休日、仕事帰りだというハルが部屋に遊びに来ていた。

 

「コーヒーでいい?紅茶も用意できるけど・・・」


ハル「なんでもいいよ。それより。あんたに大事な話がある」


「え・・・・・」


ハルの言葉に思わずドキリとする。

こうして2人でいる時間が多くなった私達だったけど、付き合ってるわけじゃない。

お互い何も言わないまま一緒にいるのが当たり前に、なりつつあった。


「大事な話って、何?」


動揺しているのを隠しながらハルの前へコーヒーカップを置く。


ハル「実は俺・・・・」


「う、うん」


ハルは真面目な顔でジッとわたしを見つめて・・・


ハル「ベストドレッサー賞を受賞することになったんだ!」


「・・・・・はい?」


ハル「ベストドレッサー賞だよ!ファッション意識の向上に貢献したヤツらに贈られる賞!」


「それは知ってるけど、大事な話ってそれなの?」


ハル「他に何かあったか?」


「・・・ないけど」


期待に膨らんでいた胸が一瞬でしぼんでいく。


(なんだ、私はてっきり、好きだって言ってくれるのかと思っちゃった・・・

って、そういうのもうぬぼれっていうのかな?)


あの特別なキス以降、ハルは私にキスをしようとしない。

付き合ってないんだから、それは当然のことだと思うんだけど・・・・・


(寂しいと思う私もいるんだよね。・・・会いに来てくれるだけで、十分嬉しいはずなのに)


ハル「あんたに1番に知らせたくて、それで撮影現場から飛んできた」


「え・・・・・」


ハル「今回の受賞は、ルミナスのおかげだったと思う。

あんたが色んな企画を立ててくれたから、俺のモデルとしての世界も広がったんだ」


「ハル・・・・・」


ハルの素直な想いが、ジンと胸の奥に沁みた。


(そうだよね、好きだって言葉がなくても私は今の関係で幸せ・・・)


あたたかい気持ちになりながら、コーヒーカップに口をつける。


ハル「だから、受賞パーティーにはあんたも出席しろよ。いいな」


「・・・・・・・っ、えぇ!?」


予想外のお誘いに、飲みかけたコーヒーを吹き出しそうになった。


「何言ってるの!?私なんかが出席するようなパーティーじゃないのよ!?」


ハル「そんなことねえよ。受賞した俺があんたを呼びたいって言うんだから問題ねーし」


「でも、各界から色んな人が集まってくるのに・・・・・。私、相当な場違いだと思うよ」


ハル「俺に賞を取らせたのは、あんたの力だ。それは俺が自分で1番よく分かってる

・・・・・かなでが、俺を支えてくれたんだ

だから、パーティー当日もあんたに側にいて欲しい

一回り成長した俺を、その目で見て欲しいんだよ」


「ハル・・・・本当に私で良いのかな?」


ハル「あんたしかいねぇだろ。別のヤツ呼んでどうすんだよ

特等席、用意してやるから楽しみにしてろよ」


「・・・・・うん、分かった!緊張して失敗したりしないでよ?」


ハル「バーカ。俺を誰だと思ってるんだ」


ハルは私の頭を軽くつつくと小さく笑った。


ハル「よし、じゃあ決まりだな!近いうちに招待状送ってやるから待ってろ」


なんて、あっという間に私のパーティー出席が決まってしまった。




真田湊「・・・・・って言う感じにしようと思うんだけど、いいかな?」


「・・・・・・・・・・・」


真田湊「かなでちゃん?」


「あ、は、はい!すみません!」


真田湊「打ち合わせ中に、ボーッとするなんて珍しいね?」


今日はコラボファッションショーの打ち合わせ。

でも、私の思考は少し別の方向へ向いていた。


「その、ハルの授賞式に私も出席することになったんです

それで、何を着て行ったらいいのかなって、考えてました。

すみません、仕事中なのに・・・・・」


真田湊「ああ!ベストドレッサーの授賞式のことかぁ!

いやいや、分かるよ!女の子だもんね、着ていく服はかなり大事だと思う!!」


湊さんは腕を組み、うんうんと頷いた。


真田湊「そうだ!良いこと思いついた!すぐ戻ってくるから待ってて!」


湊さんはすごい速さで部屋を出て行ってしまった。


ガラガラガラガラ・・・・・・


湊さんを待つこと数十分。

廊下の向こうから、なにやら変な音が聞こえてきた。


真田湊「お待たせ!俺がデザインしたドレス、いくつか持って来たよ!」

キャスター付きのハンガーを押しながら、湊さんが部屋に入ってきた。

そこには色とりどりのドレスがズラッとぶら下がっている・・・・・。


「あの、まさかそれを・・・・」


真田湊「もちろん!試着してみて!

