていた。
流行と一緒で、過ぎてしまえば、誰も2人の熱愛ネタに振り向かなくなる。
・・・・・・・そして、私とハルはというと・・・・・・
「えーっ?そんなの今聞かないでよ!これから出社するところなのよ!?」
ハル「んなこと言ったって、あんたの考えた企画だろ?」
「そうだけど、今回はハルが全面的にプロデュースするのが条件なんだから・・・・・」
バタバタと身支度をしながら、肩と頭で携帯を挟みつつの会話。
あれから、私達の関係は驚くほど今迄通りに戻った。
私はハルの担当に復帰することになり、ハルも定期的に仕事の相談を持ちかけてくる。
なんとなく、いい雰囲気になることもあるけど・・・
肝心な言葉は、お互い一言も伝え合っていない。
「とにかく、もう切るから!」
ハル「おい、かなで!」
プツッ・・・・・
「やだ、本当に間に合わないかも!」
勢いよく電話を切り、私は部屋を飛び出した。
満員電車に揺られながら、今頃ふてくされているだろうハルの姿を思い浮かべた。
今は、何度電話を切ったって、またすぐに繋がれるという安心感がある。
それはハルが私にくれた、言葉にはできない気持ち。
指輪なんかより、ずっと素敵なプレゼント。
(モデルと編集者って言う立場を忘れたわけじゃないけど・・・
ハルのこと、信じてみたい。出来るところまで2人で一緒にいたい・・・
そう願うのは私の自由よね?)
後悔だけはしないように、今、この瞬間を大切にしようと私は心に決めた。
「おはようございます!すみません遅れました~っ!」
息も絶え絶え、オフィスへと飛び込む。
颯太「あっ、かなでちゃん、大変なんだよ!」
慌てた様子で颯太先輩が駆け寄ってきた。
(あれ、なんかデジャブ・・・)
「どうしたんですか?また『HAL』に熱愛報道でも?」
なんて冗談ぽく言ってみる。
颯太「違う違うっ!その『HAL』が来てるんだよっ、アポなしで!」
「え、ええっ!?」
颯太「かなでちゃんと、打ち合わせやり直したい所があるって、ついさっき!」
「・・・・・・・・!!」
(私が途中で電話切ったから、直接きたわね!?)
颯太「とにかく、こっちこっち!」
颯太先輩に案内されたのは私のデスク・・・・・
ハル「やっと来たか。あんた、この時間って遅刻なんじゃねぇの?」
「ハル!?」
ハルは私の椅子に座りながら、ちゃっかりコーヒーなんか飲んでる。
颯太「空いてる会議室がなくて、一度断ったんだけど、ここで良いから待つって・・・」
さすがの颯太先輩も予期せぬ事態にタジタジだ。
「わ、分かりました。後は私がなんとか・・・・・・」
颯太先輩が去ってから、私は大きくため息をついた。
「ちょっと!来るなら来るって言ってよ!」
ハル「言う前に、あんたが電話切ったんだろ?」
「朝は忙しいの!それにあの企画なら、まだ先の話だし今日じゃなくっても大丈夫でしょ?」
ハル「・・・・・・・」
私がそう言うと、ハルは不機嫌そうな顔でそっぽを向く。
ハル「今日、半日オフなんだよ」
「・・・・・・・?」
いきなり話題が変わり、私は眉間にシワを寄せた。
ハル「でも、あんたは仕事だろ?
だから・・・企画の見直しっつー理由で、顔を見に来たんだよ・・・・・」
「・・・・・はあ?」
あまりのことに、力のない声が出た。
ハル「って、なんだよそのリアクション。嬉しくねェのかよ、俺に会えて」
「え、いや、嬉しいけど・・・・・」
(わざわざ、私に会いに来てくれたってこと?
