#10 銀灰の弾丸【深紅の日記】 | kamen-godのブログ

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 この作品は、東方Projectの二次創作小説です。

 過去作の設定を全て引き継いで話が進んで行きますので、まだ読んでいない、という方はそちらから先にお読みすることをお勧めします。

過去作:運命を操る小瓶↓

 

 

    運命を操る小瓶〜if story↓

 

 

 

    神と人間と畜生と↓

東方project二次創作作品
神と人間と畜生と(4/25)
一枚目から読み進めていく感じです。読みにくくてすみません pic.twitter.com/E7g1LQshxS

— 仮面の魔法使い@ 6/13新作更新しました (@god_1341398) March 12, 2021

 

    シルバーラミア・ログ↓

 

 

 

 

 

カバーにお借りしたもの 背景:ぱくたそ様

            咲夜:dairi様

 

 

 

——第十話 銀灰の弾丸

「それじゃ、貴方たちに話しましょうか。運命を操る小瓶が生んだ——災厄を」

 紫を除く、その場にいた全員が息を呑んだ。運命を操る小瓶——その事情を知らない早鬼であったが、あの時の異変から格段に変化した魔理沙を見て、その言葉の持つ意味を察したのだろう。特に深掘りしようとする意思は見られなかった。

「運命を操る小瓶そのものに関しては、大して重要でもないから割愛させてもらうわね」

「……なら、とっとと話せよ」

 帽子を深く被ったまま、魔理沙は問うた。その表情は見えないが、声音で込められた感情は判断できる——その場に居合わせた者の話によると、かなり不機嫌さが伝わってきたとのことである。

「紅魔の館に住まう魔女らは、もうその正体に気がついていたわ。

 運命を操る小瓶とは、私たちの世界——いいえ、私たちの歴史に留まるようなものじゃなかった。最初に小瓶を作った、アリスにパチュリー、それを使った魔理沙——これはあくまで最初の話で、全て辿れば、様々な者の手に渡り、様々な想いが込められていることが解るわ。

 それはさておき、想いが高まり、供養もされずにその目的を終えた物がどうなるか——貴方たちは知っているかしら?」

 紫の言葉で、話を聞いていた魔女二人の表情が深刻なものへと変化した。

「……付喪神、か。言われてみれば納得がいく」

「過去の咲夜がこちらに協力を要請してきてね。なんでも、魔理沙のお陰で長寿になって、能力の次元が広がったらしいわ」

 紫はメイドを見て言った。咲夜が危機を察知して時代を越えたからこそ、無事に退避することができたのか——そう読み取った早鬼は、心の中で礼を言った。

 その程度で済ませておけばいいものを、納得がいっていない者が一人。

「……あくまで能力は自己申告制だ。そっちの事情を知らない私たちからしてみれば、お前の能力の成長自体信じ難い話。お前、何を企んでいるつもりだ——?」

 魔理沙は賽銭箱から降りた。その拍子に見えた瞳には、相手を疑い、その心を読み取るかのような力が込められていた。

「紫、一つ提案があるのだけれど」

「提案、ですって?」

 そこで喋るのをやめた魔理沙を一瞥し、アリスは紫にある提案をした。

「そんなに信じられないのだったら、咲夜と魔理沙に弾幕勝負でもさせてみてはいかがかしら? 判定は——そうね、貴方に頼むわ」

 アリスは博麗の巫女を指差した。どう見ても戦闘向きではないような体つきと雰囲気に、どちらかといえば頭脳派な印象——弾幕勝負の審判としては適任だろう。

「魔理沙と咲夜が戦っている間に、私たちは話を進める。だから、先ずは弾幕勝負の前に、その〝災厄〟ってやつを説明してもらわないと困るのだけれど——話題がズレたのは私に原因があるわね。後は任せるわ、紫」

 魔理沙の代わりに、賽銭箱へ座ったのはアリス。賽銭箱に座るという行為は罰当たりでしかないのだが——ただでさえ常識外れなのだ——彼女らに常識など通用する筈がない。

 閑話休題。

 紫は真実を話し始めた。

「あの小瓶が付喪神になった、と仮定すると——これまでに起こった事例同様、異変を起こすのはほぼ確実。それに加え、様々な想いが込められているということは——それだけ力も強くなっているということ」

 一同は顔を顰める。その中でも、特に雰囲気が変わったのは咲夜だった。同じ時代の、同じ異変解決者として——霊夢が取る行動の想像が容易だからこそ、その〝異変〟に気づくことができたのだろう。

 頭の中で言葉を結びつけると、咲夜はすぐに言葉を発した。

「つまり、霊夢が朝からいなくなったのは——」

「えぇ——異変を察知して解決に向かい、敗北したのか——或いは、想いの対象となる回数が最も多かった霊夢を攫ったのか——真偽を断定するには、まだ情報不足だけれど」

 紫はため息をついた。その微妙な空気の中で、それぞれが思い思いの反応をしている。

 咲夜は拳を握りしめていた。

 そこから早鬼が考えたのは、強化された能力で干渉できるのはごく僅かな部分であり、彼女が動いて未来を変えたとしても、それは実際に自身が生きている時代に影響を及ぼさない——それ故の無力さを噛み締めているのではないか、ということであった。

