--------翌朝。

窓からさしこむ光にぼんやりと目を覚ました。

かなで「んん、まぶし・・・・・」


ハル「目が覚めたか?」


「・・・ハル?!どうしてハルが私の部屋に・・・・・・」


「・・・・・・・・・・あっ!」


一気に頭が覚醒し、ガバッと起き上がる。

どういうわけか、私の現在位置はベッドの上・・・・・。

「ど、どうして私がベッドで寝てるの?」

「っていうか、体調は!?起きてて大丈夫なの?」


ハルはイスに腰をかけながら、いつの間に頼んだのか、

モーニングコーヒーを楽しんでいた。


ハル「このイス使いたかったのにあんたがグースカ寝てるから、そっちにどけたんだよ

病みあがりの身体に、きつかったぞ?もう少しダイエットしろよ」


「なっ、よ、余計なお世話よ!」


ハル「それから、もう朝の9時だ。いろいろ準備しなくていいのか?」


「えっ!そ、それを先に言って!」


慌ててベッドから飛び降り、私は扉へと走った。


(シャワー浴びて、ご飯食べてメイクしてっ・・・ダメだ、ご飯は抜こう!)


「あっ、ハル!」


ハル「あ?」


「おはよう!」


ハル「・・・・・・・・」


だいぶ遅くなったあいさつにハルは一瞬目を丸くした。


ハル「おせーよ。・・・・・ああ、おはよう」


でもすぐに口の端を上げ、いつもの意地悪な笑顔をくれた。


昨日はどうなることかと思ったけどあの憎まれ口が叩けるのなら、もう大丈夫。

お礼の1つも言わないところがハルらしいと言えばハルらしい。

やっぱり、どんなに口が悪くても元気なハルの方が良いな・・・・。



--------そして、3日間にわたる南の島の撮影は無事に終わった。

青い海と青い空に囲まれた、海外での生活というものにも憧れたりもするけど・・・・・

やっぱり、日本食が1番。やっぱり、和食が1番。

そんな話をスタッフたちとしながら日本へ向かう飛行機に乗り込んだ。


数時間のフライトを終え、無事に日本へと到着した。

これが普通の旅行だったらこのまま家に帰るんだけど、そういうわけにもいかない。


(とりあえず、一度会社に戻って編集長に報告して・・・・・

ハルの写真は、データで送ってもらうことにして、私は記事をまとめないと・・・)


なんて、頭の中ではもう次の仕事の進行について、予定を立てていた。


ハル「・・・・・・おい、かなで」


「あ、ハル。お疲れ様!

体調悪くなったら、我慢しないですぐ病院に行くのよ、いい?」


ハル「・・・・・・」


「じゃぁ、私はここで!また連絡するからね」


軽く手を上げ、歩き出そうとしたところで、ハルが私の腕をつかんだ。


ハル「・・・・・・あのさ」


「どうしたの?」


ハル「ホテルでは、色々世話になったな

情けないとこ見せたけどあんたのおかげで助かった」


ハルは不機嫌そうな顔をしながら、モゴモゴとお礼を言った。


(・・・・・・相変わらず、素直じゃないわね~)


「大丈夫、気にしないで」


吹き出したいのをこらえながら笑顔を作ってみせる。


ハル「俺は借りはちゃんと返す男だから・・・・・・・・この礼はきっちりしてやる」


「・・・・・・え?」


ハル「俺がオフの日には連絡するから、あんたも空けておけよ」


ハルは急に背筋を伸ばすと得意げな顔で私を見下ろした。


「それってつまり・・・・・・」



選択肢

・何かごちそうしてくれるの?

・デートのお誘い?

・またカレーが食べたいの?


「デートの誘い?」


なんて冗談っぽく言ってみる。


ハル「そんなわけねーだろ!お礼だよ、ただのお礼!」


「・・・そんな全力で否定しなくても・・・・・」


ハル「・・・・まあ。あんたも寂しい女だしな

デートって思いたいならそう思っててもいいけど?」


ハルはふんと鼻をならしながら、なぜか偉そうに胸を張った。

その顔は、心なしか赤いように見える。


(・・・・・素直じゃないんだから)


ハル「・・・・・とにかく、俺が連絡するまで待ってろ。いいな?」


「待ってろって・・・・・私にも色々都合ってものが

ハルの休みの日に、私が休めるかなんて分からないし、新しい企画だって・・・・・」


眉を寄せ文句を言うと、ハルは私の手を軽く引いた。


「え・・・・・」


ハル「・・・・・・・・・」


チュ、と軽くオデコに柔らかいものが触れる。


「・・・・・・・!!!」


ハル「お礼の前払い。残りは、今度払ってやるよ。・・・・じゃーな!」


「はっ、ハル!!」


赤い顔でオデコを押さえる私を、ハルはニヤニヤながめながら去って行った。


(っ、こんな所で何かんがえてるの!?誰かに見られでもしたらっ・・・・)


慌てて周囲を見回す。

でも、ざわめくロビーで私たちを気にする人は、誰もいなかった。



・・・・・それから数日が過ぎた。

でも、ハルからの電話は一度も来ていない。


「颯太先輩、頼まれてた資料、これでいいですか?」


颯太「うん、サンキュ!ごめんね、かなでちゃんも忙しいのに」


「いえ、大丈夫です。最近、少し落ちついてきたので」


颯太「えー?『HAL』の担当になったのに、なんで?」


「『HAL』特集も終わりましたし今は新しい企画も立ってないので私の出番はないんです

また、来月辺りには動き出すと思うんですけど、それまではちょっとお休みです」


颯太「そっか~・・・・『HAL』に会えないと寂しいでしょ?」


「そんなことないですよ。彼は仕事相手ですし・・・・

それに、テレビや雑誌で1日に1回は『HAL』の顔見られますしね」


颯太「ははっ、確かにそうだ!」


颯太先輩は楽しそうに笑ってうなずいた。


颯太「じゃあ、資料ありがとう!」


「いえ、また何かあったら言ってください」


先輩の背中を見送り、深くため息をつく。


(・・・・・もう10日以上ハルに会ってない

連絡するって言ったのに、どうしてるんだろう?

