再びなんとなく書いた続き。もう名前を伏せる意味ないな。まあいいか。あの人も出しちゃったからなんかもう本編進めなきゃだめなような。でもあれやりたい。しかしちょっと年齢適当だから後々修正するかもです。
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力持ちは便利だ。自分の力に自覚的で、尚俺が非力であることを承知してくれているというのが非常に勝手が良かった。
「これもおれが持ちます」
「ああ頼む」
何も言わずとも意を汲んでくれるマルタはいい助手だった。
辺りを見渡す。下見はざっと終わっている。今はなるべくこっそり爆弾を仕掛けに行く時間だ。付近の町の駐屯兵は邪魔なので付近の警戒に当たって貰っていた。全く持って無能なやつらばかりであった。
「ねえねえおちび君、正直護衛がいないのはとても危険だと思うんだけど。僕は戦えない人だからね? ただの学者だもん」
マルタは口数が少なくとてもいいのだが、応援として呼び出させたこいつは非常に厄介なおしゃべりだった。こめかみが痙攣するのが自分でわかる。
「おい馬鹿学者。お前はもう帰っていいんだっての。もう変異種の情報は貰えたから用なしなんだよ……」
「おちび君は冷たいねぇ。僕はもうちょっと生態調査したいんだよ。あわよくば番で捕獲して観察したいくらいなんだけどまあ被害も甚大みたいだから僕は出しゃばらないことにしたけど、でもせっかくだからせめて見たいんだよねー」
「うっさい帰れ」
「あらら、そんなこと言っちゃっていいのかなーん?」
急に意味深に目を細めて言ってくる馬鹿学者。気色悪いが嫌な予感がするので「なんだよ」と問う。
「相手は随分情報少ないし、不測の事態を考えて変異種のスペシャリストを置いていた方がいいと思うけどなぁ。まあ変異種と心中するって言うなら無理にとは言わないけど。僕は死にたくないからあんまり自爆魔さんの近くにはいたくないものー」
マルタの纏う空気が一瞬にして逆立ったのがわかった。馬を宥めるように腕を擦る。頭には届かないからな。
「自爆はしない。でも確かにその通りだ。悪いが引き続き同伴を頼む」
「ふふ、意外と素直なんだね。もちろんいいよ。僕結構君のこと嫌いじゃないかも」
厭らしい笑みを浮かべる学者野郎にため息を吐くと「行くぞ」と声をかけた。
*
予定されていたのは危険度の低い兎の変異種だったのだが、事前準備で調べていた姿と現地で見たものが随分異なっていたため急遽新日本政府お抱えの変異種学者を召喚させた。来たのは相当難儀な性格をしたおちゃらけ野郎だったが仕事は確かだった。再同定の結果、一例しか報告がないような変異種だった。ランクはA。兎からベースなのは同じだがこいつの場合は百単位のコロニーを作る上に狂暴化した場合集団で襲ってくる。今までは巣から離れたところで駆除していたので集団で襲われていなかったが、周辺で繁殖を繰り返しコロニーが分裂し、繋がり、広がることを繰り返している内に町付近まで巣が伸びていることがわかった。
肉食でかつ、集団時は大きさを無視して襲ってくるため、唯一の前例では村が一つ食われている。その例ではその後絶滅が確認されているので正確には同じ変異種ではないかもしれないが、良く似た進化をした可能性は非常に高い。推定一万体の兎の変異種を可及的速やかに駆除しなければ今度は町が食われるだろう。
「名称は正確には決まってないんだけど、村喰兎って研究者間では呼ばれることが多いね」
「村を喰った兎、かよ」
わかりやすいが嫌な名前だな、と思う。
「ねえすーくん」
「…………は?」
俺のことか? と目をかっぴらいて問うと、そうだけど? と逆に不思議そうな顔で首を傾げられた。まあ確かに間違ってはいないが……すーくんて。まあおちび君よりはマシ、か?
「……なんだよ」
「ちょっとやばいかも」
神妙な空気を感じて俺も眉をひそめる。
「あれも多分コロニーの出口だ」
学者野郎が指さした先には確かにこんもりと盛り上がった土山があった。
「今まで想定していたコロニーの配置とあれは完全に違う。出口が森の外を向いているということは恐らく外から来たんだ。このままでは森のコロニーと繋がる……」
そうなったら一体どんな規模になるっていうんだ?
