押し入れにて

昨晩、押し入れの中でまったりとし

ているサビを観察していると、

私とサビの間を1匹のゴキブリが

通過した。　6本の足をせわしなく

動かすゴキブリを無言で見つめる

サビと私。　直進するゴキブリの前

には壁がある。　ゴキブリはどうす

るのだろうか。　見ていると、ゴキ

ブリはそのまま直進し、まるで重力

を無視するかのように壁を走りはじ

めた。　

おお！　となるサビと私。　ゴキブ

リが壁を這うのは当たり前の光景

だが、あらためて見ると、何だか

不思議に思えてくる。　地べたを走

っていて、そのまま速度を変えず

垂直にそびえる壁を走る。　どうい

う感覚なのだろうか。　体の重さは

感じているのだろうか。　そもそも

壁という概念はあるのか。

ああ、私も一度でいいからあのよう

に歩き回ってみたい。　ゴキブリに

なりたいとは思わないが・・・。

どう？　どう？　と言わんばかりに

縦横無尽に壁を駆け回るゴキブリ

を、少々羨望の眼差しでその後も

無言で見つめるサビと私。