かなでちゃんに一番似合うドレス、俺が見つけてあげる♪」


湊さんの行動力に驚きつつも、私も一応は女の子。

色んなドレスに袖を通すうちにお姫様みたいな気分になってきてしまった。


「これ、どうですか?」


真田湊「そうだなぁ。色は悪くないけど形がかなでちゃんには合わないかも

ちょっと動かないでくれる?」


湊さんの腕が伸び、フワッと私の髪に触れた。


(あ、ハルとは違う香水の匂いがする・・・・・)


至近距離に思わず、ドキッとしてしまう。


真田湊「ん、よし!この髪飾りをつければグッと大人の色気がでるかな!

それから、次は―・・・・・」


なんて、2人で衣装選びをしていると・・・・・

ガチャッ


ハル「・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・おい、何やってんだよ」


「あ、ハル!」


送れて打ち合わせにやってきたハルが難しい顔をして立っていた。


真田湊「やあ、ハル君!良いところに!見て見て、かなでちゃん可愛いでしょ?」


湊さんは私の肩を掴み、グイッと引き寄せた。


「み、湊さんっ・・・・・」


ハル「・・・・・全然、似合ってない。湊さん、この手のセンス落ちたんじゃないですか?」


ハルは私の手を引くと、そのまま自分の背中へと隠す。


真田湊「え~!?そうかなぁ?大人っぽくていいと思うんだけど」


ハル「こいつに似合うのは、こういうタイプのドレスですよ。・・・ほら、着てみろ」


真田湊「いやいや、絶対こっちだって!」


ハル「かなで」


真田湊「かなでちゃん」


湊・ハル「どっちのドレスを着たい?」


(そ、そんなの言えるワケないでしょ~~!!)


結局その日は、打ち合わせより私の衣装合わせに時間を使ってしまった・・・・・。




ベストドレッサー賞、受賞式当日。


(うわぁ、予想してたけど有名人ばっかり!!私、完全に浮いてる・・・・・)


肩身の狭さを感じ、つい壁際によってしまう。


ハル「・・・・・かなで!」


「あ、ハル!」


名前を呼ばれ振り返ると、フォーマルなスーツ姿のハルが駆け寄ってきた。


ハル「・・・・・へぇ」


口元に手を当て、私の姿を上から下へと眺める。


「・・・・・やっぱり、このドレス似合ってない?」


ハル「いや、悪くねぇよ。黙って立ってりゃ、その辺の女優と間違えるんじゃねーの?」


「ちょっと、それどういう意味!」


ハル「ははっ・・・」


なんて二人でじゃれ合っていると・・・・


片倉京太郎「相変わらずだな、二人とも」


ハル「京太郎さん!」


「片倉さんも来てたんですね」


片倉京太郎「ああ・・・・・俺は仕事だけどな」


確かに片倉さんの手にはいつものカメラが。


片倉京太郎「せっかくだ、二人の写真でも撮ってやろうか?」


「え、いいんですか?」


片倉京太郎「ああ。・・・・・ほら、並んで」


私とハルは顔を見合わせ、照れくさそうに笑い合った。


「2人で写真なんて、なんか変な気分ね」


ハル「まぁな。仕事で写真は良く撮るけど、プライベートはあんまりねーしな・・・・・

ほら、もっとこっち来いよ。せっかく、綺麗な服着てんだから笑っとけ」


「・・・・・・・!う、うんっ」


ハルは私の腰に手を回し優しく引き寄せた。

なんだかドキドキしちゃって、笑顔どころじゃなかったけど。


ハル「じゃあ、俺そろそろ行くよ。受賞の準備あるから」


「うん、また後でね」


片手をあげ去っていくハルを見送り、私はホッと息を吐いた。


片倉京太郎「ハルは、椎名の隣にいる時が、一番良い顔で笑うな」


「え・・・・」


片倉京太郎「よっぽど、お前のこと信頼してるんだろう」


そう言って、片倉さんは穏やかに笑った。


(私といる時が一番って本当かな?そうだったら、すごく嬉しいけど)

