牛島 信『あの男の正体(ハラワタ)』★
デビュー以来、企業法律小説で作家としての地歩を固めた著者による新作。11年1月11日から13年2月25日まで日経ビジネスオンラインに月1回のペースで連載した同名タイトルを大幅に修正した。
売上高2000億円のアパレル商社を舞台に繰り広げられる派閥の暗闘あり、社内恋愛ありだが、ブランドビジネスの内実やM&Aの実態、人事改革など著者が得意とする企業法務関連のエピソードが盛り込まれた意欲作。
流れるテーマは、100年前に書かれた漱石『こころ』の「先生」と「私」が、現代の企業社会を舞台にすれば、どうなるか、というもの。主人公の「あの男」が「私」、「先生」が先代社長・南川、南川の愛人・古堂房江が「先生の奥さん」。この三角関係がドラマの軸になる。
全然おもんない
植松 三十里『愛加那と西郷』★★★★☆
薩摩藩から奄美大島へ送られてきた西郷隆盛。不遇な身の上の西郷を世話することになった愛加那。お互いの文化の違いから当初は反発し合うが、やがて愛し合うようになり、愛加那は西郷の“島妻”となる。二人の子供にも恵まれるが、愛加那は国のために活躍する人物だと信じて、再び藩から呼び出しを受けた西郷を見送った。そして、島にいるだけの人生を送って欲しくないという思いから、子供たちも鹿児島の西郷の元へと送り出した。
しかし、時代の激動が西郷と子供を襲う。西南戦争で、西郷は首謀者として先頭に立ち、最後は自決。参戦した息子の菊次郎は右足を切断して、愛加那のところへ帰ってきた。そして、鹿児島へ陳情に行った奄美の男たちの多くが戦争に参加して亡くなっていた。一転して、奄美の人から後ろ指をさされることになった愛加那だったが……。
生涯奄美大島を離れず西郷を信じた、愛加那を描いた恋愛歴史小説。
待望の文庫化。
西郷の人となりを読んだのははじめてだったので、
今までのイメージとは違った。
植松美十里は日陰の女性にスポットを当てるのがうまい
森健『小倉昌男 祈りと経営』★★★★★
ヤマト「宅急便の父」が胸に秘めていた思い
2005年6月に亡くなったヤマト運輸元社長・小倉昌男。
「宅急便」の生みの親であり、ビジネス界不朽のロングセラー『小倉昌男 経営学』の著者として知られる名経営者は、現役引退後、私財46億円を投じて「ヤマト福祉財団」を創設、障害者福祉に晩年を捧げた。しかし、なぜ多額の私財を投じたのか、その理由は何も語られていなかった。取材を進めると、小倉は現役時代から「ある問題」で葛藤を抱え、それが福祉事業に乗り出した背景にあったことがわかってきた――。
著者は丹念な取材で、これまで全く描かれてこなかった伝説の経営者の人物像に迫った。驚きのラストまで、息をつかせない展開。第22回小学館ノンフィクション大賞で、賞の歴史上初めて選考委員全員が満点をつけた大賞受賞作。
文中にもあったが、
行政と戦う社長のイメージで
怖いと思っていた。
小竹正人『空に住む』★★☆
両親の突然の死により、愛猫とともに都心の高層マンションの住人となった主人公・直実。そこはまるで“空”に住んでいるかのような、浮遊感と非現実感を味わわせる不思議な空間だったーー。
抱えてしまった大きな喪失感を埋めるように、偶然、言葉を交わした同じマンションに住む有名人と逢瀬を重ねる。実らぬ恋と知りながら黒い情交の深みにはまっていく一方、かけがえのない存在だった愛猫のハナが難病のため死に至る。
虚脱感、自責の念、自暴自棄、自己嫌悪・・・・・・。さまざまな感情が交錯し、徐々に壊れていく直美。その荒んだ暮らしを立ち直らせたのは、彼女をマンションに呼び寄せた親族、そして友人の、献身的な励ましと愛だったーー。彼らに助けられ、いつしか自分を取り戻す直実。
そして今も“空”に住んでいる。心穏やかに、地に足のついた暮らし方で。
“人は、人によってしか救われない”。
誰にでも起こりうる現代的テーマを孕んだ、喪失と再生の物語ーー。
ウムー・・・









