恋人たち(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

恋人たち(ネタバレ)

恋人たち

恋人たち

2015/日本 上映時間140分
監督・原作・脚本:橋口亮輔
製作:井田寛、上野廣幸
企画・プロデューサー:深田誠剛
プロデューサー:小野仁史、平田陽亮、相川智
ラインプロデューサー:橋立聖史
撮影:上野彰吾
照明:赤津淳一
録音:小川武
美術:安宅紀史
音楽・主題歌:明星
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田慈、山中崇、リリー・フランキー、岡安泰樹、水野小論、大津尋葵、川瀬絵梨、高橋信二朗、和田瑠子、伶音、三月達也、岩野未知、遠藤隆太、吉田征央、中山求一郎、駒井温子、梨田凛、藤原留香、田川恵美子、小出浩祐、八木橋努、竹村知美
パンフレット:★★★★☆(850円/一冊の本として読める感じ。吉田修一先生のコラムの「ハッテン場論」には驚いた)
(あらすじ)
通り魔事件で妻を失い、橋梁点検の仕事をしながら裁判のために奔走するアツシ(篠原篤)。そりがあわない姑や自分に関心のない夫との平凡な生活の中で、突如現れた男に心揺れ動く主婦・瞳子(成嶋瞳子)。親友への想いを胸に秘めた同性愛者で完璧主義のエリート弁護士・四ノ宮(池田良)。3人はもがき苦しみながらも、人とのつながりを通し、かけがえのないものに気付いていく。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




90点


※今回の記事は、「ヘンゼル&グレーテル」のネタバレに触れているので、気をつけて!
※今回の記事は、無駄に長くてダラダラして読みにくいので、スルーしても良いんじゃないかな。


まったく観に行く気はなかったんですが、今週のムービーウォッチメンの課題映画になったので、いそいそとテアトル新宿に行ってきました。「我が意を得たり!m9`Д´) ビシッ」と思ったり。


サービスデーだったのが影響したのか、劇場はほぼ満席でした。
テアトル新宿

劇場入り口には記事の切り抜きがありましてね。
記事の切り抜き

劇場に降りる階段には場面写真が飾ってあったりして。
階段には場面写真が

感想を貼るボードが展示されていたので、僕も書いて貼っちゃいました (*ノ▽ノ) キャッ
感想が貼ってありました

絵コンテやら劇中で使用された小道具なども飾られてましたよ。
絵コンテやら

ちなみにテアトル系列恒例のオリジナルドリンクが売っていたので…。
オリジナルドリンクが販売中

ついホットドッグと一緒に購入。まぁ、美味しかったヨ (o^-')b ワルクナイ
ホットドッグと一緒に購入


最初に物語を適当かつ雑にまとめておくと、主人公は「妻を通り魔に殺された男・アツシ」「平凡な主婦・瞳子」「ゲイの弁護士・四ノ宮」の3人。アツシは犯罪被害者なのに世間から蔑ろにされまくって怒りと絶望を抱えながら生きていて、瞳子は夫&姑に雑に扱われつつも自分で小説&イラストを描きながら乙女チックな世界に逃避していて、四ノ宮はいきなり階段から突き落とされるような“心のない弁護活動”をするエブリデイなんですけれども。アツシは、上司の黒田が優しく話を聞いてくれたことで救われて、瞳子は自分をここから連れ出してくれそうな王子様がシャブ中だったことで目が覚める→「日常もそんな悪くない」的なムードになって、四ノ宮はずっと恋をしていた親友・聡(山中聡)の奥さんから「息子にイタズラしそう」と偏見を持たれた上に聡の態度も酷くて傷つく→アホな女子アナ(内田慈)にカン違いから感謝されることで人間性を少し取り戻すというね。エンドクレジットの後、カーテンが開けられて陽の光が差した部屋の中、骨壺の側に奥さんが大好きだったチューリップが飾られて(黄色いチューリップの花言葉を調べると意味深)、映画は終わってました。


主人公たちを貼っておきますね。メインは、理不尽な目に遭いすぎて鬱屈しているアツシ。
篠塚アツシ(篠塚篤)

