凪待ち(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

凪待ち(ネタバレ)

凪待ち



2019/日本 上映時間124分
監督:白石和彌
脚本:加藤正人
製作総指揮:木下直哉
プロデューサー:椎井友紀子、赤城聡
撮影:福本淳
照明:市川徳充
録音:浦田和治
美術:今村力
衣装:高橋さやか
装飾:京極友良
ヘアメイク:有路涼子
編集:加藤ひとみ
音楽:安川午朗
音楽プロデューサー:津島玄一
音響効果:柴崎憲治
VFXスーパーバイザー:小坂一順
助監督:小野寺昭洋
スクリプター:野村愛
スチール:田中宏幸
制作担当:松田憲一良
出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー、三浦誠己、寺十吾、佐久本宝、田中隆三、黒田大輔、鹿野浩明、奥野瑛太、麿赤兒、不破万作、宮崎吐夢、沖原一生、江井エステファニー、ウダタカキ、野中隆光、岡本智礼、本木幸世
パンフレット:★★★(800円/インタビューが充実。ネタバレに触れているのも良い姿勢)
(あらすじ)
無為な毎日を送っていた木野本郁男(香取慎吾)は、ギャンブルから足を洗い、恋人・亜弓(西田尚美)と彼女の娘・美波(恒松祐里)とともに亜弓の故郷である石巻に移り住むことに。亜弓の父・勝美(吉澤健)は末期がんに冒されながらも漁師を続けており、近所に住む小野寺(リリー・フランキー)が世話を焼いていた。人懐っこい小野寺に誘われて飲みに出かけた郁男は、泥酔している中学教師・村上(音尾琢真)と出会う。彼は亜弓の元夫で、美波の父親だった。ある日、美波は亜弓と衝突して家を飛び出す。亜弓は夜になっても帰って来ない美波を心配してパニックに陥り、激しく罵られた郁男は彼女を車から降ろしてひとりで捜すよう突き放す。その夜遅く、亜弓は遺体となって発見され……。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




90点


※今回の記事は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のネタバレに触れているので、気をつけて!

事前情報はあまり入れてなかったものの、白石和彌監督作で「誰が殺したのか?」「なぜ殺したのか?」というキャッチコピーとなれば、「これは『凶悪』のような“僕が好きな白石和彌監督作”だな!(*゚∀゚)=3 ムッハー」と期待が高まりましてね(微笑)。メインビジュアルの香取慎吾さんの今までにない鬱屈感も良い意味で不気味だし、これは観なければと前売り券を購入。ちょうど愛聴しているラジオ番組「アフター6ジャンクション」の週刊映画時評コーナー「ムービーウォッチメン」の課題作品になったのもあって、7月1日(月)、渋谷で「小さな恋のうた」を観てから、TOHOシネマズ新宿に足を運びまして。この日はファーストデイ=1200円で観られるにもかかわらず、ああん、1400円で買った前売り券を使って鑑賞いたしました(その後、池袋で「一文字拳 序章 最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い」を鑑賞)。「ありがたい… (ノω・、) グスン」と思ったり。


前売り特典は「オリジナル携帯カードホルダー」でしたよ。


スーパー・ササダンゴ・マシン選手の影響で、ついタピオカミルクティを買いがちなアタシ。


劇場は8割ぐらいの入りでした。


鑑賞後の僕の気持ちを代弁する宮本武蔵を貼っておきますね(「刃牙道」より)。



最初にあらすじを適当かつ雑に書いておくと、競輪が大好きな木野本郁男(香取慎吾)は、恋人の亜弓(西田尚美)とその娘・美波(恒松祐里)とともに、彼女の故郷・石巻の実家で暮らすことになりまして。地元の印刷所で働いて、亜弓の父・勝美(吉澤健)の末期ガンが発覚しながらも、それなりに楽しく暮らしていたんですけれども。ある日、なかなか帰宅しない美波を探していたら口論になって、郁男は亜弓を車から降ろしてしまう→彼女が他殺体で発見されるというね… ('A`) イヤーン 亜弓の死に責任を感じまくって、「もうどうにでもなーれ!ヘ(゚∀゚*)ノ」とヤケになった郁男は、警察に犯人だと疑われるわ、卑劣な同僚・尾形(黒田大輔)にハメられた上に機械を壊して印刷所をクビになるわ、ノミ屋で借金を重ねちゃうわ、勝美が船を売った金で借金を返す→残金を競輪に突っ込んで見事レースを的中させる→ボコられて払ってもらえないわ、祭りで大暴れするわと、ライク・ア・ローリング・ストーンなのでした ┐(´ー`)┌ ヤレヤレ


