教誨師(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

教誨師(ネタバレ)

教誨師



2018/日本 上映時間114分
監督・脚本:佐向大
エグゼクティブプロデューサー:大杉漣、狩野洋平、押田興将
プロデューサー:松田広子
撮影:山田達也
照明:玉川直人
録音:山本タカアキ
美術:安藤真人
衣装:宮本茉莉
ヘアメイク:有路涼子
編集:脇本一美
助監督:玉澤恭平
制作:古賀奏一郎
出演:大杉漣、玉置玲央、烏丸せつこ、五頭岳夫、小川登、古舘寛治、光石研
パンフレット:★★★(800円/もう1本、記事がほしかった…かなぁ)
(あらすじ)
受刑者の道徳心の育成や心の救済につとめ、彼らが改心できるよう導く教誨師。死刑囚専門の教誨師である牧師・佐伯(大杉漣)は、独房で孤独に過ごす死刑囚にとって良き理解者であり、格好の話し相手だ。佐伯は彼らに寄り添いながらも、自分の言葉が本当に届いているのか、そして死刑囚が心安らかに死ねるよう導くのは正しいことなのか苦悩していた。そんな葛藤を通し、佐伯もまた自らの忘れたい過去と向き合うことになる。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




80点


「2018年内に感想がアップできなかった映画シリーズ」の8本目ということで、これは2018年のお話でございます。2月に大杉漣さんが亡くなった時はシンミリしたし、「5人の最凶死刑囚vs地下格闘士たち」「6人の死刑囚vs教誨師」という設定に興味を惹かれたので、前売り券を購入しまして。10月6日から公開が始まったので、すぐに観ようと思っていたものの、他の“公開が終わりそうな映画”を優先して観ていたら、仕事が忙しくなってしまって、気が付けば上映が終わってましてね…。「前売り券をムダにした ('A`) シニタイ」とゲンナリしていたら! なんとアップリンク渋谷で上映が始まっていたので、妻子に予定が入っていた12月23日(日)、いそいそと劇場へ足を運んできました(その後、新宿で「止められるか、俺たちを」を鑑賞)。「面白い!Σ(゚д゚;)」と感心しましたよ。


前売り特典は「オリジナルポストカードセット」だったり。


劇場には10人ぐらいいたような。



あらすじを適当かつ乱暴に書くと、プロテスタントの牧師・佐伯は月2回、「教誨師」という「死刑囚と面会して話を聞いてあげるボランティア」をやってまして。そこで、愛していた女性&その家族を皆殺しにした鈴木(古舘寛治)、とにかくよく喋る元美容師・野口(烏丸せつこ)、ヤクザの吉田(光石研)、冤罪っぽい老人・進藤(五頭岳夫)、真面目な父親だったのに「ついカッとなって殺った」小川(小川登)、障碍者を大量に殺した若者・高宮(玉置玲央)の6人と「あーでもない!ヘ(゚∀゚*)ノ」「こーでもない!(°д°;)」などと迷いながらコミュニケーションをとる…といった感じ。鈴木は自分の犯罪を肯定しつつも殺した女性の霊を見て怯えたり、野口は現実逃避してベラベラ話しまくり、吉田は気さくに振る舞うも本当は怯えていることが明らかになったり、進藤は佐伯に読み書きを教えてもらって洗礼を受けることになったり、小川は自分の身の上話を始めたりするんですが、一番面倒くさいのが高宮でしてね。


大杉漣さん演じる佐伯は、ボランティアで死刑囚相手の教誨をやってまして。


1人目は、ストーカー野郎・鈴木。古舘寛治さんの電波演技が見事でした。


2人目は、妄想を現実だと思い込んでいるフシがある野口。烏丸せつこさんの“うるさいおばさん演技”が絶妙!


3人目、ヤクザの吉田を演じた光石研さんは安定のクオリティ (°∀°)b サスガ!


4人目は、ホームレスの進藤。演じた五頭岳夫さん、そういう人にしか見えなかったです…。


5人目、良き父親だった小川を演じた小川登さんは監督の知り合いで役者さんではないそうな (゚⊿゚) ヘー


そして最後が頭の良い若僧・高宮。玉置玲央さんは映画初出演だとか。



「なんで人を殺しちゃいけないの?(`∀´)」「牛とかは殺して食べるじゃん (`∀´)」「だったら死刑もおかしいよね?(`∀´)」と挑発を繰り返してくるので、佐伯ったら高宮の体の骨を足の指から1本ずつ丁寧に折っていく拷問を実施した…ということはなく(不要な文章)。しどろもどろに塩対応した挙げ句、自分の存在意義について考えちゃうありさまですよ。ところが、「自分の代わりに殺人を犯して自殺した兄への贖罪として牧師になった」という佐伯の過去が明らかになったり、兄の霊がボンヤリ現れたりする中、佐伯が「何のために生きてるかわからないけど、生きてるから生きてるということで殺しちゃダメだYO!ヽ(`Д´)ノ」と、“何を言っているのかはよくわからないけど勢いのある本音”を真剣にぶつけてみれば、なんとなく高宮はLOVEずっきゅん (ノ∀`) ワタシマケマシタワ 後日、死刑が執行されることになって高宮がうろたえながらも処刑されると、場面は数カ月後になりまして。脳梗塞で会話もままならなくなった進藤から大切にしていたグラビアアイドル(春菜めぐみ)の切り抜きを渡されたので、開いてみれば「あなたがたのうち、だれがわたしにつみがあるとせめうるのか」といった文章が書かれていたのでした…たぶん (´∀`;) ウロオボエ


