サプライズだと言って突然帰国したハル。
今日の日のために、前からスケジュールを調整していたらしい。
まだしばらくは日本に滞在できるということで
思い出のあの場所に行くことになった。
「わぁ、なんだか懐かしい!」
ハル「ああ、そうだな。ここに来たのは、もう1年ぐらい前になるか・・・」
「つい昨日のことみたいに思い出せるのに・・・なんだか変な感じ」
二人並んで、水族館を見上げる。
あの時は、ただハルに休暇を楽しんでもらいたい・・・
そういう気持ちでチケットを贈った。
でも、今は恋人としてこの水族館に来ている。
あの時は、ハルと想いが重なるなんて思ってもみなかった。
「また、2人でこうして来れると思ってなかったから本当に嬉しい!」
ハル「大げさだな。別に、これからいくらでも来れるだろ?」
「でも・・・またすぐに向こうに戻らなきゃいけないんでしょ?」
ハル「・・・あー・・・そのことなんだけど」
「え?」
ハル「いや、いい。また後で言うよ」
「気になるんだけど・・・」
ハル「後で言うって言ったろ!ほら、早く入ろう。イルカショー見るんだろ?」
「あ、そうだった!ハル、早く早く!」
ハル「ったく。いつも年上ぶるくせに、こういう時はガキみてぇにはしゃぐよなー
まあ、そんなところも好きなんだけど」
「えー?何か言ったー?」
ハル「なんも言ってねぇよ!」
ハルは軽く肩をすくめながら、私を見て笑った。
館内に一歩入ると、そこにはあの不思議な海の世界が広がっていた。
以前来た時と同じ・・・深いブルーの空間に心が癒されていく。
「はあ、やっぱり綺麗~。水族館って、きっと毎日来ても飽きないだろうなぁ」
ハル「まあ、生き物だからな。見るたびに違うことしてて面白いよな、確かに」
私もハルも、水槽にべったりくっつきながら、魚を目で追う。
ハル「そういや、向こうでやってたショーで、面白いのがあったんだ」
「面白いショー?」
ハル「ああ、チャリティーショーだったんだけど・・・
何十年も前から着てない古着を、色んな人から無償でもらって・・・
それをジュエルがリメイクして、俺たちが着たんだ」
「へぇ!ジュエルってそういうショーもやったりするんだ!」
ハル「ああ、あの人が言うには服は思い出と一緒で、人の心に残るものなんだと
一度着たら終わりなんかじゃなくて・・・
自分の子供が大人になった時にまた着られるような、そんな服を作りたい
服も家と同じで・・・その人にとって安心できる場所でありたいって言ってた」
「・・・・・服も家と同じか。そう言われると、私もお母さんにもらって捨てられない服ってあるなぁ
思い出がたくさんつまってて今も大事にとってあるの
新作だ流行だってうるさい世の中だけど・・・そういう考えも素敵だね?」
ハル「ああ。俺もそう思った
今までこの仕事してて、そういうの考えたことなかったけど・・・
思い出とか、絆とか・・・やっぱり大事だよな」
ハルは小さくうなずきながら優しく微笑んで見せた。
(ハルは前から、家族や人との絆に強い思い入れがあったみたいだし・・・
ジュエルの考え方は、きっとハルに合ってたんだろうな
・・・ぐっと大人っぽい顔つきになったし、なにか吹っ切れたようにも見えるけど・・・)
ハル「・・・ん?なんだよ?」
ぼーっとハルの顔を見上げていると、不思議そうに首を傾げられた。
「ううん、なんでもない!」
ハル「カッコ良くてみとれてたか?」
「・・・なっ!」
真っ赤になった私を見て、ハルはいつもの意地悪な笑みを浮かべた。
水族館を堪能した後は、ハルと行きつけのお寿司屋さんへとやってきた。
ハル「親父さん、久しぶり」
店主「おお、陽仁じゃないか!こっちに戻って来たのか?」
ハル「いや、今回は一時帰国・・・何で俺が向こうに言ってること知ってんだよ?」
「私が親父さんに言ったからよ」
この前と同じ、奥のカウンター席にすわりながら小さく笑う。
ハル「はあ?それってどういう・・・」
店主「椎名さんは、あれから時々うちの店に来てくれるんだ」
「親父さんのお寿司、本当に美味しいですからね~!」
ハル「あんた、いつのまに・・・」
「昔のハルの話も色々親父さんから聞いちゃった」
ハル「なっ・・・」
「親父さん、いつもの握りでお願いしますー」
店主「はいよ!」
ハル「・・・俺の知らないところで、仲良くなってんじゃねーよ」
ハルは拗ねたような顔をしながら、お茶に口をつけた。
親父さんの握ってくれたお寿司を食べながら、色んな話に花が咲いた。
向こうでのハルの生活のこと。
私の最近の仕事のこと。
ハル「こっちにいたら、知らないことばかりだったもんな
俺にしかできねぇことがあるって、すげー実感してる」
ハルは自分の手をジッと見つめてから強く握り締めた。
仕事のことを話すと、ハルの目はきらきらして小さな子供みたい。
(・・・モデル修行、本当に楽しいんだ
会えないのはさびしいけど頑張るハルを見るのは私も嬉しいし
それに、今は私も自分の仕事が楽しくてしかたない・・・ハルの気持ち少しは分かる)
そこでふと・・・あることを思い出した。
あの日、私が口にした一言でハルは寿司屋を飛び出した。
・・・・・でも、今は?