「コロニーがどっから来てるか、どの程度の規模か調べられるか?」
「調べられるけど時間がない。繋がってしまったらとんでもない数を相手にする必要がある。いや、そもそもあんなに近かったらあのコロニーを攻撃しなくとも攻撃と見做されてしまうかもしれない」
学者は蒼褪めていた。最悪の状況ということか。
「わかった」
俺はマルタに目配せし、踵を返す。爆弾を回収するのだ。
「ちょ、ちょっと!」
慌てた学者が俺の肩を掴む。
「一体どうするつもり?」
「何、簡単なことだろ?」
その時どんな顔をしていたかは自分ではわからなかった。でも学者の表情は良く覚えている。
「全部吹っ飛ばせばいいだけだ」
恐怖したような、そんな酷く脅えた顔だった。
*
俺はすぐに追加の材料を持ってこさせると組み立てに取りかかった。時間が勿体ないので学者や兵士にはコロニーの把握を頼んだ。
最終的な作戦はこうだ。最低限の爆弾でコロニーを吹っ飛ばす。それでも残ったり、町に襲いかかろうとした村喰兎は森諸共爆破する。そんな大雑把で無茶苦茶な作戦だった。
「町まで焼けてしまいませんか?」
「大丈夫だ。万が一に備えて町にも爆弾を仕掛ける」
「それは大丈夫ですか?」
「ああ。爆風をぶつけて火を消すためにしか設置しないし、元から町人は一か所に避難させる予定だからな」
「大丈夫ですか?」
しつこいな、と思い、顔を上げて文句を言おうとしたら、言えなかった。
とてつもなく心配そうに俺を見詰めるマルタがいたからだ。いくら鈍くても、流石にそれが俺自身に対しての心配であることはわかった。
「……ちゃんと休むから、大丈夫だ」
「はい」
なぜこいつの笑顔はこうも柔らかく温かいのだろうか。なんだか妙に恥ずかしい気分になりながら逃げるように手元に視線を落とした。
*
「外部コロニーが明日にでも繋がるだろうとのことです」
「そうか」
そろそろやらなければならない。
実は一つ勝算の理由がある。獣は火を怖がる。正直何も縁のない場所で危険なものに出くわしたら普通は逃げるものだろう。だからコロニーが繋がる前に叩く必要がある。素人考えだが学者も賛同してくれたことだ。そもそも他に手などありはしないのだ。
「今夜決行する。兵士共と学者殿を呼んできてくれ」
「わかりました」
マルタが出ていく。決戦は今夜。
*
爆破決行まであと三十分。とても興奮している。
表面上はあまり変わらないし、冷静に状況を把握し行動できているとは思う。しかし沸き立つような熱を体の奥底に感じる。頭の片隅にあるのは爆発のシミュレーションだ。多分これのせいだ。熱くて熱くてしょうがない。
「大丈夫ですか?」
「ああ大丈夫だ。ただ凄く、楽しみなんだ」
顔まで溶け出しているような気がしてならない。
不意に手を握られる。行動の理由が良くわからずマルタの顔を見上げる。やたら優しい笑顔を浮かべ、大きな両手で俺の細くてちっこい手を包む。一瞬熱さを忘れた。
温かい。
「大丈夫です」
心配してたのはお前なのに、お前が大丈夫って言うのはおかしいだろう。そうは思ったが、なぜか急に安堵した、そんな感覚があったからか。
「あり、がとう」
気がついたらそんな言葉が口をついていた。
初めて人に感謝した。
*
定時になり、「爆破!」と言ったことは覚えている。しかしその後のことはまるで夢でも見ていたかのようにぼやけていた。
黒一面の世界に赤や橙が咲いた。遠くから迫ってくる音と衝撃に、俺は歓喜した。多分ずっと待っていたものだった。
“爆弾魔の俺“が。
その後俺は森を爆破した。必要だと判断したからだ。
本当に?
*
「俺は爆弾魔だった。それだけだ」
髭のおっさんの前に帰ってきて開口一番に言ったのはそのことだった。
「だから?」
試すような疑問形が腹立たしかった。
「だから! 俺はもう爆弾作っちゃいけねえんだよ! いつ本当に爆弾魔になるかなんて俺にもわからない! ただ一つ言えるのは俺には自制が利かないってことだけだ! 俺は――」
先の言葉が続かない。声が詰まって窒息しそうだ。
俺は部屋を飛び出した。途端にもうすっかり見慣れた人にぶつかって、崩れ落ちて、抱き着いて、叫んだ。
「おれわぁ! だれもごろじたくないー!」
なのに爆弾に陶酔する自分が確実に俺の中にいる。それが怖い。大量殺人がこれほどいとも簡単にできる代物もないだろう。そういうものに心奪われる自分が怖い。何より、吹き飛ぶ生物を見て。
快感を得ていることに気づいた自分が、怖い。
「おれは、どうすりゃ、いいんだ……」
「好きなことをやればいいです」
抱き締められる。
「あなたが嫌なことは、おれが止めます。だから、大丈夫です」
大丈夫なんです。
そう言って抱擁してくれることの安心感は本当に、救いだった。
爆弾が好きな俺。
殺人鬼にはなりたくない俺。
どっちも認めてくれるというのなら、俺はそれがいい。
ああなんて我が儘なんだろうか。
