・・・・・・翌朝。待ち合わせの20分前。

鏡の前に立ち、自分の姿をジッと見つめる。

デートじゃないってそう決めたはずなのに

気付いた時には、完全に勝負服を着ている自分がいた。


(スカート似合わないかな?今年の流行だって言うから、買ってみたけど・・・・・・

やっぱり、いつも通りパンツスタイルの方が私らしいかも・・・

年相応のかっこうしろよ、とかハルなら言いかねないし)


「うん、やっぱり着がえよ!」


うなずいて、再びクローゼットを開けようとした時だった。


ピンポーン!


「えっ・・・・・もしかして?」


ドキッとしながらインターホンに出る。


ハル「おい、迎えに来たぞ!」


「は、ハル!?あ、えっと・・・今行くからちょっと待ってて!」


(どうしよう、もう来ちゃったの!?)


オロオロしながら時計に目をやると、10時5分前。

1人で色々悩んでる間に、時間はあっという間に過ぎていた。


(着がえてる時間なんてない!もういいや!このまま行こう!)


緊張しながら部屋を出ると、いつもに比べれば地味な格好をしたハルがいた。


ハル「よお、来たな」


ハルは片手をあげ、いつもの笑みを向けた。


(う・・・・・困ったなぁ。見慣れてるはずなのに、かっこいいとか思ってしまった

・・・・・自分の気持ち、自覚しちゃったからなぁ

気をつけないと、顔に出てハルにばれちゃう・・・・)


そっと胸に手を当てると、ドキドキと鼓動が早まっていくのが分かる。


ハル「・・・・・・ふぅーん」


「え、な、何!?」


ハルは口元に手を当てながらニヤニヤと私をながめる。


ハル「そういう服、あんたにしては珍しいな」


(やっぱり、言会われた!!)


「わ、私も一応、ファッション誌の編集者だし?

流行はつかんでおこうかーと・・・・」


視線をさまよわせながら、なんとかいいわけを考える。

大丈夫、ウソは言ってない。ウソは・・・・・。


ハル「ま、悪くねぇんじゃん?」


「えっ・・・・」


ハル「いつもの私服だと、仕事してる時とあんま変わんねーけど・・・・・

今日は、マジでプライベートって感じがして・・・・なんかけっこう、うれしいな」


ハルは照れくさそうにしながらくしゃりと前髪をかきあげた。


「い、いつの間にか、お世辞がうまくなったね!」


ハル「お世辞じゃねーよ!

珍しくほめてやったんだから素直に受け取れよ!」


「ふふ、ありがと。そう言うことにしておく!」


ハル「はいはい・・・じゃあ、行くか。時間ももったいねーしな」


「うんっ」


スカートのすそをひるがえしながらハルの背中を追いかけた。

うれしくてうれしくて・・・

その背中に飛びつきたくなる気持ちをおさえながら。


「んー、風が気持ちいい!

こんなにのんびり過ごす休日なんて久しぶり!」


ハル「俺も、オフの日に出掛けるのは久しぶりだな。

休みっていっても実際は部屋で仕事してたし・・・」


「たまには、仕事を忘れてゆっくりするのも大事だよ?」


ハル「ああ・・・だから、今日はあんたと一緒に過ごしてるだろ?」


「・・・・・・!」


ふいをつくような、優しいほほえみ。

カァッと頬が熱くなるのが分かった。


ハル「俺、色んなこと知ってるつもりで、すげー視野狭かったってわかった

成功も失敗も・・・・・全部が俺の経験になるんだよな

今までの俺の人生、ダメなことは一つもない。そう思えるようになりたい

今はまだ、後悔したり消したい過去ばかりだけどな」


ハルは大きく伸びをしながら、青く広がる空を見上げた。

その横顔は、なぜだかドキッとするほど大人びて見えた。


ハル「・・・・・俺がそんな風に思えるようになったのは、あんたのお陰だよ」


「え、私?」

ハル「ああ・・・・・・。あんたと出会って、色んなことあったけど、俺なりに感謝してる」


「・・・・・・・・ハル」


まっすぐに見つめられ、私は目を離せなくなった。


ハル「あのビンタも、俺にとっては良い経験だった」


「・・・・・・・・・!