それなら、朝の電話で言ってくれれば良かったのに)
そう思ったけど、目の前のハルを見て彼の性格を思い出した。
(そうだった。自分から会いたいとか言えないのよね。素直じゃないから・・・・・)
「ふふ・・・・・」
ハル「何がおかしいんだよ?」
「ううん、なんでもない!・・・・・来たからには、本当に打ち合わせしてくんでしょ?」
ハル「ああ、そのつもりだ。ほら、企画書。気になるとこ書き込んできた」
ハルに手渡された企画書には、赤いペンでビッシリと修正要望が書き込まれていた。
うーん、仕事に真面目なもの相変わらずだなぁ!
ハルとの打ち合わせは、数時間で終わった。
帰り際、ハルは待ち構えていた女の子達からサインや握手をねだられて・・・・・
軽く流すと思いきや、しっかり笑顔での対応。
なんだかいつの間にか一回りも二回りも、成長しているように見えた。
「事務所まで送れなくてごめんね」
ハル「ガキじゃねーんだし、1人で帰れる」
タクシーに乗り込んだハルは、後部座席の窓から顔をのぞかせた。
「それから、後輩の女の子たちが礼儀知らずでごめん・・・
後でちゃんと、言い聞かせておくから」
ハル「サインも握手も慣れてるしそれも仕事のうちだからな」
ハルは気にするなと柔らかく微笑んで見せた。
「・・・・・・・じゃあ、またね。近いうちにまた連絡するから」
ハル「ああ。俺もまたあんたの顔を見に来るよ」
「えっ・・・・・分かった。待ってる
でも、今度来るときはちゃんと連絡いれてよ?」
ハル「別に、いつ行こうが俺の勝手だろ?」
「連絡くれたらお弁当ハルの分も用意するから」
ハル「・・・・・そういうことなら、まぁ・・・連絡入れてやるか」
(ふふ、上手く納得してもらえたみたい)
ハルを見送り、オフィスに戻ると女の子たちがキャアキャア騒いでいるのが見えた。
(ハルに間近で会えたのがそんなに嬉しかったのね・・・)
彼女たちのような、ピカピカの若さは私にはない。
素直になる前に、まず我慢っていうのが、すっかり身に付いてる。
(相変わらず素直じゃないのは、私も同じか・・・
会いに来てくれて嬉しかったってちゃんと言えば良かったな)
颯太「かなでちゃん、お疲れ様」
「あ、先輩。お騒がせしてすみませんでした」
颯太「いや、全然!『HAL』ってあんなに根は気さくなひとだったのか~
仕事上のやり取りしかしたことなかったんだけど、あんな面もあったんだね」
なんて、湊先輩までなんだか目がハート・・・・・
颯太「俺様で、わがままで傲慢って聞いてたけど・・・その肩書き、もう合わないね」
「ふふ、そうですね」
私と颯太先輩は顔を見合わせて小さく笑った。
才能豊かで努力家のハル。
それに人柄までプラスされたら、ハルの人気は、今よりもっと上がっていく確信があった。
それは嬉しいことだけど、もっと遠くの人になるような気がして、本当は少し寂しい。
(でも、それがハルの夢なら・・・・・私は全力でサポートするだけ!)
・・・・・・その時は、本当に心の奥からそう思っていた。
―――――数日後。
湊さんに呼び出された私は、新しい企画の話を持ちかけられた。
「ルミナスとのコラボファッションショーですか?」
真田湊「服のデザインだけじゃなくてショー自体も俺がプロデュースする予定なんだけどさ
スペシャルゲストって感じで『HAL』にもモデルとして出て欲しいんだ」
「湊さんと『HAL』のコラボなんて、話題性はバッチリですね!」
真田湊「でしょ?俺からオファー掛けようかとも思ったんだけど、君方が確実かなって
出来れば、打ち合わせの段階から『HAL』にも参加して欲しいんだけどスケジュール押さえられる?」
「すぐ、事務所に確認取ってみます!」
真田湊「オッケー!じゃあ30分後にみんな集めて、本格的な打ち合わせ始めよっ
ルミナスの編集さんって可愛い子が多いから、楽しみだな~」
「・・・・・湊さん」
真田湊「あ、でもあの編集長のヒゲだけは俺ちょっとダメだな~」
「・・・・・・・・・・・」
突っ込むだけ無駄だと分かり、私は会議室を後にした。
『HAL』を交えての打ち合わせは来週に決まり・・・・・
それまでは、ルミナスメンバーでの企画会議が続いた。
コラボファッションショーということもあって、規模は相当大きなものになりそうだった。
こんな大きな企画、参加するのは初めてだし、絶対成功させなくっちゃ!)
