統合失調症のケアで試されているのはセラピストのあり方
僕は時々、統合失調症と呼ばれている方のケアをすることがあります。
といっても僕は精神科医ではありませんから、個人的な知り合い関係の
方からSOSがきたときだけ手助けに行くという範囲に限られています。
僕の場合は、ケアの場では、統合失調症を「スピリチュアル・
エマージェンシー状態」ととらえる対応法を採っています。
僕が受けて来たのがそういうトレーニングだからです。
それはどういう対応法かというと、統合失調症の人を
「病人で、変になっちゃった人」ととらえるのではなく、
「この人は人生の転機など、自分の世界観が変わるときに
起こる現象を今、経験しているところなのだ」ととらえる方法です。
もっと平たく言えば、その人は何かしらの必然性があって
今現在そういう状態を過渡的に経験しているのであって、
その過程が過ぎれば、社会生活に接点を持つことができる状態になる・・・
という観点から、対応していくものです。
(*詳しくは高岡よし子さん翻訳の「スピリチュアル・エマージェンシー」
という良書があるので、ご興味のある方はそちらを参考にしてください。)
具体的に、ではどういう対処法をするのかというと、
それは本当にもうケースバイケースなので、ここでは書きません。
しかしそこで僕は、いつでも必ず、ある一つの態度を貫き通すことを決めています。
「この人はいつか必ず本人の力でこちらの世界へ戻ってくる」ということを
信じているのです。
「この人はもうずっと一生このままで治らない」とは僕は思っていません。
そもそも統合失調症にみられる混乱した現象は、
その人だけに起った特別な現象ではなく、大なり小なり
わたし達の誰にでも起こりうる現象だと考えているのです。
ところで、よく幻聴を訴える人の対応の仕方で、次のような場面がみられます。
「あの○○○、聴こえますか?」
「あなたには聴こえているんだから本当なんだろうね。私には聴こえないけど」
と返答する場面です。
この返答は、まず相手の感じていることをちゃんと肯定し、
しかも自分に正直でいる言い方ですね。
ところが、これが必ずしも統合失調症の人に通用するとは限りません。
統合失調症の人には感覚がとてつもなく鋭敏になっている人が多く、
こちら側のちょっとしたためらいや、感情のブレや、ウソや、
ちょっとした本音と建て前のズレなどがあると、それら敏感に感じ取って、
「ふざけるな!」「オレのことを信じていないだろう!」などと
逆に相手を激昂させてしまったりします。
(これは一例にすぎません。ひとそれぞれ、さまざまな表現方法をとります)
これは統合失調症の方と応対する場面で、本当によくみられるやり取りです。
ということは、こちらが何を言うかより、どういう態度でそれを言うか、
どういう態度で一緒に存在しているか・・・ということのほうが、
むしろ大事なポイントになるのではないかと思います。
ということはつまり、誤解を恐れずに言えば、
統合失調症の方のケアをしているのと同時に、
ケアするこちらの真摯なアウェアネスが
試されているということにもなるでしょう。
その意味では、ケアをする僕達セラピスト側に
とっても貴重な体験ということになります。
ですから僕は、統合失調症の方と対面しているときは、
自分自身の中で起こっているさまざまなイメージや刻々と
変化する感情を注意深く観察し、できる限り自分に正直に
いることを大切にしています。
そしてそのためには、あまりあれこれ思考を働かせない
状態でいることも大事だなと感じています。
(これがなかなか難しいんですね)
ちなみに、ずっと以前から、統合失調症をこのように
スピリチュアル・エマージェンシーととらたケアを
行っている団体が日本にはあります。
スピリチュアル・エマージェンス・ネットワーク・ジャパン(SEN Japan)
という団体がそれで、2009年からは名称が新しく「TEN」と変わりました。
TENとは「Transitional(移行の) Emergency(危機) Network」の
頭文字を取ったものです。
向後善之さんというベテラン・セラピストの方が主宰しています。
この改名は、現在スピリチュアルという言葉が蔓延し、
SENが本来的に伝えたいことが伝えたい人たちに
伝わらなくなってきたために行ったのだそうです。
詳しくはコチラのホームページにありますので、
このアプローチ法に興味がある方は、どうぞコチラをご覧ください。
ちなみに僕は吉福伸逸さんという方から対応のトレーニングを受けました。
覚技研究会 新海正彦