止められるか、俺たちを(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

止められるか、俺たちを(ネタバレ)

止められるか、俺たちを



2018/日本 上映時間119分
監督:白石和彌
製作:尾崎宗子
プロデューサー:大日方教史、大友麻子
脚本:井上淳一
音楽:曽我部恵一
撮影:辻智彦
照明:大久保礼司
美術:津留啓亮
衣裳:宮本まさ江
ヘアメイク:泉宏幸
編集:加藤ひとみ
録音:浦田和治
音響効果:柴崎憲治
キャスティング:小林良二
助監督:井上亮太
制作担当:小川勝美
タイトル:赤松陽構造
出演:門脇麦、井浦新、山本浩司、岡部尚、大西信満、タモト清嵐、毎熊克哉、伊島空、外山将平、藤原季節、上川周作、中澤梓佐、満島真之介、渋川清彦、音尾琢真、高岡蒼佑、高良健吾、寺島しのぶ、奥田瑛二、柴田鷹雄、西本竜樹、吉澤健
パンフレット:なし
(あらすじ)
1969年春。21歳の吉積めぐみ(門脇麦)は、新宿のフーテン仲間のオバケ(タモト清嵐)に誘われ、“若松プロダクション”の扉を叩く。当時、若者たちを熱狂させるピンク映画を作り出していた若松プロダクションは、監督の若松孝二(井浦新)を中心とした新進気鋭の異才たちの巣窟であった。小難しい理屈を並べ立てる映画監督の足立正生(山本浩司)、冗談ばかり言いながらも全てをそつなくこなす助監督のガイラ(毎熊克哉)、飄々とした助監督で脚本家の沖島勲(岡部尚)、カメラマン志望の高間賢治(伊島空)、インテリ評論家気取りの助監督・荒井晴彦(藤原季節)など映画に魅せられた何者かの卵たちが次々と集まってきた。撮影がある時もない時も事務所に集い、タバコを吸い、酒を飲み、ネタを探し、レコードを万引きし、街で女優をスカウトする。そして撮影がはじまれば、助監督は現場で走り、怒鳴られ、時には役者もやる。そんななか、めぐみは若松孝二という存在、なによりも映画作りそのものに魅了されていくのだった。だがある日、めぐみに助監督の全てを教えてくれたオバケが、エネルギーの貯金を使い果たしたと若松プロを去っていく。めぐみ自身も何を表現したいのか、何者になりたいのか、何も見つけられない自分への焦りと、全てから取り残されてしまうような言いようのない不安に駆られていく。1971年5月。カンヌ国際映画祭に招待された若松と足立は、そのままレバノンへ渡ると日本赤軍の重信房子らに合流し、撮影を敢行。帰国後、映画「PFLP世界戦争宣言」の上映運動の為、若松プロには政治活動に熱心な多くの若者たちが出入りするようになる。いままでの雰囲気とは違う、入り込めない空気を感じるめぐみ。ひとり映画館で若松孝二の映画を観ていためぐみは、知らぬ間に頬を伝う涙に戸惑いを隠せないでいた……。(以上、Movie Walkerより)

予告編はこんな感じ↓




75点


「2018年内に感想がアップできなかった映画シリーズ」の9本目ということで、2018年のお話。基本的に白石和彌監督作は気になるものの、本作にはそれほど食指が動かなかったんですけれども。愛聴しているラジオ番組「アフター6ジャンクション」で“信用できるブルボニスト”三宅隆太監督(若松プロ出身)が本作について少し触れていて、興味が湧きましてね。とは言え、なかなか観る時間が作れなくて、都内の上映が終わってしまった…かと思いきや! テアトル新宿「2018邦画大忘年会」で上映されることになっていたので、妻子に予定があった12月23日(日)、渋谷で「教誨師」を観てから新宿に移動して鑑賞いたしました。「いいもの見せてもらいました m(_ _)m」と思ったり。