お礼がしたいなんて、やっぱり冗談?)


颯太先輩にはああ言ったものの、本当はやっぱり気になっていた。

胸の中に込み上げる不安は時間が過ぎるほどに大きくなっていく。


(手を伸ばしたら触れる場所にいたのがウソみたい・・・)


デスクに置かれた雑誌をめくると、すぐにハルの写真が目に飛び込んで来た。


(雑誌やテレビでハルの顔を見るとかえって寂しくなる自分に気づく

絶対違うって自分に言い聞かせてたけど・・・・

私のこの気持ちってやっぱり恋なのかなー・・・?)


携帯を取り出し、着歴を見ても、やっぱりハルからの連絡はない。


(この恋は・・・・・絶対にしたらいけなかったのに・・・

モデルと編集者だなんて立場が違いすぎるもの)


理屈ではそう分かっていたけど、同時にもうこの気持ちは止められないこともわかっていた。




「はあ、疲れたー・・・・・・・・・」


仕事を終え、重い気持ちで会社を出る。


???「・・・・あいかわらず、化粧っけのない顔してるな」


「ほっといてよ。これでも、私なりのフルメイク・・・・」

「えっ?」


横から聞こえてきた声にパッと顔を向けると・・・・・・・・


ハル「・・・・・よお」


いつもと変わらない、どこか生意気そうな笑顔のハルが待っていた。


「ハルっ!?こんな所で何やってるの!?」


ハル「何って、あんたを待ってたんだけど?」


驚く私に、マイペースなハル。

10日以上も会ってないのに、そんなの気にした様子もない。


「そうじゃなくて!この後、生放送の番組に出演するんじゃないの!?」


ハル「ああ、だから15分しか時間がない

マネージャーに頼んで寄り道してもらったんだ」


「15分しかないって・・・」



選択肢

・わざわざ私に会いに?

・じゃあ今度にして

・メールでも良かったのに



「・・・・・わざわざ私に会いに来てくれたの?」


ハル「・・・・・・まあな。連絡するって言ったろ?」


「そうだけど・・・・・会いに来るのは連絡するって言わないよ」


ハル「細かいこと気にするなよ。・・・・俺が会いに来てやって、うれしくねーの?」


「それはまあうれしいけど・・・・・・・・」


ハル「だろ?」


ハルはニッと口の端を上げて笑った。


「・・・・・・えっとそれで、本当の用事はなんなの?」


腕時計を気にしながらたずねると、ハルは一瞬口ごもった。

 

ハル「えーと、まあ、つまりアレだ」


「・・・・・・どれ?」


ハル「明日、オフなんだ。お礼してやるから付き合え!

朝10時に迎えに行くからな!」


ハルは赤い顔をしながら一呼吸で言い放った。


「えっ、それ本気だったの?」


ハル「当たり前だろ!借りは作らねぇ主義なんだ!」


「私、借りを作ったなんて思ってないし・・・・・久しぶりのオフなんでしょ?

この前のこともあるんだし・・・

ゆっくり休んだ方がいいと思うけど・・・・・」


私の言葉にウソはなかった。

ハルにはゆっくり休んでほしいと思っていたし、貸しを作ったつもりもない。


(ハルと一緒に過ごせるのはうれしいけど・・・・・

一緒にいたら、この気持ちはもっと大きくなってしまう

自分でも押さえられないぐらいに)


ハル「・・・・・・なら、こう言えばいいか?」


「え?」


ハル「あんたとまた出掛けたい。

クレープ食ったり水族館行ったり・・・・・・

ああいうこと・・・・・また、したくなったんだ

お礼するとでも言わねぇと、誘いにくいだろ」


ハルは赤くなりながら不機嫌そうな顔でそっぽを向く。


「・・・・・・・・・・・」


予想外のハルの言葉に、思わず何度か目をパチパチさせた。


ハル「なんだよ」


「えっと、それってつまり私と出掛けたいってこと?」


ハル「そうだよ、悪いか?」


「悪くはないけど・・・・・」


悩むフリをしながら、高鳴る鼓動を、なんとか押さえようとした。


(・・・・・・・どうしよう・・・・・・・・

ダメだって分かってるのに、すごくうれしい・・・・・

お礼だからじゃなくて、私と出掛けたいって思ってくれてたんだ)


胸に当てた手から、トクントクンと心臓の音が伝わってくる。


(ただ一緒に出掛けるだけ。今までと同じ。特別なことなんてないんだから)


そう自分に言い聞かせ、私は顔を上げた。


「よし、じゃあ、私が庶民のデートを教えてあげる!」


ハル「デートじゃねぇよ!ただ、出掛けるだけだ!」


「はいはい、分かってる。明日の10時でいいんだよね?」


ハル「……遅れるなよ?」


「そっちこそ」


お互いに顔を見詰め合い、そして笑った。

こんな風に、茶化したり流したりすれば、きっとごまかせる・・・・。

私の気持ちは、ハルに気付かれてはいけない。

だって、私は・・・・・・

自分の立場をよく分かっているんだから。