そして、旦那と姑の態度が酷くて可哀想な瞳子は、性格がのん気なのが救い。生活感あふれるヌードは何気にストライクゾーン。
高橋瞳子(成嶋瞳子)

最後は、完璧主義者…というよりは、口が上手いイヤな奴といった感じの四ノ宮。彼らの物語がホンの少しだけ交錯しながら進むのです。
四ノ宮(池田良)


恥ずかしながら、橋口亮輔監督の作品は「ぐるりのこと。」しか観ていないんですが、これがスゲー良い映画でして。結婚というシステムをあまり肯定的に考えていなかった宇多丸師匠が「結婚するのも良いカモ… (▼∀▼) ウフフ」と少し考えを改めたというのも頷けるというか(確か)。僕も「ぐるりのこと。」を観た時はまだ子どもがいなかったんですけど、「子どもがいなくても奥さんとずっと仲良く暮らしていけそう」なんて思わされたものですよ。

で、ここから勝手な思いつきをダラダラと書きますが(苦笑)、「もし大事な人が鬱になったら?」的な内容だった「ぐるりのこと。」と比較すると、今作は「もしどうしようもなく絶望してしまったら?」さらにテーマを広範囲にして踏み込んできた印象。アツシのパートに関しては「ヘヴンズ ストーリー」を連想いたしました。インタビューなどによると監督の実体験がベースになっているんだとか(というか、橋口監督作はすべてにそういう要素があるっぽい)。すみません、少し脱線しますが、片方の言い分だけを鵜呑みにするのは良くないと思いながらも、印税を踏み倒すようなプロデューサーが今も平気な顔で活動しているなら、日本の映画業界はマジでクソですな。

閑話休題。だから、主人公たちの状況はなかなか不快かつヘビーながらも、尊敬する映画評論家の町山智浩さんが「たまむすび」で紹介するなら「実はこの映画、コメディなんです (▽ー▽) ニヤッ」と言いそうなほどに笑える場面もあったりして(安藤玉恵さん演じる吉田晴美絡みの描写はどれも面白かった)、そのバランスには非常に感心いたしました。たぶんそれは「人生は絶望的な時だって滑稽なことは起きている」から入れていると思うんですけど、間違っていたらゴーメンナサイヨ、ゴーメンナサイヨ!( ゚д゚)ナニコレ


安藤玉恵さんの「美女水」のセールストークのバカバカしさは100点! そこから有栖川宮詐欺事件へーー。
吉田晴美(安藤玉恵)

光石研さん演じる藤田が「実はシャブ中だった」と発覚する場面は、笑いながらもゾッとしましたよ。違法薬物、ダメ絶対!
藤田弘(光石研)

リリー・フランキーさん演じる先輩も、あまりの酷さに笑いながらもイヤな気分になりました。
イヤな先輩(リリー・フランキー)


それと、とにかく役者さんたちが素晴らしい。もともとは松竹ブロードキャスティングによる「作家主義、俳優発掘を理念としたオリジナル映画製作プロジェクト」のワークショップからスタートしたそうで(沖田修一監督作「滝を見にいく」もその1本だったとか)。アテ書きした&監督の演出力も卓越しているんだろうけど、無名の役者さんだらけでもこれだけの作品が出来るということには、単純に「スゴいなぁ」と感動いたしました。基本的には全員褒めたいんですが、特にアツシの上司である”隻腕の元極左”黒田大輔を演じた黒田大輔さんは最高のひと言でしたよ(この映画は役名=本名が多い)。僕はスターが出てくる映画も大好きですが、こういうリアルな内容の作品はそういう人に頼らない方がグッとくるんじゃないかと思ったり。