***
初陣から今まで、たくさん学んだ。そしていろんなことをした。髭のおっさんといたずらを考える子どもみたいにトラップを考えて設置してみたり、土砂で崩れた道を爆破で通れるようにしたり。
やがて俺は十二歳になった。
「という訳で入隊おめでとう」
「……あんたが適当なのはよーくわかってる。でも流石に試験もなしに、意思確認もなしに入隊とか、あほなのか? 爺」
髭爺という方がしっくり来るような風貌になった総司令官殿に呆れ返った顔を向けると、楽しげに声を上げて笑い出した。
「ついでに一小隊新しく組んだからお前が隊長な」
「はあ!?」
「指揮能力に問題はないはずだと報告を受けているからね。まあそもそもお前、命令されるの嫌いだろう? 丁度いいじゃないか。いっぱい働けばちゃんと偉いのにしてあげるから頑張んなさい」
「くそ爺ぃ! 頭とうとう湧いたのか!」
「ほら補佐が外で待ってるから早く行きなさい。任命式が始まっちゃうよ?」
はあ、と話を聞かない爺さんと話していても仕方ないと踵を返す。てか。
「どうせ補佐ってマルタだろ?」
言いながら扉を開けたらびっくりしたマルタが立っていた。
「なぜわかったんですか!」
「いや、わかるだろ普通……はぁ。まあよろしくマルタ」
肩をポンと叩いた。
*
それからが地獄だった。
「また、死んだ、か」
爆弾なんてなくたって人はあっさり死ぬ。二年も経てばそんなこと嫌ってほどわかった。わからされた。
俺は中隊長になっていた。
「リーダー、このまま挑んでも死傷者が増えるだけです。学者の研究の護衛に徹するしかないのではないでしょうか?」
「そんなことをしている間にまた集落がなくなるぞ」
「しかし!」
「もう部隊は出さない。護衛任務以外は怪我人連れて本部に引き返せ。俺は意見通したら戻ってくる。お前はここに残れ」
「……はい!? 言っていることがわかりません!」
「俺がなんとかするって言ってるんだ。俺は急ぐから他のやつらには適当に言っとけ」
「ちょ、ちょっとリーダー!」
静止の声を無視して外に出ると困った顔をしたマルタがいた。
「また困らせて。周りを気遣える男になるんじゃなかったんですか?」
「お前は昔から小うるさいな。仕方ないだろ、こうなったらもう正攻法では無理だ。ただの兵士では……無理だ」
今俺の中隊は巨大な変異種の対処に駆り出されていた。しかし全く歯が立たず、既に死傷者は半分近い。もう無理なのだ。
爆弾魔なんかでないと、無理なのだ。
「俺もついて行きます」
「小隊長(おまえ)はお前の隊の面倒を見るのが仕事だ。俺の世話をする担当じゃないだろ」
「俺は一生あなたの担当でいたいんですがね」
随分武骨に育ったが相変わらず俺に向ける表情は柔らかい。
「勝手にしろ、と言いたいところだがもう組織に属したからには責任がある。お前はお前の務めを果たせ」
「……はい」
寂しそうな笑顔を振り切るように背を向けた。俺は俺のすべきことを、する。
*
「心中でもする気か?」
珍しく険しい顔をした爺さんに問われ、俺は嘆息する。しかし答えない。するつもりはないと言いたいところだが正直それは現実的でなかった。
「相手は動く的だ。なるべく近づいて、ギリギリまで引きつけて爆破する必要がある。最悪、俺が爆弾を背負う必要もある」
「自殺なんて許可できると思うか?」
「一つで多くの人が助かるんだ。お得だろ?」
「命をもののように数えるな」
本気で怒ってるな、ということはわかった。
*
「もうこれは勝手に実行するしかねえかね」
廊下を歩きながらぼやく。材料は十分部屋にあるし、馬を差し押さえられなければ行ける。そんなことを考えていた時だった。
「手伝ってあげるよ、その作戦」
「はっ?」
振り返ると亜麻色の髪の女が立っていた。見覚えがないから多分遠征組の新入りだろうか。あそこは放浪ばっかりでなかなか全員と会う機会がない。年は二十代といったところか。
「私は新見長閑(にいみのどか)。休暇中だから誰にも迷惑かからない優良物件ですよ、リーダーさん?」
若すぎる入隊に若すぎる昇進と妙なあだ名のせいで俺は有名人らしい。しかし変なちょっかいをかけられるので迷惑している。今のように。
「お前、盗み聞きしてたのか」
「ええそうよ。大型変異種を爆弾で吹っ飛ばすんでしょう? でも君はお世辞にも体格がいいとは言えない。ほとんど自爆覚悟の提案だったんでしょう?」
「わかってるならほっとけ」
無視して歩き出そうとした背中に、悪魔の囁きのような言葉が投げかけられた。
「私が君を生かしてあげるよ。もちろん私も死なない。悪くない話じゃない?」
「……どうやってだ」
「逃げる!」
「…………はあ?」
「逃げ足には自信があるから、爆破する前に逃がすし、爆弾設置も支援する。あんた軽そうだから担いで逃げるのも楽そうだし」
非常に舐められている気がする……。
「わざわざ死地に行きたいのか? あほか?」
「あほじゃないよ。これでも実力買われて入ったんだからね? ドンとお姉さんに任せなさい!」
翌日、作戦実行の許可が出た。
そんなあほな、と思ったのは言うまでもない。

