かめおかゆみこ です。
いつのときか忘れたが、ある国有林の近くを車
で通りかかったとき、父が言った。
「このへんの木は俺が植えたんだ」
この発言、ある意味では合っているが、ある意味
ではちょっとちがっている。というのも、父の仕事
は庶務であって、現場の作業ではないからだ。
だから、正確に言うと、「このへん(区画)に、どの
ように植林するかを計画・指示したのは、俺(を
ふくめた部署)だ」ということになるだろうか。
父は、18歳で営林署に入り、60歳で定年退職す
るまでつとめたが、なぜ営林署を選んだのかは
知らない。訊いたこともない気がする。
父は、仕事はまじめにやったひとだと思うが、仕
事中毒ではなかった。私の記憶では、ほぼ毎
日、定刻に帰宅していた。
最後の小清水営林署勤務のときは、職場が官
舎から徒歩30秒くらいのところにあったから、17
時5分には、もう家にいた印象がある。
たまに残業があるときには、晩ごはんを家族で
食べてから、再度出勤していた。
その意味では、「5時から男」であったわけだが、
実際、父においては、仕事よりも趣味を楽しんで
いた印象のほうが強い。
それでも、父は、山の木の種類はすべて知って
いたし、草花のことについても詳しかった。
上述した、「俺が植えた」という発言のときも、そ
のことばの裏に、誇りのようなニュアンスが感じ
られた。
だから、最初がどうであったかは知らないが、仕
事をするうちに、好きになり、誇りをもつように
なっていったのかもしれない、と思う。
本棚には、北海道の植物などの図鑑が何冊も
残されていた。「こういうの、処分しづらくてね」
と、母がぽつんと言った。
父の仕事の話は、もう少し聴いておいてもよかっ
たな…と、いまになって思っている。
※写真はイメージです