「……まだ話は終わっていないわ。

 正直、霊夢がいなくなるくらい大きな問題ではないわ。博麗の巫女の代わりを見つければそれで済む話なのだから。

 だけど、本当に、小瓶の影響は計り知れない。事実、普段地上に出てくることのない貴方たちが進出し、それに次いであの邪神も——博麗の巫女は幻想郷の抑止力でもあるからね。半端にいないまま話が進んでしまうと、それが最大の問題となり得るのよ」

 別の時代にいながら、咲夜の協力を受け、すぐに現代の監視を行なった——もちろん、紫の行動力も恐るべきものだろう。だが、それ以上に、咲夜の能力の拡大レベルがどこまで大きいものなのか——本当に恐ろしいのは、ただ一つなのである。早鬼の意識は、完全にそこへと向いていた。

「……なら、最適解はここで争うことじゃないだろう。八雲紫、と言ったか。お前の予測が本当ならば、今こうしている間にも〝災厄〟とやらは広がり続けている筈だ」

 早鬼の言葉に、紫は冷笑を浮かべ、早鬼とアリスの足元へスキマを開いた。同時に、眠っていた八千慧とパチュリーにも。

「物分かりが悪いのね。だから、貴方たちが止めに行くのでしょう? 違う時間の者が行動するなら、それぞれで協調性を取らないと」

 紫の言葉が終わると同時に、早鬼の意識は反転していった。

 

 

 

 紫の能力によって戦える境界を広げられた博麗神社には、赤葉の魔法使い(運命を操る小瓶の出来事以降、魔理沙はその髪と瞳の色からこう呼ばれている)と、銀色のメイドが対峙していた。

「さて、ルールは把握していますね?」

「時間短縮のため、決闘時間は二十分。境内への攻撃は極力控えること。目立った損傷があった場合、その時点で即刻試合終了、だな?」

 魔理沙が目を向けると、博麗の巫女は、コクリ、と頷いた。それは、了承と同時に、戦闘開始まで間もないことを示している。

「それでは——始め」

 言葉の刹那、金と銀の弾丸が交差した。

 

 

 魔理沙は宙を舞い、次々に繰り出される銀色のナイフを躱す。直線上に放たれる単純なそれは、意識して見切る必要がないほど単純であった。

「(妙だな——私が戦った咲夜《あいつ》は、もっとナイフの投げ方が丁寧だた筈だ)」

 その戦いに多少の違和感を覚えながらも——銀弾の隙間を掻い潜り、金色の星屑を飛ばす。星屑は鉄球のように丸々と、また、質量を兼ね備えており、咲夜の行動を制限するという役割を十分に果たしていた。

 だが、それで詰まされるほど咲夜も腕が鈍っているわけではない。鉄球が放たれる位置を予測しながら、その身を転がし、翻し——一つ一つの動作の隙間に、銀色の弾丸を放つ。

「こいつはどうかな——?」

 鉄球が移動の制限以外に効果を成さないことを見切り、魔理沙は次なる魔法の発動を準備した。新たに放たれた魔法は、食べられそうな星型の弾幕。咲夜の投げた銀色のナイフは、星の突起に弾かれ、有効打にならなくなってしまった。

「甘い——」

 だが、魔理沙の方が芸当が多いことも、長年の共闘で咲夜は心得ていた。第二次月面戦争の際、月の姉妹の妹に告げられた弱点をしっかり克服し、計算された隠し球が発動する。

「(まさか——⁉︎)」

 魔理沙が後ろを振り返った時には、もう既に遅かった。一点に集められたナイフが、魔理沙の背後から降り注ぐ。

 大きく動揺し、バランスを崩した魔理沙であったが——運も実力のうち。箒に掴まり、無理やりナイフを避けながら体勢を整え直した。

「(指摘された弱点すら克服した弾幕——レミリアのためにわざわざ命を延ばすのか? ……なんて思っていたが、私の予想は大外れみたいだな。よっぽどの理由がなきゃ、ここまで強くなろうとは思わないだろう)」

 平衡感覚を調整しながら、魔理沙は咲夜の分析を進める。疑いから始まった弾幕勝負ではあるが、なるほど、これならば成長は本物だろう——私の力云々は関係ない、咲夜自身の努力であった。

