この思いに名をつけるならば | 風紋

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鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

 

 

私はなんと愚かなのだろう。
その夜人払いをされて二人きりになったとき、
主のふっとついた息の重さにお疲れなのだろうかとしか思わなかったなんて。


「ランファン。」
名を呼ばれ振り返れば思いがけず近くに主が立っていた。
応答すら忘れていたのは、思いつめた眼の色に息をのんだからなのか。
一歩、さらに一歩。
主が近づいてくる。
心臓が早鐘を打つ。
胸のなかの音なのにそれは抑えようもなく高鳴り、主に聞こえてしまわないか
と恐れて私は思わず後ずさる。
背が壁に触れた。
逃げられぬことだけを悟り、次に起こることを悟れぬまま立ちすくむ。

さらさらと衣擦れがして主の手が近づき私の背後の壁をとん、と衝いた。
腕のなかにとらわれて、目の前の主の顏だけが視界を占める。
結い上げた髻からほつれたひと筋の髪が額にかかっている。
髪の合間から覗く切れ長な目の射貫くような輝き。
その視線で、私の身体にふれることなく主は私を追い詰める。
一寸の隙を残して。

「おまえは、俺の何だ。」
問われた声は低く静かなのに染みとおるように熱い。
「私は、リン様の懐刀です。」
「そうだな。」
主の手が伸びる。
私の頬に触れる。
主の肩が迫り視界が覆われた。
また聞こえる、衣擦れ。
顎をもちあげられて一瞬垣間見た顏は険しく苦しげなのに、
その口づけはあまりにも優しくて。
抑えられた思いの深さを知らされ、胸が痛い。

「ならば、俺はおまえの何だ。」
主。
たいせつなひと。
私の希望。
いのちそのもの。
何と言えばいいのか、何といえば嘘でないのか。
私の抱き続けているこの思いをどう言い表せばいいのだろう。
「俺の目を見て、ランファン。」
わからない。
なのにどうしてこんな縋るような切羽詰まった気持ちになってしまうのか。
「リン様。」
涙が溢れだすのを止められなかった。
懸命になんとか絞りだした声はゆがんでしまって。
「…リン様。」
「わかっている。」
こんな情けない私を、何も言えぬくせに抱きしめられて身体をすくませながら
も安堵してしまう私を、
あなたは。
「わかっているよ。ランファン。」

私はどうしたらいいのだろう。
こんな静かな夜のなかでただ黙って途方にくれるしかない私は。
この思いに名をつけられるならば、あなたをこんな困ったような顏で微笑ませ
ることもないのに。

 

 

 

あとがき:三食団子のmaoさんが以前ついったにあげられてた壁ドンの1ページ

マンガのイメージで書いた短いお話。

確かお誕生日プレゼントにしたくて書きはじめたけど上手くいかずに放置して

いたのですが、昨日急に手を入れたくなり完成しました。

完全にタイミング逃していますが、maoさんよかったら貰ってやってくださいv