テアトル新宿の「2018邦画大忘年会」の1本に選ばれましてね。


劇場にはこんな展示があったり…。


Tシャツやポスターなどが売られていたりしましたよ。


鑑賞後の僕の気持ちを代弁する範馬刃牙を貼っておきますね(「範馬刃牙」より)。
いいもの見せてもらいました


本作は、1969年に若松プロに入って助監督になり、短編を1本撮影するも、1972年に急死した女性・吉積めぐみさんを主人公にした青春映画でしてね。恥ずかしながら、僕は若松孝二監督若松プロダクションの作品を観たことはありますけど、2本程度であり、彼らについてはほぼ何も知らないようなものでして。いわゆる“ピンク映画”にも一切興味がなくて、1990年代後半から「映画秘宝」を読むようになって「エロいだけじゃなく、いろいろな監督が実験的なことをしてたんだな (゚⊿゚) ヘー」と認識をあらためたりしましたが、とは言え、わざわざ観に行く気はしなかったりしてね(三宅隆太監督絡みで「ホワイトリリー」を観た程度)。だから、本作で描かれる若松プロの活動やピンク映画の撮影風景とかは結構新鮮で、スゲー勉強になったし、スゲー面白かったです。劇中に出てくる「女学生ゲリラ」「赤軍-PFLP 世界戦争宣言」「天使の恍惚」といった作品を観たくなりましたよ。


吉積めぐみ役は門脇麦さん。この年代の女優さんではトップクラスの実力だと思う。


若松プロの撮影風景を観ているだけでも楽しいのです (´∀`) タノシー



ところどころ有名人が登場するのも楽しくて(例えば、大島渚監督とか赤塚不二夫先生とか篠原勝之さんとか)、特に僕は荒井晴彦さんが若松プロにいたこととか知らなかったので、出てきた時はテンションが上がりました(しかも、演じてるのが今をときめく藤原季節さん!)。それと、僕は1960~70年代の左翼運動にそこそこ興味があるので、そういう点でも楽しかったですねぇ…(しみじみ)。若松監督たちがパレスチナに行ったエピソードは良かったし、公式ハンドブックを読むまで気付きませんでしたが、終盤、若松監督にオニギリをダメ出しされる活動家の女の子(指輪をしている!)がのちに山岳ベース事件で殺される遠山美枝子だったから、「あーっ!Σ(゚д゚;)」と。なんて言うんでしょうか、僕にとって本作はさまざまな要素がストライクだったというね。


荒井晴彦さんを演じた藤原季節さん、お得意のチャラ男演技ではない引き出しを見せてましたな。



時代的にはこの後、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」に続いていくと考えるとヘビーですよね…。




公式ハンドブックの最後に載っている若松プロのレジェンドOBたちによる座談会「お前ら結局何を描きたかったの」が、愛情はあるものの、あまりに辛口で笑いながら読んだんですが(「止められるか、俺たちを」というタイトルも不評)、ちょっと同意できたのが、「キャラクターで押した方が良かったのでは?」ということ。というのは、ごめんなさい、最近の観客である僕は「判断能力が低下していて思考停止グセがある」ので(苦笑)、若松プロの人は誰が誰だかわからなくなっちゃうところがあったというか。演じている人たちは今をときめく役者さんばかりだからさ、それなりには観られたけど、若松監督を演じた井浦新さんのように、もう少しオーバーに演技しても良かったんじゃないかなぁと。


若松監督が実際にどういう人だったのかは知りませんが、井浦新さんの演技は面白かったです。



あと、これは不満ではないんですけど、終盤、自殺か事故かわからないような状況で妊娠していた吉積めぐみさんが亡くなる展開が衝撃的でね…。ラストは、若松監督が次回作のことを電話で話しているシーンで終わって、その部分は愉快で笑ったんですけど(「三丁目の交番、あれも爆破します」の台詞が大好き)、映画の後味がスゲー悪かったなぁと。そりゃあ事実なんだから仕方ありませんが、本作の描き方だと「才能のなさに苦しんだ」という以上に「男たちの集団に入って、女ゆえに敗北した」ように見えちゃったというか…。とは言え、事実なんだから仕方ないんですけど、もう少し違う見せ方や着地はなかったのかなぁと思った次第。


なんとなく曽我部恵一さんによる主題歌「なんだっけ?」を貼っておきますね↓




その他、思ったところを書くと「『サニー 32』で北原里英さんが雪の中を歩かされたのは、若松イズムだったのかな」とか「今は若松プロのように人をコキ使うのは厳しい時代だよな」とか「映画の出来事の後、足立正生さんが日本赤軍に合流しててビックリ!Σ(゚д゚;) マジカ!」とかとかとか。まぁ、何はともあれ、モヤッとしたところが残りつつも、自分の知らなかった世界を垣間見られて、「いいもの見せてもらいました m(_ _)m」と感謝しましたよ。若松プロの作品に興味が湧いたし、機会があったら本作ももう1回観たいと思っております。おしまい。




パンフ代わりの公式ガイドブック。とても面白かったです。シナリオが載っているのもイイ!



デジタル盤のサントラ。CD盤アナログ盤もあります。



本作で最後に若松監督が話していた作品。観ようかなぁ。