私は昔、テレビの深夜放送が終わると流れる、ライブカメラ映像をよく見てい
た。 テレビ局の屋上などに設置されている定点カメラで、高速道路などを延々
と映している映像である。
高速道路を映している局が多かったが、一般道を映している局もあり、根が暗
いためか、きらびやかな高速道路より、ひっそりとした一般道の方を好んで見て
いた。
寝つけない夜など、テレビのみが点いている薄暗い部屋で、横になりながらラ
イブカメラ映像を眺める。 映像には、まるで静止画のような閑散とした道路。
時折通る車にハッとし、あの車を運転している人は、たった今、車を運転して、あ
の道路を走行しているのだな、あの人と私は同じ時間軸に存在するのだな、など
と、当然のことが妙に意識され、その当然のことが不思議に思えたりする。
深夜のライブカメラは、静寂をより深め、時に普段は考えないような不思議な思
考を私にもたらす。
そんなある日の事。 その日も、なかなか寝つけず私は薄暗い部屋でライブカメ
ラの映像を眺めていた。 今、突然このまま映像の場所に瞬間移動をしてしまった
ら、まずどうするか・・・、などと考えていると、一台の車がスルスルと滑るように画
面に現れ、道路脇に停車した。 周りにはコンビニなどの店は無く、なぜそのような
場所に止まるのかと不思議に思って見ていると、運転席のドアが開き、男が車から
出てきた。 男はひとりであった。 そして何をするでもなく車の傍らに突っ立ってい
る。 私は固唾を飲みテレビの画面を凝視した。 すると次の瞬間、
なんと突然、男が踊りだした。 驚いた私は身を起こし画面に顔を近づけた。 深
夜の人気のない道路で男が不思議な踊りを踊っている。 私は混乱した。 なぜ、
見ている者もいない閑散とした道路で突然踊りだすのか。 そして、そもそも、なぜ
そのような場所に車を止めたのか・・・。
いや、見ている者はいる。 私だ。 他にも深夜のライブカメラが好きで見ている
者はいるだろう。 これは私の憶測だが、道路で踊っている男もライブカメラが好き
で見ていたが、好きという気持ちが大きくなりすぎて、自分がライブカメラに映りたく
なってしまったのではないだろうか。 そして不思議な踊りは我々ライブカメラ愛好
家たちへの、見てるかー！ というアピールダンスなのではないか。 男が一度もカ
メラ側には向かず、背を向けて踊っていることからも、そのように思う。
男は、ひとしきり踊ると再び車に乗り込み、静かに画面外へと消えていった。 や
りきったのであろう。
眠れない暇な夜のひと時に、若干の刺激を与えてくれた出来事であった。 そして、
私は、ますます眠れなくなるのであった。
亀久
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