黒田大輔さんは有名じゃないだけでキャリア自体は長いんですけどね。
黒田大輔


「恋人たち」というタイトルを見ると“恋人同士”を連想しますけど、主人公たちは恋う人たち」であって。どのキャラクターも一部分一部分が「自分にもこういうことあるなぁ」と共感させられました。四ノ宮の「本当にほしいものは永遠に手に入らないという痛みを抱えているから、他者の痛みに気付かない振りをする」部分とか、瞳子の「現実から目を逸らして、『王子が迎えに来てくれるお姫様(下痢気味)』という非現実的な世界に逃避する」部分とか、アツシの「自分だけが苦しんでいると思って、憎悪に囚われてしまう」部分とか(奥さんがあんな殺され方をしたらそうなるのも仕方ないんですがー)、誰だって大なり小なりあるんじゃないでしょうか。僕も、父親が倒れた時に手続き関連で役所に相談しまくっていたころ、散々たらい回しにされた挙げ句、スゲー偉そうに対応されて「コイツ、殺す!ヽ(`Д´)ノ」と思ったことが何度かあっただけに、アツシが保険証をもらうくだりは我が身のことのようにイライラしましたよ(とは言え、ささくれだっているアツシの態度も良くはないし、あのふっくら顔でふえるわかめちゃんの話をされても微妙だとは思うんですがー)。


四ノ宮が切れた電話に自分の恋心を吐露する場面、落涙いたしました… (ノω・、) ソウダッタノネ
必死な電話

瞳子がワキを処理する時、「レスラー」のこの場面を思い出したのは僕だけじゃないハズ(BGMは「Balls To The Wall」)。
三角絞めでつかまえて-ラム気分が良し!

このお役所仕事シーン、アツシが通路をウロウロするあたり、「わかるぅ~ (´Д`;)」って感じでした。
お役所仕事


その他、長くなりますが(苦笑)、「瞳子の夫は妻にビンタするクソ野郎…に見えながらも、瞳子が藤田に語った馴れ初めを考慮すると今は不遇な状況で苛立っているのかもしれないし、その後、瞳子に子作りを提案したのはビンタしたことへの謝罪の意味もあるのでは?→そんなに悪い人ではないのかな」なんて想像してしまうほどに脇役にも血が通っている感じがするとか、映画中盤の川は黄泉の世界に繋がっているような不穏な雰囲気なのにラストの川は生命の繋がりを感じさせるように見せる撮影とか、本当に褒めるところまみれでしてね…(しみじみ)。


このビンタシーンは激怒しましたが、この夫も本当は悪い人ではないのかもしれませぬ。
ビンタ一閃!


一番感動したのは、黒田の「殺しちゃダメだよ。殺しちゃうとさ、こうやって話せないじゃん。オレはあなたともっと話したいと思うよ (´ε`)」という台詞。黒田さんの演技の素晴らしさもあって涙が止まらなかったというか、何をするでもなく寄り添って話を聞いてあげるだけでも人は助かるんだなぁと(「ぐるりのこと。」もそういう着地でしたよね、確か)。それとラスト、事務所の前で魚を焼いて飲んでいる場面で言う「腹いっぱい食べて、笑ってたら、人間なんとかなるよ (´ε`)」という台詞も凄まじく腑に落ちたというか、「落ち込んだら炭水化物を大量摂取する」というのは僕が太古から実践しているメソッドだっただけに、「我が意を得たり!m9`Д´) ビシッ」と思った…って、どうでも良かったね。


この場面、感動しつつも黒田が隻腕になった理由(皇居に撃ち込むロケットを作ろうとして失敗した)にはビックリ。
食べて笑え!


な~んてべた褒めなのに90点なのは、「犯罪被害者ならもう少しケアされたりとか連帯する人がいるのでは?」といったリアリティの部分に不満があるとか、そういうことではなくて。「当ブログが応援しているのはアクション映画だから」という政治的な理由(残念な文章)。それと、僕は基本的に死刑反対ではあるものの、映画を観る時は「悪・即・斬」派というか、「ヘンゼル&グレーテル」の「復讐しても過去は変わらない。両親も帰ってこないーー。だが、気は晴れた」という身も蓋もない台詞を何よりも愛している男なので、アツシの奥さんを殺したクズ野郎が制裁されないことに若干の物足りなさを感じた…って、「もうお前はこういう映画は観んな!( ゚д゚) カエレ!」と言われそうですな。何はともあれ、重い内容ながらもスゲー爽やかな作品だったので、気になる人はぜひぜひ~。




明星/Akeboshiによるサントラ。主題歌が最後に流れた時はジーンとしました。



今作の前に撮影された橋口亮輔監督作。結構評判良いですよね。



唯一観ている橋口亮輔監督作。スゲー良かったです。



同じプロジェクトから作られた沖田秀一監督作。僕の感想はこんな感じ