どんなに我慢しようとしても、自然に口が笑ってしまった。


―――授賞式は順調に進み、ハルが受賞される番がやってきた。


司会「続いての受賞者は、モデル・タレントとしても活躍中の『HAL』さんです!」


盛大な拍手の中、ハルが壇上へと上がり、トロフィーを受け取る。


(ハル、受賞おめでとう)

拍手をするたびに、胸の中がいっぱいになって・・・涙までにじんできそうになる。


司会「では、『HAL』さん、今のお気持ちを一言お願いします」


ハル「はい・・・」

マイクを受け取り、ハルは客席へと視線を向けた。


ハル「今回、こんなに栄誉ある賞を受けることになり、感謝と感謝の気持ちでいっぱいです

俺がこのトロフィーを手にできたのも、すべて彼女の支えがあったからだと思います」


(・・・・・え?)


ハルの口からこぼれた言葉に一瞬、会場がざわめく。


ハル「モデルとしても人としても足りなかったことを、彼女が俺に教えてくれたんです

・・・だから、この感謝の気持ちはすべて、彼女に捧げさせてください

本当にありがとう。それから、これからもよろしく

あんた以上に大切だと思える女は、他にはいねぇよ」


「・・・・・!!」


ハルはハッキリと客席にいる私を見て笑った。

受賞のスピーチなんかじゃない。

最後は明らかに、私へのメッセージ・・・・・・


(な、なんてことをなんてタイミングに言うの!?)


ざわめきのおさまらない会場の中で、私は真っ赤になったままうつむくことしかできなかった。

・・・・・その後は、本当に大変だった。

会場にいた記者たちが、波が押し寄せるようにハルの取材をしたいと殺到。

会場にいるらしい「彼女」は誰なのかと、捜索まで始まってしまったから。

私とハルは、京太郎さんやマネージャーさんに助けられなんとか外に逃げることが出来た。


「・・・・・もう!どうして、あんな所であんなこと言ったの!?」


ハル「仕方ねぇだろ、あんたの顔を見つけたら、急に言いたくなったんだ

それに、あんたの名前は出してねぇんだし・・・気付かれないだろ?」


なんて、当の本人は全然気にした様子はない。


(もう、相変わらず自信家っていうかなんていうか・・・)


・・・・・私たちは、いつかのあの海へと足を運んでいた。

ハルが私だけに教えてくれた秘密の場所。


ハル「はー、やっぱここに来ると落ち着くなー・・・」


「自分が騒ぎを起こしたくせに、よく言うよ・・・」


ハル「いいんだよ。いつかはどこかで言うつもりだったし

それがたまたま、今日の会場だっただけだ」


「・・・・・・・?」


言葉の意味が良く分からなくて私は眉間にシワを寄せた。


ハル「・・・自分に自信がなくて、ずっとかなでに言えなかった

俺、かなでが好きだ。・・・誰にもあんたのこと渡したくない」


「・・・・・!」


ハルの真剣な目つきにドキンと心臓が跳ねる。


ハル「俺と一緒にいろよ。・・・絶対、後悔させたりしねぇから」


高鳴る胸を押さえながら、私はハルをジッと見つめた。


「ハル・・・・・。私のこと、好きなの?」


ハル「・・・・・じゃなかったら、キスしたり、湊さんにヤキモチ妬いたりしねぇだろ!」


「あれ、やっぱりヤキモチだったんだ」


ハル「・・・あの人、かなでにベタベタ触り過ぎなんだよ。マジで許せねーし・・・・」


ハルは拗ねた顔で、苛立ったように砂浜を踏みつけた。

その様子が何だかかわいく見えて・・・・・思わず笑ってしまう。


「・・・・・・・ふふっ」


ハル「笑うなよ。こっちは真面目に言ってんだから」


「ハルも自分に自信がないとか思うんだね・・・そう思ってるの、私だけだと思ってた

ハルには私は似合わない。だから・・・好きだなんて、言ったらダメだって・・・・・」


ハル「・・・・・かなで」


ハルは長い腕を伸ばしギュッと私を抱き寄せた。


ハル「今の・・・・・俺の告白の返事とみなすぞ。いいんだよな?」


「うん・・・・・」


小さくうなずきながら、ハルの胸へと顔を埋める。

・・・・・この日。

お互いの想いを伝えあい、私とハルは恋人同士になった。