忘れられぬモミジの思い出 | 牛久の小盆栽 ながちゃんのブログ

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伝統的な盆栽愛好者の姿は、培養歴6年で樹齢150年、200万円の五葉松を出入りの業者に任せる旦那でした。「なんとか盆栽展示会」にその蔵者が得意げ写真におさまる、とか。私は貧乏なので全て実生、挿し木の小盆栽です。


山モミジ

写真は山モミジ。

昔ムカシのこと。
爺がまだ紅顔の(厚顔にあらず)美青年でありし頃です。

ヤツガレは大学で学ぶかたわら、衣食住のために「バイト」に精を出しておりました。
バイトは、東京下町の工場で、機械部品を組み立てる力仕事でした。
愚老古稀過ぎた今でこそ「箸より重いもの」は持てないのですが、若かりし頃は金もチカラもあったのですね。
もちろんイロオトコでもありました。(日焼けのイロではありませんぞ)

さて、話はバイト先の「社長」氏のこと。
この社長氏、親会社からの仕事を頂くためには、工期短縮を何より優先したのです。ずいぶん無理難題を従業員に課す、典型的なブラック企業の経営者でありました。従業員と申しても、総員5名だけ。
社長は従業員をおだてる意図もあって「少数精鋭主義」をしばしば口にしておりました。
「精鋭」と言われようが「性変」と呼ばれようが、少数の従業員は毎日の力仕事ですっかり疲れ果てていましたね。

社長は時々「精鋭」従業員を「ヘルスセンター」に引き連れて行き、大浴場で湯浴みをさせ、休息所で飲み食いの大盤振る舞いを決行したのです。
これもね、従業員には参加の否応はなく、しかも日時は日曜日の午後と決まっていました。こりゃあ精鋭衆も本音では迷惑でしたね。

初めてこの慰安の行事に参加したヤツガレは成人式前であった、と記憶しています。
驚きましたね。なにゆえか大浴場には若い女性係員が数人おられて、水着姿で雑用をこなしておいでになりました。
成人式前のヤツガレは、若い女性係員を目にして舞い上がったのですよ。

社長から、
「お前、売店に行ってヒゲ剃りを買ってこい」
と五千円札を渡されたのですが、頭の混乱したヤツガレは、なにがなにやら闇の中、五千円分全部ヒゲ剃りを買って社長に差し出したのです。
叱られましたね。
「五千円全部ヒゲ剃りを買った?オレら5人だけだぞ。オレが使った1本を次々に使えばヒゲ剃りは1本ですむだろう。お前なんざまだヒゲなんか生えておらんぞ」
そりゃあね、ヤツガレだって5人に五千円分のヒゲ剃りが必要か、必要でないかぐらい冷静になって考えれば分かりますぜ。
その後「ヒゲ剃り」の件はどうなったか覚えていない。

問題は、その後の「休息所」での飲み食いの出来事。
社長は、精鋭諸氏の一人一人に好みを聞いて注文されました。
「ウン、熱燗に湯豆腐か?こりゃあいい。湯豆腐はオレも頼もう。ところで湯豆腐を食うなら薬味に『モミジおろし』が要るな。おいお前、モミジおろしをたくさん貰ってこい」
社長は「ヒゲ剃り」事件はとりあえず忘れ、上機嫌に命じました。
ヤツガレだとて「ヒゲ剃り」の失敗に懲りて、忠実に命令内容を反芻したのです。
30分後、ザル一杯の山モミジの葉を見た社長は、腰を抜かさんばかりに驚くことに相成ったのです。
  

駄句5句。
目高池紅葉散り敷き布団なり
冬の梅蕾堅牢瞑りたり
冬の梅拳固めて風を打つ
一丁の湯豆腐崩れ宴果てぬ
湯豆腐の昆布一枚所在なげ

腰折れ2首。
沢瀉の花陰作りし目高池黒白目高長き冬眠
鮟鱇の身に蛸烏賊具を交ぜて煮る家族鍋粋には遠し