「残り何分だ——⁉︎」

 弾幕を回避しながら、博麗の巫女に問う。このタイミングでのその行動は、相手に自身の策略を伝えるも同然——無論、咲夜は魔理沙から距離をとり、迎撃の体勢を整えた。

「あと五分です!」

「……いや、そんな筈——まさか、あいつ!」

 魔理沙が動揺したのは、自身の体内時計と実際の時間が異なっていたためだ。

 咲夜がとった迎撃体勢は、魔理沙の策略を迎え撃つためのものではない——魔理沙の自滅による被害を、最小限に抑えるためだ。

 前述の通り、そのタネに魔理沙が気づいた時には、もう遅い——ミニ八卦炉からは、全身全霊の弾幕が放たれていた。

 恋符「マスタースパーク」

 勢いを増し、放つ位置の調節を間違えたその弾幕は、魔法で強化された石段すらも突き破り、博麗神社に破壊攻撃が加えられた(勿論、咲夜が威力の調節は行っている)。

「弾幕勝負、そこまで!」

 最初に設定したルールに従い、勝負の決着は咲夜の勝利に終わった。

「なっ……⁉︎」

 咲夜は、ある技《マジック》を駆使し——スペルカードを一枚も使わずに勝利を収めた。だが、いくら制限された環境下とはいえ、魔理沙は衝撃を隠しきれていない様子だ。

 咲夜のマジックのタネを説明しておこう。

 境界線で分けられた空間を利用し、その部分だけ空間を歪めたのだ。自身が速く動くことで、魔理沙は正常な時間感覚を掴めなくなり——博麗の巫女の時間感覚も同時に狂う。更に、視認できる、時間を確認できる場所の時間をそこだけ動かしたり、止めたり——そういう細かい調整を繰り返して、時間感覚を狂わせたのだという。

 人間の感覚を破壊する弾幕は、タネも仕掛けもない、究極の技だったのかもしれない。

 それを見抜いたのかどうかは不確かだが、大体何をしたのかは察したのだろう。魔理沙は、わしゃわしゃ、と頭を掻きながら境内まで戻ってきた。

「くっそ……私の知っている咲夜よりも遥かに強い気がするぞ」

「あら、それはどうも。そう言う貴方も、私の知っている魔理沙とは変わった戦い方で驚いたわ。勿論、良い意味でね」

 咲夜は右手を差し伸べた。それが意味するのは、戦いの終わりを示す握手——魔理沙は、快く受け入れた。

「……さっきは失礼な事言って悪かったな。今回だけになっちまうだろうが、ま、よろしく頼むぜ」

「えぇ、こちらこそ」

 予定されていた二十分の半分の時間で戦いを終わらせた二人は、スキマを開いて待つ境界の賢者の下へと向かっていった。

 

 

 

 一方その頃、紅魔館にて。

「咲夜もパチェもいない——それに、一体何? ……主人である私を置いてどこかへ去った上、大図書館もこの有様とは——」

 先ほどまで耳に響いていた爆音や誰かの声は、まるでいつかの血を思い出させるようで耳障りだったのだが——今となっては、その音は完全に消え失せ、残るのは本棚が軋み、崩れ落ちていく音のみだった。

「——そういえば」

 煙い瓦礫の山の中へ、乱雑に積み上げられた本をかき分けながら進んでいく。普段見かけない魔導書などが隠し本棚から出てきたのを見て、自身も一冊、勝手にある物を隠していることを思い出したのだ。

「この崩れ方なら——ああ、この本棚かな」

 不幸中の幸い(?)、レミリアが隠していた本棚は倒れただけで、ほぼ無傷のままだった。

 こっそり隠し持っていた鍵を懐から取り出し、古びた鍵穴に差し込む。ギギィ、と、本棚の隠し引き出しが軋む音。それを乗り越えると、バコッ、と、引き出しが丸々外れる音がした。中に入ったパチェの書物をそのまま退かし、引き出しの底板を外す。

「お前は相変わらずだな」

 その中から出てきたのは、古びた本の下に隠れる真っ赤な手帳。いつ隠したものかは覚えていないが、咲夜と出会うよりも前の、過去の思い出を仕舞うためのもの——。

 手帳は皮でできており、ちょっとやそっとの衝撃では傷がつかないような頑丈なものになっている。真っ赤、と表現したが——赤ではなく、まるで紅——言うなれば、深紅。深紅の表紙に、それを囲う金色の縁。見ていれば見ているほどに魅入られてしまいそうな、謎の魔力を感じるものだった。

「あの日の私め、なんてところに」

 昔の自分に苦笑を浮かべながら、その日記と鍵を懐に仕舞い込んだ。鍵はまだ自分で持っている方がいい、という選択だろう。中身を見るのは、また後で。

 本を退け、ふぅ、と溜め息をつくと——背後から、レーザー弾の気配を感じた。パチュリーか? 瞬時に出された予測はそれであったが、パチュリーのものであれば、もっと細く、緻密なものになる筈——よってこれは不適。他にこのタイプのレーザー弾を使う者はいない——記憶の中が空白であるのを確認したレミリアは、パチュリーの財産を守るため、紅い槍を生成し、レーザー目掛けて放つのだった。

「——ここを破壊したのは、貴方たちね?」

 煙の晴れた先に映るのは。