おり、その車両には親子連れと僕の三人だけであった。
(怖そうな人だな・・・) 僕は父親を見て思った。
父親は座席に座るなり、眉間にしわを寄せ、新聞を読みはじめた。
黒っぽいスラックスを穿き、上は白い開襟シャツ、髪は短く刈り込んでいて一昔前のヤク
ザ映画に出てきそうな風体をしていた。
外の景色を眺めている息子は、小学校の低学年のように思えた。

僕は本を読みながら、その親子を盗み見た。
恐らく家では、内職で家計を支える妻がいて、夫は働きもせず、大酒を飲んでは、ちゃぶ
台を引っくり返す。 その横で泣き叫ぶ息子・・・・。 などと勝手な妄想をしたりした。
しばらくして、外を眺めていた息子が、父親を振り向き、
「ねぇ、雲はどこへ行くの?」 と、訊いた。
(あぁ、) と、僕は思った。 僕の予想では、「やかましい!」 と、丸めた新聞で頭を叩かれ
るか、「知るか!ボケ!!」 と、怒鳴られるかのどちらかだろうと思った。 が、父親は、
「訊いてみな」 と、言った。
(えっ?) 僕は思わず声が出そうになった。 父親は続けて、
「雲に訊いてみな」 と、言った。
息子は頷くと空に向かって、
「ねぇーどこに行くのー」 「どこにいくのー」 と、大声で叫んだ。

恐らく家では、料理上手な妻がいて、夫は働き者で、仕事が終わればまっすぐ家に帰
ってくる。 その横で今日学校であった事などを嬉しそうに話す息子・・・・。 などと僕は、
大幅に妄想を修正した。
親子は目的の駅に着いたのであろう、停車した駅で降りていった。 車両には僕一人だ
けが残った。 僕は読んでいた本を閉じ、空を眺めた。 白い雲がポッカリと浮かんでいた。
亀久
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