その話はしないでって言ったでしょ!?」


ハル「ははっ、あんたにとっても良い経験になったろ?

こんなイイ男の顔、そうそう叩けねーぞ?」


ハルはニヤッと笑いながら自分の頬を軽く叩いた。

・・・・・前言撤回。やっぱりハルはハルのまま!

こうして、私をからかって楽しんでるんだから!


「なら、もう一度叩かせてよ!」


ムキになった私が拳を振り上げると、ハルは大げさに逃げるふりをした。


ハル「モデルの顔に拳はまずいだろ!」


「今はどんなアザだってメイクで隠せるんだから!」


ハル「それ、どんないいわけ・・・・」


なんて、2人でじゃれ合っていると・・・・・・


女の子たち「あっ、『ハル』だ!」


ハル「・・・・・・!」


一瞬にして私たちの動きが止まる。


(もしかして、バレた?)


女の子たち「本当だ!『HAL』の超特大ポスター!やっぱりかっこいいよね~」


女の子達はビルの巨大広告を見上げながら目をキラキラさせた。


(ああ、びっくりした。あのポスターの方のハルね)


女の子たち「はあ、一度でいいからナマで見てみたいなぁ」

「私、会った瞬間に絶対気絶する~っ!」


そんな話をしながら、女の子たちは私たちの前を通り過ぎて行った。


「・・・・・・・・・・・・」


ハル「気絶してねーじゃん」


ハルは少し不機嫌そうにボソッとつぶやいた。


「ふ、あははっ!」


思わず私が吹き出すとハルもつられたように笑い出した。


ウィンドウショッピングを楽しんでいると、ふいにハルが足を止めた。


ハル「・・・・・・・・・あれ、なんだ?」


「ああ、ホットドックの屋台みたいね」


ハル「へぇ、車で移動販売できるようにしてるのか・・・・・」


「このあたり、他にもお店が出てるみたいだから、何か食べてく?」


ハル「そうだな、そろそろ飯時だし。かなでの好きなもの選べよ」


「うーん、それじゃあ・・・」


あたりを見回し、目に止まったのはタコ焼きの屋台だった。


「タコ焼きがいいな!アレなら2人で食べられるし」


ハル「たこやき・・・・・・・・」


「もしかして、食べたことない?」


ハル「・・・・おう」


「外はカリカリ、中はトロトロですっごく美味しいんだよ。

きっとハルも気に入ると思う!」


ハル「そうか・・・・待ってろ。俺が買ってくる」


「えっ・・・・」


驚く私を置いて、ハルは足早に屋台へと向かった。


(1人で、大丈夫かしら?)


心配しながら見守っていると、予想通りハルはお店の人と何かもめてるように見えた。


(行くべき?でも、待ってろって言われたし・・・・)


―――数分後。

タコ焼き片手にハルが戻ってきた。


ハル「悪い、待たせた」


「どうしたの、大丈夫?」


ハル「・・・・カード、使えないんだな、屋台って」


「・・・・・・・・!!」


まさかの発言に、私は一瞬言葉を詰まらせた。


(そ、そっか!ハルは100円単位の買い物なんてしないんだ!)


こんなところで、庶民とセレブの差を感じてしまう。


(う、うーん・・・・・。タコ焼き、ハルの口に合うか心配になってきた・・・・)


ハル「なんだよ、食わないのか?」


「あ、ううん、食べる食べる!いただきます!」


つまようじにプスッと刺して、ハフハフしながら口の中へ放り込む。


「はふ、熱い・・・・・ん、でも美味しい!ハルも食べてみて?」


ハル「・・・・・・・」


ハルは私の見よう見まねでタコ焼きを口の中へ。


ハル「・・・・・・・」


「どう?」


ハル「・・・・・うまい」


「でしょ?良かった、口に合って!」


パクパクとタコ焼きを口に運ぶハルを見て、私はホッと胸を撫で下ろした。


(なんだか今日のハルは朝からずっと笑ってくれてる気がする・・・)


