吉福さんってどんな人?
僕がセラピーを学ぶ上でもっとも大きな影響を受けたのが
吉福伸逸(よしふく・しんいち)さんという方です。
吉福さんは心理療法のセラピストであり、また著述家、
翻訳家などとしても知られています。
さまざまな思想家についての著作があり、
またそれら著作者と対談もされているため、
吉福さん自身が「思想家」といっていいのかもしれません。
もう少し詳しくご紹介すると、
吉福さんは実は1970年代に、ニューエイジとかニューサイエンス、
トランスパーソナル心理学といった、今ではごく当たり前のように
普及している学問分野の情報を、最初に日本へもたらした方なのです。
しかも、そうした新しい潮流を生み出した著者たちの本を、
これまでになんと100冊以上も翻訳されています。
こうした分野の本は、ただでさえ難解な上、
英語から日本語への置き換えも非常に難しいはずなのですが、
それを100冊以上も翻訳されているとは、もうただただ驚くばかりです。
実際、僕がなにかちょっと昔の重要な文献を当たろうと考えて
その本を手にすると、訳者がちゃっかり吉福さんだったりして、
「うわあ、こんなものも吉福さんが訳してたのか!」と、
うならされてしまうことがたびたびあります。
ですから現在日本で、心理療法、ボディワーク、スピリチュアリティ、
エコロジー、ホリスティック医療といった分野で第一人者として
活躍している方々の多くは、1980年代に吉福さんの影響を直接、
強く受けていると言えるでしょう。
これらの分野で吉福さんのことを知らない人はまずいないというほど
著名なのですが、なぜか日本では一般に広くは知られていません。
僕が「吉福さんは・・・」という話をするときも、かなりの確率で
「吉福さんって誰ですか?」という質問が出てきます。
これはなぜか? 実は吉福さんが日本で活躍されていたのは
1989年以前のことで、それ以降はハワイに移住して
しまわれたからです。
それも、自分がそうした分野の第一人者として祭り上げられたり
しないように・・・との考えから、意図的に移住されてしまったからです。
話は遡りますが、1970年代当時、吉福さんはアメリカ西海岸で
起っていたムーブメントの真っ只中にいたそうです。
つまりニューエイジ、ニューサイエンス、トランスパーソナル心理学などが
できあがっていく胎動期の中心にいて、吉福さん自身も模索と実験を試みていたそうです。
そして帰国後、自分がアメリカで体験したこと、
つまり自分が自己変容した背景全体をできるだけ
日本に伝えようとしたと言います。
その伝え方というのが、吉福さんのことなので、
またふつうではなく、極めてユニークな方法でした。
たとえば帰国子女たちで翻訳者チームを作って、
ニューサイエンス、ニューエイジ、心理療法などの翻訳を
何冊も同時進行で行わせていたそうです。
また吉福さん自身も、特にトランスパーソナル心理学について
翻訳を手がけていたそうですが、「翻訳を自分がするにしても
任せるにしても、まずは直接、著者本人に会ってその人物の
人となりを理解してからでないと翻訳そのものをしない」
という考えのもとに翻訳をしていたのだそうです。
ということはつまり、ラム・ダス、D・ボーム、
フリッチョフ・カプラ、フランシスコ・ヴァレラ、
ケンウィルバーといったそうそうたる「知の巨人」達と直に会って、
膝を交えながら、インタビューや考えの交換をしていたことになります。
すごいです。
しかもその中でもフリッチョフ・カプラ、ケンウィルバーなどは
今でも家族ぐるみの付き合いをしている仲だそうで、
そんな話を聞くたびに「この人ってほんとにスゲーな!」と
感嘆させられてしまいます。
これほどそうそうたる活動履歴のある人なのに、では見た目はというと・・・
いかにも聖人っぽい超然とした感じはありません。
かといって俗っぽい感じもまったくない。
一見するとふつうのすごく日焼けしたおっさんです(笑)。
ですが、いざ相対してコミュニケーションを取ると、
心がとてもオープンで、そしておそろしく
肚の座った人だということが感じられます。
質問なんかをうかつにすると、
その質問次第ではちょっと怖くもなります(笑)。
なぜかというと、質問の内容だけではなく、
質問を発したこちら側の声や雰囲気、態度といった
「在り様」を重視されているようで、
こちらのその「在り様」によっては、
さらりとスルーされてしまったり、
突っ込まれてしまったり、
逆に思わぬ深い答えが返ってきたりするからです。
そういう意味では、かなり対するのが手ごわい相手です(笑)。
僕が吉福さんと最初に出会ったのは、確か1976年頃のことです。
帰国していた吉福さんがサンスクリット語を教えるということで
、半年ばかり習ったのが最初でした。
でも当時はそれきりで、次に会ったのはもう2004年になってのことです。
吉福さんが日本でセラピーワークを行っているという情報を聞きつけ、
それに参加したときになります。
そこで通称「吉福ワーク」と呼ばれる彼のセラピーを受けていくうちに、
本格的に興味を持ちはじめ、吉福さんから学ばせてもらうようになってから、
現在に至っています。
さて、とにかく吉福さんに直接会った人は、
彼の人間に対する深い洞察に感銘を受けるのですが、
そういう吉福さんについてもっと詳しく知りたいという方は、
吉福さんが手がけた本を読まれることをお薦めします。
以下に、数ある著書、翻訳書の中から、僕が読みやすいと
思ったものをいくつか紹介しておきますので、参考にしてください。
●「楽園瞑想」
リラックスした雰囲気の中での対談集です。吉福さんの日常や物事のとらえ方など、人となりが伝わります。
●「トランスパーソナル・セラピー入門」
トランスパーソナル・セラピーについての歴史的背景と発展の流れ、その登場人物が時系列で解説されている本本です。語り調なので読みやすいです。
●「トランスパーソナルとは何か」
トランスパーソナル・セラピーの発展に関わった人、そして発展の過程で影響を与えた宗教家などについて、吉福さんから見た人物像と、彼らが果たした役割について語っています。これ一冊であなたもトラパ通?!
●「無境界」
トランスパーソナル心理学の理論家であるケン・ウィルバーの数ある書籍の中でも読みやすい本だと思います。(特に後半)
●「アートマンプロジェクト」
ケン・ウィルバーの本。「無境界」の後に読むと理解しやすいかも、との声が多いです。
西洋の心理学と東洋の宗教、神秘思想の伝統を統合して「誕生~個の確立~個を越える」という精神発達のサイクルを解明しようとする試みの本、ちょっと手ごわいかも。
●「A.ミンデル ユング心理学の新たな発展」(1989 山王出版)
二部がアーノルド・ミンデルと吉福さんの対談になっています。69ページと薄い本ですが、日本に紹介される直前の、当時のミンデルの雰囲気がよく伝わってきます。
覚技研究会 新海正彦