最愛の人・亜弓が変わり果てた姿で見つかって、郁男の人生は悪い方に転がっていくのです。



そんなドン底状態だったものの、勝美や亜弓に親切だった小野寺(リリー・フランキー)に「今、アンタ、ここで死んだ!」「もっぺん生まれ変わってやり直そう!」といった調子で助けられましてね ( ;∀;)イイハナシダナー 市場で働き始めて、やっと真っ当な道を歩き始めた…と思いきや! 亜弓を殺したのは小野寺だったことが発覚するというね… ('A`) ヤッパリ で、前の職場で仲が良かった同僚・渡辺(宮崎吐夢)が職場に殴り込んで逮捕されたニュースにインスパイアされた郁男は、「YAH YAH YAH」気分でノミ屋に殴り込むも、結局、リンチされるというありさまだったんですが、しかし。過去にヤクザの親分・軍司(麿赤兒)の命を助けていた勝美にまたもや救われまして。そんな郁男の姿に心が痛んだノミ屋の穀田(寺十吾)が配当金を払ってくれたので、そのお金で勝美の船を買い戻すと、勝美と美波と3人で船に乗って、ずっと亜弓が持っていた婚姻届を海に流しまして。石巻の海は青いのでしたーー。


最後はこの3人の生活が始まるムードで終わってましたよ。



ううむ、映画の見方なんて大してわかっていない上に、作品をすべてチェックしているワケでもない僕がこういうことを書くのも恐縮ですけど(汗)、白石和彌監督はまた1つレベルが上がったのではないかと。例えば、序盤の「引っ越し業者がいるのに美波とモンハンをやるシーン」だけで「子どもとは良い関係を築いているけど、社会的には相当ダメな人」というキャラをわからせたりと、いかにもな説明台詞が出てこないので、劇中の世界がリアルに感じられるんですよね。それに全編、何も事件が起きていなくても常に不穏なムードが漂っているから、「何か厭なことが起こるんじゃないか?」という緊張感で画面から目が離せなかったし、先の展開もまったく読めなくて最後までハラハラさせられたというか。ずっと作品内の世界に引き付けられてましたよ。


こんな食事シーンでも、何か厭なことが起きそうな感じがするのです(ここでは実際に元夫が来ますが)。



そして、本作が「立ち直りの物語」だったのも良かった。劇中で勝美が郁男に語る「津波のせいで全部ダメになったんじゃない。津波のおかげで新しい海になったんだ」という台詞は、監督が実際に被災者から聞いた言葉だそうですが(パンフのコラムで石津文子さんが書いていた「そう思わなければ、次の日を迎えられない切実さが、ここにはある」という指摘が見事)、要は「ダメになってもやり直せる&ダメな人だって支えよう」ということを描いていて。それは一方的な話ではなく、例えば、郁男を助けることになる勝美だって「自分のせいで亜弓が死んだ」と思っている郁男のおかげで“妻を亡くした自分”を客観視できるようになったワケだし、人間はお互い様なんですよね、たぶん。ちょっとした失敗でも、何かと「人生終了!m9・∀・) ビシッ」的な烙印を押されがち&自分自身でも押してしまいがちな昨今の風潮に抗う、とても優しい「喪失と再生の物語」だなぁと。

あと、主人公だけでなく他の登場人物たちも良い面と悪い面を見せているのが良くて。例えば、亜弓の元夫の村上(音尾琢真)とか「コイツと仲間たちが事件を起こすのでは… (`Δ´;)」と深読みするぐらいに「厭な奴」として登場させたくせに、再婚相手が出産→我が子を見て涙を流す姿を見せたりするから、RHYMESTERの名曲「POP LIFE」「こちらから見りゃサイテーな人、だがあんなんでも誰かの大切な人」なんてリリックを思い出したりしてね。ラスト、ノミ屋の穀田が配当金を渡しに来るシーンは「こんなこいるかな?(・ε・)」と思わなくもなかったけど、とは言え、そういうことだってあるんじゃないか。掟ポルシェさんが整理屋に救われたことがあったように、そういうことだってあるよ、あったの、あったのさ、同じ人間だもの。なんて言うんですかね、僕のような心に余裕のない人間はついつい「アイツはクズ100パーセント!m9`Д´) ビシッ」と白黒つけたくなりますが、真っ白な人間も真っ黒な人間もいなくて、みんなグレーなのではないか…なんて思わされたりした次第。


音尾琢真さんが演じる村上、終盤に郁男と戦うんだろうな…って、勝手に思ってました (ノ∀`) テヘ



役者さんについて書くと、そりゃあ主演の香取慎吾さんはスゴかったです。「クソ野郎と美しき世界」のラストで見せた華やかさがウソのように消えていて(「戦闘力をゼロにまでコントロールできるらしいな… (`Δ´;) ヌゥ」と冷や汗が流れるレベル)、そこにいるのは“ガタイだけは良いダメ人間”であり、でも、善良さもあって…的なバランスが見事としか言いようがなかったというか。香取さんの生まれ持つ愛嬌みたいなのもプラスになっていて、郁男はなかなか不快なキャラではあるから、彼じゃなかったら観てられなかった気がします。お祭りでの長回しアクションも良い意味でグダグダで迫力があったし、非の打ちどころがない印象。まぁ、彼の主演作は全然観てませんけど(汗)、本作は間違いなく代表作になるんじゃないでしょうか。その他、勝美役の吉澤健さんが素晴らしかったのはもちろんのこと、斬新なゲロ謝罪シーンで確実に伝説となった尾形役の黒田大輔さんとか(「恋人たち」”隻腕の元極左”とは真逆のキャラ!)、ダメな元同僚・渡辺を演じた宮崎吐夢さんとかも厭な魅力が爆発していて(「オレたち、ギャンブル依存症じゃないの〜」には爆笑)、役者さんたちがスゴいだけでなく、白石監督も俳優の新たな引き出しを開けるのが上手いんじゃないかしらん(今までの監督作を観る限り)。