楽しそうなハルを見るのはうれしかったけど・・・私は少し違和感をおぼえていた。


デートも終盤にさしかかった頃、ハルは私をある場所へと連れてきた。

それは人のいない静かな夜の海岸・・・・・・。

寄せては返す波の音が、心の奥にしみこんでくる。


「わあ・・・・・静かで良い場所ね」


ハル「だろ?ここ、俺の秘密の場所。連れてきたのはあんたが初めてだよ」


そう言ってハルはフワリと優しくほほえむ。


ハル「俺、昔から何かあるたびに、この海岸に来て1人で過ごしてた

夜の海って少し恐ぇーけどなんか色んなもんを洗い流してくれる気がして」


「うん・・・。なんかちょっと分かるかも」


南の島とは違う、日本の海。

月の光が海面でゆれる様子を見ていると、不思議と切ない気分になってくる。


ハル「・・・・・・・・俺さ

京太郎さんや湊さんのことはプロとしてすげぇと思ってるけど信用してるわけじゃないんだ」


「え・・・・・・?」


ハル「ずっと両親にほっとかれてたからな・・・・・・・。

だから、人を信用することが俺にはすごく怖い・・・・・

でも、あんたは違う」


ハルは私の手にそっと自分の手を重ねた。

その温もりにドキンと心臓が弾む。


ハル「俺がどんなに突き放しても目をそらさず、立ち向かってきた

ちゃんと俺を・・・1人の人間として扱ってくれた

俺、世界で唯一、あんたのことだけは信用してる

かなで・・・・・あんたは俺のことどう思ってる?」


「私は・・・」


「私も、ハルのこと信用してる。当たり前でしょ?

今まで色んなこと、一緒にやってきて、ハルなら大丈夫だって分かってるから」


ハル「・・・・・・・・そうか。あんたも俺と同じ気持ちだったんだな」


「だから、何かあったらいつでも私を頼ってね!私もハルを頼るから!」


ハル「ああ、サンキュ」


私がうなずいて見せるとハルはうれしそうに笑った。


ハル「さてと、そろそろ帰るか。明日も仕事あるし」


「そうね・・・・・・っ、きゃ!?」


歩き出そうとすると、砂に足を取られ、ぐらりとバランスを崩した。


ハル「かなで!」


転びそうになった私の手を、ハルが勢いよく引き寄せる。


「・・・・・!」


自然と抱き締められるような形になって・・・・

気付いた時には、ハルの腕の中に閉じ込められていた。


「・・・・・あ、ありがと」


ハル「あんたって、本当にそそっかしいよなー

しっかりしてるように見えてけっこう天然だし・・・ニブイし」


「に、にぶくないわよ!私は・・・・・」


パッと顔を上げると至近距離にハルの顔・・・・・・。

月あかりに照らされ、見とれるほど綺麗だった。


(・・・・・・もう少しだけ、このままでいたいなんて、思ったらダメよね

だって、私とハルじゃ住む世界が違いすぎるもの)


「もう、大丈夫だから・・・・」


小さく笑いかけ、そっとハルの肩を押す。

でも・・・・・・


ハル「かなで・・・・」


「え・・・・・」


ハルは私の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけてきた。


「・・・・・・!?」


突然のことにおどろき、あわててパッと顔をそむけた。


「つ、付き合ってもないのにこういうのは良くないと思う!

ハルは、慣れてるのかもしれないけど・・・私はっ」


とまどう私を、ハルは強引に抱き寄せ・・・・・


「んっ・・・・・」


ハル「・・・・・・・・」


深く唇を重ねた。

 

(ハル・・・・・どうして・・・?)


逃げ出そうと身をよじる私の背中をハルが優しくなでる。

まるで、大丈夫だよと、安心させるみたいに・・・・


(この前のキスとぜんぜん違う。

優しくてあたたかくて、胸の奥がドキドキする・・・)


ハル「・・・・かなで」


そっと離した唇から、私の名前を甘くささやく。


ハル「・・・・・大丈夫だ。俺を信じろ」


ハルはそう低くつぶやき、私の身体を強く抱き締めた。

突然のキスで、私の頭の中はまっしろ。

このキスの意味も、ハルの言葉の意味も私には分からなくて・・・・

ただ今は、ハルのあたたかくて優しい腕の中に包まれていたかった。