・・・そして、なんとかまとめ上げた企画書をハルに見せる日が来た。
ハル「・・・・・・・・・・」
真田湊「どうかな?ルミナスは女性誌だから、『HAL』の出番はそんなに多くはないけど・・・
このショーでは、君が主役だと言ってもいいほど、重要な役割をもってるんだよ」
ハル「・・・・・そうですね、悪くないと思います」
企画書に目を通しながら、真剣な目つきでハルが深くうなずいた。
真田湊「本当に?やったー!!かなでちゃん、徹夜でまとめたかいがあったね~!」
「きゃあ!ち、ちょっと抱きつかないで下さい!」
湊さんは喜びのどさくさに紛れて私にギュッと抱きついてきた。
真田湊「そんなつれないこと言わないでよ。一晩共にした仲じゃないか~」
「変な言い方しないでください!ルミナスメンバーで会社に泊まり込んだだけです!」
グイグイと湊さんを引きはがしていると・・・・・
ハル「・・・・・・・あの!」
凜としたハルの声が響いた。
真田湊「え?」
ハル「ここなんですけど、1人ずつ登場させた方が、シーンのイメージに合ってると思います」
真田湊「え、どこどこー?」
湊さんは私から離れ、ハルと一緒に企画書をのぞきこんだ。
(はあ、ハルのおかげで助かった・・・あれ?もしかして・・・・・。
ヤキモチ妬いたのかもなんて考え過ぎかな?)
真田湊「よし、じゃあ今日はこれぐらいにしようか。俺も次の仕事がはいってるし」
「はい、お疲れ様です」
真田湊「ハルくんも、これから色々よろしくね!」
ハル「・・・・・はい」
真田湊「じゃあ、あさきー!」
湊さんはウインクを決め機嫌良さそうに出て行った。
「はあ、湊さんってば相変わらず色んな意味で元気よねー・・・・
コーヒーでも飲む?私入れてくるから」
ハル「・・・・・・」
「ハル、どうかした?」
ハルはムスッとした顔のまま動こうとしない。
ハル「・・・・・・・なあ、湊さんのことどう思ってるんだよ?」
「え・・・・・ただの仕事相手だよ?まあ、いつも元気ですごいなぁとは思うけど・・・・・」
ハル「仕事相手、か・・・。あんた、本当に湊さんと一緒にいてもなんも思わねぇんだな」
「どういう意味?」
ハル「いや、別に。・・・・・でも、それ聞いて安心した」
ハルは軽く息を吐きながら小さく笑った。
「・・・・・ねえ、もしかして、湊さんにヤキモチ妬いた?」
ハル「なっ、なんで俺が!」
ハルは一瞬で赤くなると勢いよくイスから立ち上がる。
ハル「・・・・・俺も帰る!!」
「あ、待って!下まで送るから!」
ズカズカと出ていくハルの背中を、私は慌てて追いかけた。
(やっぱり、ヤキモチなんて私のうぬぼれだったかな
でも、それならどうしてそんなにムキになるの?)
こらえても、口が勝手に笑ってしまって・・・資料で、自分の口元をそっと隠した。
―――こうして、コラボファッションショーの準備は着々と進んでいき・・・・・
日程も決まり、来月には、大々的に開催されることになった。