カクザンは初心者の方に「四間飛車」の指し方を指導することが多いです。「四間飛車」は奥が深く、そんなに簡単な戦法ではないのですが、序盤の駒組が比較的覚えやすく、かつ、「ミノ囲い」が堅くて優秀な囲いであるため、初心者の方にオススメしています。
この「ミノ囲い」なのですが、「玉」側の「ハシ歩」を突くのと突かないのと、どちらが良いのかという問題があります。「振り飛車」側からこの「ハシ歩」を突いた場合、相手も突いてくるのか、あるいは手抜いて他の手を指してくるのか、そういうことを考える必要が出てきます。また、相手の方から先に「ハシ歩」を突いてきた場合、「振り飛車」側はこれを受けるべきか、それとも手抜いて他の手を指すべきかを考える必要があります。
このように「ハシ歩」の対応は意外に難しいのです。プロやアマ高段者はそういうところを色々と比較検討して、指し手を選んできます。しかし、ほとんどのアマチュアの方にとって、それは非常に難しいのも事実です。そこで、カクザンは「ハシ歩」は相手が突いてきたら、その時に必ず受ける(すなわち自分も「ハシ歩」を突く)ように指導しています。これは、故・大山康晴名人の教えでもあります。大山名人は多数の本を遺されていますが、「ハシ歩は受けよ」という言葉がよく出てきます。その理由は、「損のない手だから」というのです。これは初心者にはとても納得しやすい説明かと思います。「損するかもしれない手」なら考える必要がありますが、「損のない手」だから指しておこうという理屈です。
「ハシ歩」を突くかどうかは何分くらい考えれば結論が出るというものではなく、場合によってはプロが1時間考えても分からない可能性があるくらい難しい問題なのです。ところが、「損のない手」だから「ハシ歩」は受けておこうと。これなら一瞬で指し手の選択は終了します。一瞬ということは、この「ハシ歩は受けよ」は何も考えずに、すなわち直感で指すことができる一手ということができます。そういう意味で、カクザンはこれも「大局観」と言えるのではないかと思います。
カクザンは50代以降の大山名人の記憶しかないのですが、その頃の大山名人はテレビ対局などでも、深く考えているような印象がなく、パッパッと、決断良く指し手を進めていく印象がありました。そして、決して急所を外しません。「ハシ歩」も大体ノータイムで受けていた記憶があります。「大局観」が大変に優れていたのでしょう。「ハシ歩は受けよ」は大山名人の「大局観」に基づいた格言といえるのかもしれません。
以下、つづく・・・。