ザ・ビッグハウス(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

ザ・ビッグハウス(ネタバレ)

ザ・ビッグハウス



原題:THE BIG HOUSE
2018/アメリカ、日本 上映時間119分
監督・製作・編集:想田和弘
監督・製作:マーク・ノーネス、テリー・サリス
監督:ミシガン大学の映画作家たち
出演:ミシガン大学の関係者やファン、及び周囲の人々
パンフレット:★★★★(700円/理解の補助線となる識者のコラムが4本も入っててテンションが上がったけど、公式サイトに同じ文章を見つけて少しがっかり)
(あらすじ)
ミシガン大学のアメリカンフットボールチーム、ミシガン・ウルヴァリンズの本拠地で「ザ・ビッグハウス」という別名もある「ミシガン・スタジアム」に、想田和弘監督を含む17人の映画作家が密着。ダイナミックな試合やエキサイトする観衆の様子から、教育・スポーツ・ビジネスの関係性や、人種や階級、格差、ナショナリズムの台頭といったアメリカ社会が抱える問題が浮かび上がり……。(以上、シネマトゥデイより)

予告編はこんな感じ↓




90点


想田和弘監督の“観察映画”は、愛聴していたラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」の影響で、第2弾の「精神」からずっと劇場で観ている…というのは前作「港町」の時も書いた文章 (´∀`) テヌキ で、第8弾となる本作も「アフター6ジャンクション」での監督自身による宣伝を聴いたりして、これまた楽しみだったので、前売り券を購入したんですけれども。2018年の6月9日に公開→都内での上映中に観る機会を逸してしまってね…(遠い目)。劇場情報をチェックしてみたら、横浜でやることが決定していたので、「その時に観ればいいや」と思っていたら、上映スタートが年明けだったということで! 1月中旬、横浜のシネマ・ジャック&ベティで鑑賞いたしました(その後、川崎に移動して「クリード 炎の宿敵」「蜘蛛の巣を払う女」を連続で観た)。「素敵なタイミング!Σ(°д°;) ヒィッ!」と思ったり。


前売り特典は「特製ポストカードセット」でしたよ。


劇場はシネマ・ジャックの方。20人ぐらいは入ってたような。



「ザ・ビッグハウス」と呼ばれる「ミシガン・スタジアム」で定期的におこなわれているミシガン大学のアメリカンフットボールチームの試合は、チケット代や放映権料、グッズ収入などで年間170億円以上の売上げを生み出してましてね。本作は、その試合に関わる人々や周囲の人たちを17人の監督(そのうち13人は学生)で手分けして撮影したドキュメンタリーなのです。観察映画ということで、ナレーションやテロップなどは一切出ないものの、試合に出る選手やスタジアムに訪れるファン、中に入らず(入れず)に物を売ったりボンゴを叩いたり布教したりする人たち、「快適な観戦」を支えるために働く人々、試合後にゴミを片付けてミサを開くボランティアたち、ミシガン大学の金持ちOB軍団などなどを観ることで、“アメリカの今”が伝わってくる…ってな調子。


大学の部活の試合なのに、日本のプロ野球球団クラスの経済効果があるそうな (`Δ´;) マジカ...



ハッキリ言って、想田和弘監督作は「面白い」ものの、スクリーンから情報をつかみ取ろうという能動的な姿勢が必要になるから、結構疲れるんですよ。ただ、本作は“お祭り”を映している→画面内で起きることがそこそこ派手だし(海兵隊のスカイダイビングでスタートする!)、撮影者の意図が伝わりやすいショットが多めなので、今まで観た観察映画の中でも非常にわかりやすかった印象。しかも、12月下旬に「華氏119」を観た&尊敬する映画評論家の町山智浩さんの映画ムダ話(216円)などを聴いたりして、「ミシガン州がトランプ大統領誕生に重要な役割を果たした」ことを知っていたので、普段以上に「スタジアムに来る観客は白人ばかりなんだな」とか「トランプの宣伝車が走ってるな」とか、情報を汲み取りやすかったのもうれしかったです。なんて言うんですかね、「鎬昂昇戦の前、短期間で空手を理解するために末堂厚と戦った刃牙」のように、僕も「華氏119」のおかげで本作をより理解できた…って、この例え方はわかりにくいですかね (´Д`;) スミマセン


末堂を倒すことで、短期間で空手を理解した刃牙を貼っておきますね(「グラップラー刃牙」より)。



つーか、実に多角的に観られる映画であって。「アメリカの貧困問題」とか「アマチュアスポーツの巨大ビジネス化」とか「アメリカンフットボールを取り巻くマッチョ文化の同調圧力」とかとかとか、さまざまな問題提起が散りばめられている感じ。本作のラストはミシガン大学の謝恩パーティで終わるんですけど、そこでの卒業生の黒人男性のスピーチがとても感動的でね…(しみじみ)。“富裕層は憎い派”の僕ですが、裕福なOBの寄付で彼が良い人生を手に入れられたと考えると、世の中は白と黒で割り切れるものではないんだな…なんて当たり前のことを考えさせられたりもして。まぁ、そういうワケで、いろいろな角度からいろいろな感じ方ができる、とても面白い映画だった次第。ちなみに鑑賞後、想田和弘監督の著作を読んだら「最初のバージョンはラストにトランプ大統領に抗議する“女性の行進”のシーンが付け加えられていた→最終的にはカットした」そうなんですが、僕的には本作の“主張のバランス”がベストに見えたので、それで大正解だと思ったり。


想田和弘監督の本、とても面白かったです。映画を観た人は必読!m9`Д´) ビシッ


本を読んだ後の僕の感想を代弁する範馬勇次郎を貼っておきますね(「バキ」より)。



ということで、非常に面白くて勉強になりました。観察映画を観たことがない人は本作から入ると良いかもしれません(「選挙」「Peace」もオススメですがー)。あと、「本当は昨年の6月に観ていたはずの本作を今年の1月に観たことで功を奏した」というのが、良い感じにタイミングが合ったみたいでスゲーうれしかったというか。(映画を観る時期が)ズレた間のワルさも、それも君のタイミング。そんなビビアン・スーの歌声がふと聞こえた気がした、46歳の冬なのでしたーー (゚⊿゚) ナンダコレ




本作の裏側を書いた想田和弘監督の著書。読みやすくて、面白かったです。



想田和弘監督による観察映画第一弾。オススメでございます。