「新しい靴は新しい場所に連れていってくれる」――その言葉を体現するように、『九龍ジェネリックロマンス』は観る者をどこか懐かしい、けれど確かに新しい場所へと連れていってくれる。
舞台は、現実と虚構、過去と未来が入り混じる「九龍城砦」の再構築された世界。ここで繰り返される日常と愛の記憶は、ゼーガペインを彷彿とさせるタイムループのように、幾度も繰り返されながら観客を巻き込んでいく。だが、そのループは決して冷たいシステムではなく、「ずーっと夏」を思わせる温度を持つ。蒸し暑さや埃の匂い、蝉の鳴き声のような記憶のざわめきが、映画全体を包み込んでいるのだ。
物語の核心にあるのは、「愛する人をどうやって失うか」、そして「その死をどうやって昇華するか」という問い。過去の喪失は避けられないものとして描かれるが、だからこそ生きること、愛することの切実さが際立つ。懐かしい風景での生活は幻想に過ぎないかもしれない。しかし、その幻想を通して「今を生きる」というリアルが立ち上がる。
本作の魅力は、ただのノスタルジーではなく、「懐かしさの中で新しい愛を紡ぎ直すこと」にある。記憶の反復を受け入れながらも、そこから抜け出す一歩を踏み出す力を描くのだ。まるで新しい靴を履いて、未知の街角へと歩き出すかのように。
『九龍ジェネリックロマンス』は、過去を抱きしめながら未来へと進むための映画であり、愛する人を失ったすべての人に捧げられた、やさしくも力強いラブストーリーである。
――ずっと続く夏の中で、私たちはまた「誰かを愛すること」を選び直すのだ。