「ねえ、ハル・・・言いたくなかったら言わなくていいし怒ってもいいから聞くね」
ハル「嫌な前振りするな。・・・なんだよ?」
ハルは疑わしげな顔で片眉を上げた。
「今のハルは世界を代表するモデルの一人と言っても過言じゃないと思うの」
ハル「まぁな」
「・・・ハルのご両親はハルを認めてくれた?」
ハル「・・・・・!」
私の言葉に、ピリッとハルの身体に緊張が走るのが分かった。
(やっぱり、禁句だった?言わないほうが良かったかな・・・)
ドキドキしながらハルの言葉を待つ。
ハル「・・・・・わかんねぇ」
「え?」
ハル「あいつらから、連絡の一つもないし」
沈んだハルの声に微かに不安が込み上げる。
でも・・・ハルはパッと顔を上げると私を見て笑った。
ハル「・・・でも、絶対どこかで俺のこと目に入ってると思うんだ
どんなに目をそらしたって俺を見ない日はねぇってぐらい有名になったら・・・
俺からあいつらに会いに行こうと思ってる」
「・・・・・ハル」
ハル「待ってるだけじゃ、何も変えられねぇって分かったんだ
動いた結果が最悪でも、後悔はしない。そう決めた」
そう言い切るハルの目はしっかりと自分の未来を見ていた。
とまどいも、あせりもない。
・・・・・たった半年の間にハルは本当に、大きく成長していた。
それが嬉しくもあり、ほんの少しさびしくも思えた。
ハルも大きくなったなぁ、なんてお母さん気分でしみじみしていると・・・
ハル「・・・俺が実家に戻るときはあんたも一緒に来いよ?」
「え、私も!?」
なんて、予想外のお誘い。
ハル「あんたがいた方が、いざって時のブレーキになりそうだし」
「ブレーキって何する気?」
ハル「さあ?わかんえぇけどなんかドラマみたいに親父を殴ったりするかも」
「えーっ!?」
本気かと思ったけど、ハルはなんだか楽しそうに笑っている。
(もう、そんな冗談言えるってことは、本当にご両親のこと乗り越えられたのかもね)
ハル「でも、あんたには俺が育た場所を見せておきたいんだ
俺の過去も、ちゃんと知っておいて欲しい
その逆で、あんたの親にもそのうち会わせろよ?」
「私の親?う、うん・・・いいけど、それってまるで結婚のあいさつみたいな」
ハル「・・・・・・・・・・・」
私の言葉にハルは微妙な顔をして黙り込んだ。
(え、もしかして本当にそのつもり!?)
確かに旅行先で、ハルにプロポーズはされた。
でも、あれはなんていうか・・・旅立つ前の可愛い約束みたいなものだと思っていた。
本気でハルが、私との結婚を考えてるわけじゃない・・・そう、思っていたんだけど。
(やだ、急にドキドキしてきた。・・・ハル、私のこと本気で考えててくれたんだ)
ハル「・・・そのことなんだけど」
「う、うん・・・」
ハル「俺がこっちに帰ってきたのは、もう一つ目的があってさ・・・・・・・
実は、ニューヨークに・・・・・」
ルルルルル~♪
ルルルルル~♪
「あっ、ごめん!私の携帯だっ」
ハル「・・・・・」
明らかに不機嫌そうなハルの顔。
でも、電話は会社から。・・・出ないわけにはいかない。
「ごめん、緊急の連絡かもしれないから!」
急いで通話ボタンを押す。
「はい、もしもし。あ、山田さん。・・・・・えっ!?
う、うん、分かった!すぐ行くから、落ち着いて!」
電話を切り、私は慌てて席を立った。
ハル「・・・行くのか?」
「ごめんね、雑誌の入稿で大きなミスがあったみたいで。私が行かないと・・・」
ハル「そういや、あんた・・・。編集長だったな」
ハルは明らかにすねた様子で目を細めた。
「先にアパートに戻ってて。なるべく早く帰るから」
ハル「・・・・・・・・・・・・・・」
「おみやげにタコ焼きも買ってく!」
ハル「ちぇ、分かったよ。・・・編集長としての役目しっかり果たして来いよ」
「うん!!」
なんとかハルをなだめ、私は会社へと急いだ。
・・・・・それから数時間後。
なんとか騒ぎは収まり、無事に入稿することが出来た。
対応に追われてる間もハルのことが気になったけど・・・今の私には、やるべきことがある。
その優先順位だけはゆずるわけにはいかなかった。
「・・・・・はぁ、疲れた~」
軽く肩を叩きながらオフィスを出る。
すると・・・
ハル「おう、終わったのか?」
「・・・・・ハル!?」
そこにはハルが待っていた。
「どうしたの?アパートで待っててって言ったのに・・・」
ハル「どこで待とうと、俺の勝手だろ?」
「それはそうだけど・・・もしかして、1人で待ってるのか寂しかった?」
ハル「なっ・・・・・」
「だから、わざわざ会社まで迎えに来たとか」
ハル「ち、ちげーよ!!たまたま近くを通りかかっただけだ!」
ハルは赤い顔で全力否定。
(ふ、このリアクション・・・初めて会った頃と変わってない)
ハル「・・・ほら、早く帰ろうぜ!タコ焼きも買ってくんだろ?」
ハルは私に向かって手を差し出す。
「え、でも・・・」
ハル「京太郎さんたちにはバレてるし他の誰かに見られたとしても、俺だってわかんねーよ
世界の『HAL』は、今でもニューヨークにいるはずだからな」
そう言ってハルはニッと笑う。
「・・・・・それもそうだね!」
私は深くうなずいて、ハルの大きな手をギュッと握り締めた。
ずっとハルを待っていた私が、ハルに迎えに来てもらう。
それはなんだか不思議な感覚で・・・
胸の奥がくすぐったくてしかたがなかった。