霧雨 | もうすこし、生きてみようじゃないか・・・
 思い込みというのは怖いものである。



 僕はなぜか、かなり以前から自分は辛い物は得意だと思い込んでいた。



 数年前、大手カレーチェーン店に入ったときのこと。 僕は迷うことなく、その店の一番辛



いランクのカレーを注文し、トッピングはホタテを選んだ。



 程無くして僕の前にカレーが運ばれてきた。 見た目は普通のカレーとさして変わりはな



い。 僕はおもむろにスプーンでカレーをすくい、口の中に入れた。 と、次の瞬間、物凄い



刺激が口の中一杯に広がった。 辛いというよりは痛く、口の中がヒリヒリした。





 ホタテの味もまったくわからず、ホタテのような食感の物が口の中で ムニュムニュ して



いるだけであった。



 (あぁ・・・俺が甘かった・・・)



辛い物は得意だという僕の自信は、あっけなく崩れ去り、それがただの思い込みであった



ことが少々ショックだった。 残そうかとも思ったが、僕は食べ物を残すのが嫌いなので、



がんばって完食した。 量を普通サイズにしていたのが救いであった。



 食後、水をがぶ飲みしていると、僕の左の方向から、はぁ~ というすごく重いため息が聞



こえてきた。 見ると、若者が巨大な物体の前で青ざめている。



 巨大な物体とはカレーで、今はどうかわからないが、当時、そのカレーチェーン店では、



驚くような巨大カレーがあり、それを二十分以内に完食すれば無料というチャレンジメニ



ューをやっていた。 恐らく、その若者もチャレンジしていたに違いないのだが、半分ほど



食べたところでスプーンが止まり、リタイヤ寸前であった。





 その若者も、自分が大食いだと思い込んでいたのであろうか。



 僕は席を立ち、店員に金を払い店を出た。 外に出ると霧雨が降っていた。 激辛カレー



で火照った顔に、その霧のようにこまかい雨が心地好かった。





                                                  亀久



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