デトロイト(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

デトロイト(ネタバレ)

デトロイト



原題:Detroit
2017/アメリカ 上映時間142分
監督・製作:キャスリン・ビグロー
製作:ミーガン・エリソン、マシュー・バドマン、マーク・ボール、コリン・ウィルソン
製作総指揮:グレッグ・シャピロ、ヒューゴ・リンドグレン
脚本:マーク・ボール
撮影:バリー・アクロイド
美術:ジェレミー・ヒンドル
衣装:フランシン・ジェイミソン=タンチャック
編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ、ハリー・ユーン
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
音楽監修:ジョージ・ドレイコリアス、ランドール・ポスター
出演:ジョン・ボヤーガ、ウィル・ポールター、アルジー・スミス、ジェイコブ・ラティモア、ジェイソン・ミッチェル、ハンナ・マリー、ケイトリン・デバー、ジャック・レイナー、ベン・オトゥール、ネイサン・デイビス・Jr.、ペイトン・アレックス・スミス、マルコム・デビッド・ケリー、ジョセフ・デビッド=ジョーンズ、ラズ・アロンソ、イフラム・サイクス、レオン・トマス3世、ベンガ・アキナベ、クリス・チョーク、ジェレミー・ストロング、オースティン・エベール、ミゲル・ピメンテル、ジョン・クラシンスキー、アンソニー・マッキー
パンフレット:★★☆(720円/コラムが充実しているのは良いんですが、「刮目して見よ」は意味が重複してるような気がするし、「箸休め」を読むためにお金を出したワケじゃないです)
(あらすじ)
67年、夏のミシガン州デトロイト。権力や社会に対する黒人たちの不満が噴出し、暴動が発生。3日目の夜、若い黒人客たちでにぎわうアルジェ・モーテルの一室から銃声が響く。デトロイト市警やミシガン州警察、ミシガン陸軍州兵、地元の警備隊たちが、ピストルの捜索、押収のためモーテルに押しかけ、数人の白人警官が捜査手順を無視し、宿泊客たちを脅迫。誰彼構わずに自白を強要する不当な強制尋問を展開していく。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




80点


※本作については、尊敬する映画評論家の町山智浩さんの「たまむすび」での紹介上映後トークショーをチェックすると良いザンス。

キャスリン・ビグロー監督作は男らしくて骨太な映画が多い印象があったので、本作も間違いなく面白いだろうと前売り券を購入。忙しい案件が落ち着いてすっかり暇だったのと、ちょうど愛聴しているラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」の週刊映画時評コーナー「ムービーウォッチメン」の課題映画になったということで、今週の月曜日にTOHOシネマズ新宿で観て来ました。スゲー重かったです… ('A`) ゲッソリ


前売り券にはオリジナルステッカーが付いてました


7番スクリーン、3分の2ぐらいは埋まってたような。


鑑賞後の僕の気持ちを代弁する吉良吉影を貼っておきますね(第四部より)。



アメリカの都市「デトロイト」については、「ロボコップ」やら「8マイル」やら「グラン・トリノ」やら「ドント・ブリーズ」やらの舞台になった「自動車産業の街だったものの、日本車のせいで廃れてしまって、今はアメリカ有数の犯罪都市」程度のイメージしかなかったんですけれども。パンフに載っている藤永康政先生の超タメになるコラムによると、60年代のデトロイトは「進歩的なアメリカのシンボル」であって、「世界のトレンド・セッターだったにもかかわらず、荒廃するキッカケになったのが、1967年の「デトロイト暴動」だったとのこと。観る前は「それって、ロドニー・キング事件がキッカケで起きた暴動でしょ?(°∀°) シッテル!」と「ロス暴動」と勘違いしていたーーってなことは気にしないでおきましょう(偉そうに)。

もうね、すっかり油断してました。なんて言うんですかね、近作の「ハート・ロッカー」とか「ゼロ・ダーク・サーティ」とかは、社会問題を提起するヘビーな内容ながらもアクションシーンとかも充実してたから、「デトロイトのあちこちで暴動が起きて、人種差別警官が出てきたりして、いろいろと大変ながらも、ジョン・ボヤーガ演じる黒人警官の小粋な活躍が見られるのだろうよ (`∀´) タノシミー」なんて思っていたんですが、しかし。実際に観てみれば、当時のニュース映像を織り交ぜた暴動描写は序盤だけで、あとはその最中に起きた「アルジェ・モーテル事件」が延々と描かれるのです。

では、その「アルジェ・モーテル事件」とは、どんな事件だったのか? 簡単に書くと、暴動を鎮圧するために常駐していた警察と軍が、ふざけて撃ったスターターピストルの発砲音を「狙撃者による発砲」とカン違いして、アルジェ・モーテルに押しかけて、まずは黒人男性を射殺。その後、黒人男性6人と白人女性2人を「狙撃したのは誰だ!」と暴力を交えながら“人権を無視した尋問”を実施した挙げ句、黒人男性2人を射殺した…だけでなく。その後、違法な取り調べと殺人を実行した3人の白人警官が、裁判の結果、無罪放免になったという酷すぎる内容でしてね…。

