あと十日春立つ日を指折りぬ | 牛久の小盆栽 ながちゃんのブログ

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伝統的な盆栽愛好者の姿は、培養歴6年で樹齢150年、200万円の五葉松を出入りの業者に任せる旦那でした。「なんとか盆栽展示会」にその蔵者が得意げ写真におさまる、とか。私は貧乏なので全て実生、挿し木の小盆栽です。


皐月 紅傘

写真は皐月(さつき)。

今日は大寒。もっとも寒い日ですね。

ところで、近所の盆栽爺様の口癖は二つ。

口癖①。
「盆栽はね、黒だよ。黒。え?黒とは何?あのね、お前だって仮にも盆栽をいじろうって考えだろ。盆栽は黒に限る。黒松は最高だ!」

口癖②。
「盆栽初心者はね、皐月(さつき)だな。皐月から始めるのが一番だ。ありゃ丈夫な木だぞ。剪定で剪り落とした枝だってなんだって、挿しゃつくんだからな。挿し木なんざあ、赤児にもできるぞ。よほど手間掛けをサボったり、持ち主がボケ爺だったら頭から枯れることもあるけどな」

愚老はここ十年ほどこの口癖①、②を吹き込まれてまいりました。
爺様の薫陶よろしきを得て、小生も少しはリコウになることができました。
①について
五葉松と黒松の違いは葉の数で、黒松と赤松の相違は葉の触り心地で区別する、なんとも心許ない方法で区別をつけております。
本当なら、見た瞬間に「あ!黒」「あ!赤」と発声するのがクロウトの仕事なのですね。
しかも、熟語構成要素の「松」は省略する方がよりクロウトらしく聞こえる。
などと、シロウト愚老ははクロウ人の言いぐさが嫌われることを、シロウトしない、なあんてね。

②について
これが盆栽爺様の苦言が大当たり。

写真をもう一度ご覧頂きたい。
幼苗をハリガネで高手小手に縛り上げたように見えますか?
なんのなんの愚老ボケたりとは申せ、さような虐待は致しませぬぞ。

この皐月は、幼苗に非ず。今は何を隠そう樹齢四十年になんなんとする、大樹であったのです。品種名「紅傘」なる、まことに見事な大輪の一重赤花でありました。
いつの年であったか、真夏の暑い昼間、仕事もしない爺なれど、感受性には富んで暑さには人一倍敏感。縁側に大の字になって器用にビールを干しておりました。
一杯が二杯。二杯が三杯。いつもの成り行きでしたたか飲む内に爆睡。

♪目覚めてみればこは如何に
寝ていたゴザも壜もなく、日にちの経つのは夢の内

ウラシマタロウの狼狽もウベなり。すでに翌朝だったのです。
かんかん照りの下に放置された皐月は大半が枯れ、爺に「うらめしや~」の大合唱でした。

写真の皐月はその折に枯れたのですが、生死不明の状態で捨てるわけにもまいらず、爺は泣き泣き基部で切断致しました。根元から新芽が吹けば幸い、との願いを込めておいたのです。
後に息吹き返したのが、この皐月。
ようやく伸びた枝も1人立つことあたわず、熟考の末、愚老は太いハリガネを沿わせたのであります。

駄句8句。
大寒や日を聞くだけで鳥の肌
大寒を知って猶増す震えかな
大寒の言葉だけでも武者震い
凍雪(いてゆき)に杜鵑花(さつき)は夏を夢見けり
夜の明けに杜鵑花(さつき)は頭に冠雪(かむりゆき)
日陰から風花飛ばす北の風
雪遊び幼子夢の最中にも
あと十日春立つ日を指折りぬ

腰折れ2首。
日陰には昨日の雪の残りあり風花となり飛び行くあはれ
大寒の空明け行きて霜の柱踏みて通るに春の予感す