写真は捩杉(よれすぎ)。
「捩杉」は園芸品種の一つですが、大変珍しいスギです。
枝の先々まで葉が絡み、細身の葉巻を思わせる優しい曲を作っています。
ずいぶん以前から陋宅に居座っているのですが、伸びもせず、まして縮みも致さず、豆鉢の中に鎮座しています。
ボケ爺ゆえ、実はこの木の名前を忘れていたのです。
遙か以前に、「○○スギ」のラベルがあったことはうっすら記憶の隅にあったのですが、杖とも柱とも電柱とも頼みにしていたラベルは何処へやら。
家人に打ち明けると、蔑みの笑いに打ち捨てられるだろう、と切ない我慢、愚老長い間コッソリ「樹木図鑑」などを老眼にかすむ目をこすりこすり眺めておりました。
老残の身で、物事を忘れるなどと、もはや救いがありませんな。
小生陋宅の書斎(書斎と申しても実態は物置、納戸の隅)で図鑑を見ておりますと、孫娘のサーちゃんは、爺が善行に目覚めて「読み聞かせ」でも始めた、と思うのか、「アンパンマン」やら「ドラえもん」やらを持ってきて、「キミキミこの本読みたまえ」と勧告なさるのです。
「スギの園芸種一覧と有用植物の育樹について」
を眉間にシワを刻んで眺める爺に「アンパンマン」がナニ嬉しかろう。
「ナニナニ?アンパンマン?爺はあんぱんは食べぬぞよ。あっちへ行ってテレビをごらん」
テレビの方角を指し示すのですが、サーちゃんは不承知。
ついには「シンデレラ」「プリキュア」の漫画が山積みとなるのです。
隙を見てコタ・ユタの乱暴組が間のふすまを開けて乱入、必殺剣を振るい、爺の脳天にウチ下ろす。
爺の評価は「善行爺」から「呪いの悪魔」へ急転凋落致すのです。
かくなってはボケ爺も応戦せざるを得ませんな。
キミが必殺剣なら爺は二天一流、または北斗の剣。
いざ尋常に勝負ショウブ。
さて、スギはどうなった?
スギは図鑑の中に「別れの一本杉」。
「これこれ杉の子起きなさい」と呼ぼうが叫ぼうが霧の彼方へ。
爺は疲れ果てましたな。
もうヨレヨレですよ。
さて奇跡!
ヨレヨレ爺に記憶が戻った!
「ヨレヨレ爺」→「ヨレヨレ杉」→「捩杉(よれすぎ)」ですよ。
忘れたものは剣戟で思い出せ!
でもね、スギたるは及ばざるが如し。
駄句6句と愚歌1首。
捩杉は寒き手足も背も丸め
捩杉は実の珍しき育ちなり
捩杉の小枝の先も葉の寒し
枝に巻く葉は皆寒し縒(よ)れの杉
行く秋に背を丸むるや縒れの杉
捩杉は秋空高く巻葉かな
捩杉は杖にならねど我も生く枝の先々葉は丸けれど