この本は,タイトルのとおり,井上陽水の曲の歌詞を英訳した本である.
みんな大好き井上陽水だ.
書店でタイトルを目にしたとき,
「井上陽水の歌詞を英語にするのは難しそうだな」と思った.
例えば,『少年時代』には「風あざみ」や「宵かがり」などの単語が出てくるが,これらは全て陽水さんの造語である.彼は単語が持つ韻や語感を愛した.つまり,「風あざみ」に直接的な意味はないのである.だから英訳は難しいだろうと思った.同時に,この本の著者であり歌詞の英訳者でもあるロバートキャンベル氏がどのように訳したのか興味を持った.
それが4年前.
もうすっかり忘れていた.
『Reading100計画~年間百冊の読書を目指そう~』
改めて借りて読んでみると,予想どおり面白い本だった.
やはり,陽水さんの歌詞は奥が深く,説明が少ないので,英語への訳が難しいのが本当によく伝わる.元々,日本語の文章は「うなぎ文」とよばれるように,話の状況や時間の前後,話者との関係性や背景によって補われることが前提になっているため,日本語それ自体を直訳するのが難しい.井上陽水の歌詞なら尚更だ.だがそれこそが,“余白“として曲の美しさを生み出している.著者のキャンベル氏は,その“余白“に気をつけながら,陽水さんの歌詞の美しさを少しも損なわせることなく見事に英訳してみせている.
一部だけ紹介.
『夢の中へ』という曲で
「夢の中へ 夢の中へ 行ってみたいと思いませんか?」という歌詞がある.
キャンベル氏はそれを
Into our dreams, on into our dreams.
Wouldn’t you rather roam a bit?
と訳している.
「夢の中へ」は our 私たち二人の夢の中への誘いであること,
「行って」を 徘徊する,彷徨うという意味の roam を当てたことなど,井上陽水の世界観を再発見できる英訳にもなっている.
是非一度読んでみて.