それだけでも十分キツいのに、撮影や演出が超リアルだから、差別意識&スタンフォード監獄実験的な団心理によって暴走した尋問シーンがハンパじゃなくヘビーというか。他の作品で例えるなら「隣の家の少女」の拷問シーンとか「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」の総括シーンとか「トガニ 幼き瞳の告発」の児童虐待シーンを観ていた時に近い心境になりまして。途中からマジで席を立ちたくなりながらも、ちくしょう、映画料金を無駄にはしたくなかったので、必死に「ウィル・ポールターは、良い童貞、良い童貞… (´Д`;)」とか「アンソニー・マッキーは、母乳を飲む男、母乳を飲む男… (´Д`;)」とか、約40分間、これはフィクションだということを己に言い聞かせながら何とか席にしがみついていたほど。3人の白人警官が無罪になると、アルジー・スミス演じるラリー・リードが教会で歌い、登場人物たちのその後が流れて、映画は終わるんですが、本作のあまりの“重さ”に心底ゲッソリいたしました… ('A`) ゲッソリ


序盤は冒頭シーンが描かれるんですが…。


中盤以降はずっと無実の人たちがハードに尋問される様子が延々と続くというね ('A`) イヤーン


コイツがスターターピストルを撃ったのが発端なんですが、最初に射殺されちゃったので、状況が「詰んだ」感じ。



本作は、暴走白人警官のリーダー役のウィル・ポールターの演技がおぞましくて素晴らしいんですが、パンフで越智道雄先生が『童顔』が印象的で、ビグロー監督の意図がこの歴史的事件に託してトランプを大統領に選んだ支持層(白人ブルーカラー)の『幼稚さ』を浮かび上がらせる二重性を帯びていることを窺わせる」なんて指摘されていて、「なるほどなぁ」と。あと、「スター・ウォーズ」新三部作の主役の1人を演じているジョン・ボヤーガやMCUファルコン役のアンソニー・マッキーをメインキャストにしたのは、「現実にはヒーローなんていないのよ 川 ゚д゚)、ペッ」的なキャスリン・ビグロー監督の皮肉っぽくて。鑑賞前に活躍を期待してたジョン・ボヤーガなんて“傍観者”でしかなくて(とは言え、仕方ないんですが!)、最終的に罪を押し付けられそうになってから自分が安全圏にいたわけじゃないことに気づくくだりは、ワナワナする演技も含めて最悪だなって思ったり(誉め言葉)。


ウィル・ポールター、吐き気がするほどの邪悪振りが100点でしたな。


ジョン・ボヤーガの役は警備員で、思いのほか役に立たなくてビックリしました。


アンソニー・マッキーもワンマンアーミー振りを発揮したりはしないのです (・ε・) ソリャソーダ


事件を機に「ザ・ドラマティックス」を辞めるラリー・リード役はアルジー・スミス。歌がスゲー上手かったですな。



アルジー・スミスとラリー・リード本人が歌う本作の主題歌「Grow」を貼っておきますね↓




まぁ、不満を書いておくと、イラストを交えながら当時のデトロイト事情を説明した冒頭や、実際のニュース映像を交えながらデトロイト暴動を描く序盤ぐらいまではテンポが良かった分、いくら“狙い通り”だとしても、「アルジェ・モーテル事件」の部分があまりにも長くてツラい…ってことぐらいでしょうか。いや、僕自身は観て良かったけどさ、信じられないほどの不快さに怒りで脳がコトコトと煮込まれて、トロトロした食感と上質な旨味が味わえるようになったほどであり、ちょっと人にオススメできないというか。特に、精神的に弱っている時には絶対観ない方が良いんじゃないかと。つーか、差別主義者を糾弾するだけでなく、集団心理の恐ろしさや“日和見という悪”もちゃんと描いたりしていて、タメになったのは確かですが、そもそもキャスリン・ビグロー監督が“本当に観てほしい人たち”には、こういう作りじゃ届かないんじゃないか…なんて生意気なことを思ったんですけど、どうですカネー (´∀`;) エヘヘ


当時の日本のニュース動画があったので、貼っておきますね↓




何はともあれ、超重かったものの、非常に骨太な映画であり、観て良かったです… ('A`) 鑑賞後、「事件から50年経った現在も大差ないんじゃないか」って気がして、結構絶望的な気持ちになったのは僕だけじゃないと思うんですが(町山さんの動画やら「黒人の命だって大切だ」運動やらをチェックしてみてくださいな)、アメリカはそもそも「銃社会」というのも大きな要因になっているので、本当に大変だなぁと。ただ、今の若者たちは「昔よりはちゃんとした教育を受けている人が増えている」んだから、日本も含めて、1ミリずつでも世界は良くなっている…って信じております。




キャスリン・ビグロー監督の前作。僕の感想はこんな感じ



デジタル盤のサントラ。輸入盤もあります。



ライアン・クーグラー監督作。オスカー・グラント三世射殺事件を描いております。



オリバー・ヒルツェヴィゲル監督によるスタンフォード監獄実験を元に作られた映画。