ひそやかな祝宴 | 風紋

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鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

シン国の首都にヤオ族が多く住む一角がある。
ヤオ族はおもにシンの南西の山岳地域に住まう民族である。
古くは狩猟や焼き畑等を生業としていた。
中世には勇猛な兵を多く排出した。
昨今は薬草の生産や行商などで生計をたてる者が多い。
地元に伝わる伝統芸能は仮面劇である。
近年は都のヤオ族街でも演じられている。

都のヤオ族たちは近年不定期に祭礼を行う。
その日は突然知らされる。
まず商館に電話で報せがもたらされる。
商館からは近隣の主だった店へ電話や使いが飛ぶ。
そこから電話のない店や店員の家などへと報せは次々と伝わる。
そして瞬く間にヤオ族街全体がひそやかに沸き立つ。

大店は灯篭を掲げ、切り紙細工の飾りつけをする。
屋台は炭火を起こし蒸籠にもうもうと湯気をあげる。
男たちはとっておきの酒を出してくる。
女たちは耳飾りや首飾りをつけ鮮やかな服を着てめかしこむ。
子供らははしゃいで走り回る。
年寄りは道端にめいめい椅子を出して座り込む。

やがてどこからともなく小鉦の甲高い音が近づいてくる。
黒衣に黒い隈取の面をつけた男が小鉦をばちで打ち鳴らしながら歩く。
口上をつけ見得を切る。
そこに素面の若い男が現れる。
肩を越す長い髪をうなじで束ねている。
腹にサラシを巻いただけの素肌の上に派手な上着を羽織っている。
その侠客のような姿の男は周囲を見渡して言う。
「流れ流れてこの街にやってきたが、人でにぎわい物は豊かで
よいところだ。何よりめでたくこの先の幸運が見えるようだ。」
そのセリフを待ちかねたかのように取り巻いた人々はどっと沸く。

「いよっ、千両役者!」
「待ってました!」
決めどころのはずだが若い男はへたりこんで黒衣の男に言う。
「腹、減った…」
「若、こんなときに行き倒れないで下さい。」
黒衣の男が言うとなぜか取り巻いた人々は更に盛り上がる。
「食い物はいっぱいあるぞ!」
「なんたって俺らの街は懐が深いからな。」
黒衣の男と若い素面の男は声をそろえて言う。
「方々に問う。何か食べるものを分けてはくれまいか。」

歓声が弾ける。
包囲が崩れて様々な食べ物が差し出される。
「若さま、これ食べてください。」
色とりどりの具を入れ竹筒に入れて炊かれたおこわ。
串に刺さった川魚の甘露煮。
山菜と戻した塩蔵筍と揚げ豆腐の煮つけ。
香辛料や香味野菜のたれに付け込み焼き上げた骨付きの鶏もも肉。
様々な木の実の入った焼き菓子。
赤い飴をからめた果実。
「いただこう。皆と共に我が身体の糧としよう。」
祝祭の宴はこうして始まる。

広場だけでなく路地まで人であふれ、その皆がわけあって物を食べる。
酒瓶もまわる。
子供らは分け与えられた振る舞い飯を年寄たちに持っていく。
年寄たちは椅子に座ったまま笑ってそれを受け取る。

子供たちは華やかな空気にじっとしてはいない。
菓子の取り合いをし、追いかけっこをし、縦横に駆け回る。
小さな女の子が輪の中心にいる若い男の顏を見て驚いたように呟く。
「こうていへい…」
「わーっ!わーっ!
「違うでしょ。若さまだって。」
「いけないんだー!そんなこと言ったらいけないんだー!」
口々に言われ小さな女の子は泣きそうになっている。
そこに黒衣に赤い隈取の面をつけた女が割って入る。
面を頭の上にずらして顏を出し、女の子の正面にかがみこむ。
切れ長の目が美しい女は女の子に向かって微笑み口を開く。
口からこぼれたのは言葉ではなく、懐かしい土地の童歌。
女が唄うのにつられて泣きべそ顏の女の子も一緒に唄いはじめる。
取り囲んでいた者たちも口ずさみだし、やがてそれは大合唱になる。
そうして一風変わった祝祭は日暮れまで続く。


シン国の首都にはヤオ族が多く住む一角がある。
現シン国皇帝は先帝とヤオ族の母の間に産まれたリン・ヤオ。
地元に伝わる伝統芸能は仮面劇である。
近年は都のヤオ族街でも演じられている。

 

 

 

 

あとがき:kituneさんからいただいた、もぐもぐリンランが見たいと

いうリクエストにお応えしたつもりが斜め45度に軌道がずれましたw

ヤオ族の設定は捏造ですのでご留意ください。

フー爺の代わりに面をつけてる護衛の男の子をいつかお話に

したいと思っております。