最後はこんなムードで終わってましたよね。



正直なところ、「死刑囚だって人間だもの (´∀`) ミツヲ」といった“人情多めなヒューマンドラマ”かと勝手に予想して舐めてたら、なかなか考えさせられる映画だったから、うれしい誤算でしてね。途中、佐伯の回想シーンなどが挿入されたりはするも、基本的には「ほぼ同じセットでおこなわれる会話劇」なので、すぐに飽きそうな気がするんですけど、そんなことはなくて。高宮は相模原障害者施設殺傷事件の植松聖がモデルっぽかったり、野口は和歌山毒物カレー事件の林真須美を連想させたり、吉田は前橋スナック乱射事件の矢野治みたいだったり、進藤は新宿西口バス放火事件とか昭和の冤罪事件を想起させたり、鈴木は長崎ストーカー殺人事件っぽかったりと(小川だけこれといった事件が浮かびませんでしたが)、“死刑囚アベンジャーズ”って感じで面白かった…という不謹慎な文章 (´Д`;) スミマセン


要はこんなイメージ…って、つい最凶死刑囚を貼ってしまうアタシ(「バキ」より)。



当然ながら、全員が一筋縄ではいかないキャラでして。高宮は理論武装して攻撃してくるし、野口は現実逃避してウソばかり話すし、吉田は死刑から逃れるために犯罪を告白して逆ギレしてくるし、鈴木は反省したかと思ったら呆れるほどに開き直るし、真面目に見える小川ですら全部話した後に見せた表情は「もしかしてウソだったのでは…? (`Δ´;)」という不穏さが感じられたし(深読みかもしれませんがー)、先が読めなくて面白いのです。で、一番の爆弾が進藤ですよ。劇中ではずっと穏やかだった彼が最後に投げかける「あなたがたのうち、だれがわたしにつみがあるとせめうるのか」は聖書(ヨハネの福音書)の引用であり、いろいろな解釈が可能なワケですが…。僕は進藤が文字や言葉を学んだことでやっと自分の理不尽な状況を理解したんじゃないかと(「無知の涙」的な感じ)。で、それを牧師の佐伯に訴えたかったんじゃないかと。ただ、そうなると、言葉を覚えたことは進藤にとって救いだったのか? 無知のまま死んだ方が幸せだったんじゃないか…なんて考えさせられて、知恵熱が出た次第 ('A`) アタマイタイ

役者さんたちも素晴らしかったですねぇ…(しみじみ)。ハッキリ言って、本作の佐伯に関しては、宗教家なら高宮の質問ぐらいスムースに答えてほしいと思いましたが(それこそ生意気な中高生が普通に言ってきそうな内容だし)、大杉漣さんの演技はとても良かったです。特に終盤、佐伯が妻と車内で話すシーンでは「実は酒を飲んでいた→ウソをついていた」ことが明らかになったりするワケですが、その表情や佇まいが“教誨師として面会していた時”と違っていて、佐伯という役に深みをもたらしているようで、さすがベテランだなぁと。死刑囚役の方々も芸達者揃いで、見事としか言いようがないんですけど、一番印象に残ったのが高宮役の玉置玲央さん。この人、これが映画初出演だそうですが、本作を機にブレイクするんじゃないかしらん。


玉置玲央さん、本作でスポニチグランプリ新人賞を受賞したそうな (´∀`) ヨカッタネー



その他、パンフによると「緊張感を高める&ワンカットで2人を収めないためにスタンダードサイズで撮った」とか音楽を入れなかったりとか、そういう工夫も良くて。佐向大監督の作品は今まで1本しか観たことがありませんが、本作は代表作になるんじゃないでしょうか。唯一の不満を書いておくと、僕はちゃんと死刑執行するシーンを映してほしかったです。本作は「“教誨”に意味はあるのか?」「死刑執行までの期間が決まっていないのは残酷ではないか?」とかいろいろな観点で話ができる作品だと思うんですけど、「死刑の是非」を問うなら、死刑という行為の無惨さも観客にキッチリ見せるべきじゃないでしょうか。まぁ、かなり低予算っぽいので、無理だったのかもしれませんが…。


残酷描写が好きということではなく(いや、好きだけど)、その表現が必要だったのではと思うのです。



何はともあれ、そんなワケで、予想以上に面白くて感心いたしました (・∀・) ヨカッタ! ストレートに良い映画だと思ったし、つくづく大杉漣さんが公開前に亡くなっちゃったのが残念だなぁと。まだこれから上映されるところもあるみたいなのでね、気になる人は足を運んでみてくださいな。ちなみに僕は「冤罪があるから死刑は反対派」でございます。おしまい。




実は観ていて驚いた佐向大監督作。2010年に書いた感想は酷くて読めない… ('A`)



今回、検索して見つけた本。面白そうなので読む予定。



宗教の“救い”について考えさせられるイ・チャンドン監督作を貼っておきますね。