香取慎吾さん、素晴らしかった。いろいろな賞の主演男優賞候補になりそうな予感。


端役の人たちも良くて、特に黒田大輔さんの小物演技&ゲロを吐きながらの謝罪シーンは100点でした。



でね、何よりもありがたかった。本作の郁男は「だらしなく、不甲斐なく、歯痒い男」であり、彼が「ギャンブル地獄に堕ちていくモード」に突入したり(画面が傾いていくやつ)、自己嫌悪からの自傷行為のようなアホな行動をとるたび、観客は実にハラハライライラさせられるんですが、残念ながら「ああいうのって理解るよ… (´・ω・`)」という僕もいて。ちょうど仕事が残念なことになった一昨年から昨年にかけての僕は、現実に向き合うのがなかなか辛くて、余計に「映画を観てブログを書く」という行為に没頭しちゃったけど、あのころの僕は仕事が疎かになって良くなかったし、あのころからずっと優しく支えてくれている奥さんには感謝しかないなぁ…なんて思ったりして。さすがに奥さんのヘソクリを漁ったことはありませんが、郁男が奥さんに対して負い目を感じたり、「失望させるのが怖い」という気持ちを抱くのも痛いほどわかったから他人事に思えなくて、心から郁男には幸せになってほしいと思ったし、僕にも船を売って作ったお金(5億円ぐらい)を誰かくれたりしないものか…なんて文章を書いてみたけど、君はどう思う?(唐突な問い掛け) それと、幼いころに「漂流教室」を読んで以来、ずっと気をつけている「ケンカ別れ」の危険性をあらためて確認できたのも良くて。なんかね、そんな“いろいろと大切なこと”を思い出させてくれたのがとてもありがたかった…って、どうでも良いですかね (´∀`;) スミマセン


鑑賞中の僕の気持ちを代弁する範馬勇次郎を貼っておきますね(「範馬刃牙」より)。


翔の母・恵美子のように激しく後悔しないよう、ケンカ別れ、気をつけたいものです(「漂流教室」より)。



さて。一応、微妙に感じたところも挙げておきますよ。「誰が殺したのか?」なんてキャッチコピーだから、鑑賞前はサスペンスミステリー的な話なんだろうと思っていて。しかもリリー・フランキーさんが演じる小野寺ったら、亜弓や美波に対して「これってわざとなのかな、どうなのかな?」という絶妙かつ微妙に厭なニュアンスの接し方をするからさ、最初は「コイツが犯人になるんだろうな…(`Δ´;)」と疑ってたんですよ。ところが、話が進むにつれて、ダメになっていく人間と支えようとする人たちのドラマをしっかり描いてくるから、「これは犯人捜しをする映画じゃないんだ!Σ(゚д゚)」「そうか、犯人が誰かが重要なのではなく、残された人がどう生きるかという話なんだな…(ノω・、)」と途中から思うようになって。もうね、お祭りで小野寺が郁男を励ますシーンではスゲー泣いたんですが…。ああん、ちくしょう、結局は、そりゃあキャスティングの時点で誰もが怪しく思うリリー・フランキーさんが犯人だったからさ、それはそれで面白かったものの(「人間には良い面と悪い面がある」ということではあるし)、最後まで観てみれば、作品的に「この要素、必要だった?」と感じたというか。船に乗るラストを観て、僕は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」をスゲー連想したんですが(「凪待ち」と「バイザシー」の語感も似てるし…って、そういうことじゃないよね (´Д`;) ゴメンナサイ)、奥さんの死因をあの映画みたいに「主人公に過失のある事故」にした方が良かったんじゃないかなぁ (・ε・) ウーン


この場面、死ぬかと思うぐらい泣いたのに…。まぁ、小野寺の言葉にウソはないんだろうけどさぁ…。



その他、「ヤクザに借金したら除染に行かされそうになる展開がリアルだと思った」とか、「勝美がヤクザの組長に貸しがある設定は盛りすぎでは」といったことは置いとくとして。何はともあれ、僕が一番好きな白石和彌監督作は「日本で一番悪い奴ら」ですけど(サラリと台無しな文章)、本作は「今までで一番良いと思う白石監督作」でした (・∀・) オミゴト! 精神的に超ヘビーな映画だったから二度と観たくはありませんが、でも、あのお祭りでの長回しのケンカシーンや殴り込みシーン、そしてゲロ謝罪はもう一度観たいような気がします。おしまい。




脚本の加藤正人さんによるノベライズでございます。



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